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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第1幕 肉食女子編。 〜明かされていく妄想と真実〜

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混沌と幸せな空気





「くっそ、魔族め、早くも動き出したな」


 神シロが唇を噛む。


「あなた、このままではあの子たちが……」


 神シロの妻、女神東雲も慌てた素振りを見せる。


「ふぅ、危なかった。 確実に狙われているな」


 黒銀の目の友こと、トランザニヤが額の汗を拭う。


「とにかく気を配らねばならん」


「まだ、合流してない末裔もいるからな」


 トランザニヤの言葉に、神々は緊張した面持ちで下界を眺めた。





 ーーその頃、ゴクトーたちは無言の中、宿屋『帰巣』へと辿り着いた。

 




 

◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇





「帰って来た。良かったわん……

 っえ!? どうしちゃったの? アリーちゃんよねん?」


 食堂に入ったその瞬間、パメラが目を丸くしながら声を上げた。

 一方、気まずかったのか、安心したようにミーアは小さくつぶやく。


「良かった」


 その顔は朱に染まっていた。


 そんな中、ノビは無言で目を丸くしながら口をぱくぱく動かす。

 アリーの変わりっぷりに声も出ないようだ。


 小さく囁くエルフを一瞥、アカリが足を止めさりげなく問う。


「……どなたかしら?」


 そう言う彼女の口調はいつもの冷静さを取り戻していた。

 

 アカリは宿までの道中、無言を貫いていた。

 だが、俺の心読スキルにひしひしと伝わってきたアカリの心中の言葉。


(アリーの異変、刻の捩れ、魔族……宿敵の末裔って何のこと? 一体、私たちに何が起きてると言うの?)

 

 きっとアリーの異変についても、気になって仕方なかったはずだ。

 食堂に戻った俺は、起きたことを詳細に話し始めた。


「実はな……」


 起きたことを仲間たちに伝える。


 話し終えると同時に、パメラは納得いかない様子。


「水臭いじゃないゴクちゃん。一人で行くなんて!」


 その言葉は俺の心の奥にずっしりと響く。


 だが、あの時もし駆け出していなかったら……

 きっと3人はもっと、危険な目に遭ってたよな。

 

 思考を逡巡させながら、心中ではパメラの気持ちも察していた。


 話を聞いていたノビも鼻息を荒くする。

 だが、ノビは珍しくまるで、空気を読んだかのように言葉を押し留めていた。


 いや……なんか、みんな落ち込んでいると言うかーー

 ギクシャクしてないか?


 テーブルを囲んで座る仲間たちの顔を見ながら、漂う空気の重さを感じていた。 

 ミーアのお茶を啜る音だけが食堂に広がる。

 沈黙の中、ジュリが口火を切った。


「ねぇ、へんダー、このアリーの変化どう思う?」


 そう言って彼女は眉をしかめる。

 俺はアリーを一瞥し、彼女の変化に戸惑いながら尋ねる。


 「アリー、身体に痛みがあったりするのか?」


 その問いにアリーは胸を押さえ、どこか不安げな表情で答えた。


 「べちゅに、今のところは、にゃにも……でも、なんか胸がざわざわするにょ」


 彼女はうつむきながら、そっと自分の胸元を押さえる。

 急に身体が成長したせいで、衣服が合わなくなっているのは明らかだ。


 だが、それ以上に、彼女のメタリックブルーの瞳には一瞬、どこか遠いものを見るような影が宿っていた。


 「ざわざわって……何か、変な感じか?」


 俺は思わず聞き返す。

 だがアリーはコクンと小さく頷くだけだった。


 俺は突然現れたーー魔族の襲撃について思慮を巡らせていた。

 そんな俺を他所にジュリがすっと立ち上がった。


「アリー、わたしの服に着替えましょ。とりあえず、落ち着いて話せるようにね」


「ありがとにゃ……」


 アリーは垂れ耳を下げ、ジュリとアカリに付き添われて大部屋に戻っていく。


 魔族の言い残した捨て台詞が頭をよぎる。


『覚えておけ、古の末裔ども。この刻の捩れをな……』


 脳裏に、紫光に包まれたアリーの姿がフラッシュバックする。


 古の末裔どもーーあの言葉の意味はなんだ?


 ふと師匠の言葉も蘇る。


『ゴクトー、オレとしたことが、どうやら”ねじれ”に引っかかったらしい。

 はっはははは。すまん』


 失踪した師匠は、”口蘇らせの魔法”でそう言い残していた。

 刻の捩れーー師匠と魔族も何か深い関係があるのかもしれん。


 俺は彼女たちの背中を見ながら、胸に引っかかる違和感を拭えなかった。

 


「ダー様、あの魔族の言葉、覚えてます?」


 アカリが振り返り、鋭い目で俺を見つめる。


「『刻の捩れ』……だったか?」


「ええ。その『捩れ』がアリーに何かをした可能性がありますわ。

 早く調べないと」


 アカリの声には、仲間を守る強い決意が込められていた。

 

 

 


 ***



 気まずい雰囲気の中、アリーが食堂に戻ってきた。


 そして彼女は、どこか恥ずかしそうに尋ねる。


「ゴクにぃ、僕にょのこの格好、どうかにゃ?」


 モフモフのついた黒いレザージャケットを肩に通しながら、膝にプロテクターがついた黒いブーツをコツコツと鳴らす。


 銀のチューブトップが食堂の照明に反射してキラキラと光っていた。

 そのレザーパンツの姿は元気そのものだった。


 挿絵(By みてみん)

(*アリーのイラスト)


「似合ってるよ。アリー」


 俺の言葉にアリーは尻尾をフリフリさせて、満面の笑みを浮かべた。


 ……良かった。

 身体の成長は気になってないみたいだ。

 多分、アカリとジュリが相当、気を遣ったのだろう。

 アリーの態度を見れば察しが付く。


 ……しかし、急に女の子から……大人びたな。

 

 俺は思いながらアリーから目を逸らした。


 

 3人が席につき、視線が自然とミーアに集中する。

 アカリ、ジュリ、アリーも見慣れないミーアにどこか遠慮がち。


「……あなた、お名前は?」


 アカリは冷静に尋ねるが、わずかな緊張が声に滲んでいた。


「ミーアだ」


 俺が答えた。


 一方、ジュリがチラリとミーアを見て、少し不安げな表情を浮かべる。


「……凄く綺麗な方ね」


 その言葉の裏には複雑な感情があった。

 俺はジュリの気持ちをスキルで察した。

 たまにこのスキルが恨めしく感じる。


 一方で、アリーは純粋に喜んでいた。


「綺麗な人にゃね!仲良くしたいにゃ!」


 その無邪気な反応に、ジュリはわずかに肩を落とす。


(やっぱり……へんダーの好みって、ボリュームの大きい人なのかな……)


 ジュリはうつむきながら、内心思っていた。


 おい、それは俺の好みでは……なくもない。

 ……ってか、そんなふうに思われてたのか。

 逆に凹む。


 俺はミーアを仲間にした理由を説明した。

 

 ふと思いたったのか、アカリが頷きながら口を動かす。


「まぁ、人数が多い方が安心ですものね」


 そう言って彼女が再びミーアをチラリと見る。


「でも、かなり大きいし、あの落ち着き…ダー様の好みに近いんじゃないかしら…」


 そう早口で言いながら目をふせる。


「っえ? なんて言った?」


 その口調はあまりに早く、俺には伝わらなかった。


 一方、ジュリがどこか警戒するような声で尋ねる。


「それで、わたしたちと同じ部屋に泊まるの?」


 彼女がミーアの”特定部分”をじっと見つめていた。


「うちは姉様たちと、薬屋に住んでるから大丈夫」


 ミーアが小さな声で控えめに答える。

 その一人称ーー「うち」という言葉に少し驚いた。


 もちろん口には出さない。

 未だに緊張した空気が漂う。


 それぞれの視線はまだ、どこか落ち着かない。


 だが次の瞬間、ミーアが口元を緩める。

 彼女の手がーー俺の腕をぐいっと掴んだ。


 お、おい…!空気読んで!?

 ……いや、俺が読まなきゃなのか!?


 ミーアは俺の戸惑いなど気にも留めず、小さな声でつぶやく。


「姉様がこの人に付いてなさいって。離れたら、また迷子になるから……」


 口にした彼女の頬は、ほんのり朱に染まっていた。

 その言葉に、俺は一瞬言葉を失う。

 

 ……なるほど、姉貴の指示が効いてるのか。

 でも、この”むにゅ〜ん”は、必要以上に意識させられるだろッ!

 

 仲間たちの視線が俺の腕、そしてミーアへと集中していくのを感じる。


 いつにも増してーー混沌とした空間に縛られたまま。

 再び、誰かのお茶を啜る音が食堂に広がる。


 特にアカリの笑顔ーー凍てついて見えるのは、気のせいじゃない。

 

 絶対にだ! 断言できる。


 そう思っていた矢先、アカリが微笑を浮かべたまま、まるで氷点下三十度くらいのような”声”で尋ねる。


「……あの、ずっとそのままなのですか?」


 俺は腕を剥がそうとミーアの腕を掴んだ。


「ミーア……ちょっと、腕をだな……あの……」


「や」


 きっぱりと拒否られた。

 ミーアの声は小さくても、妙に強い意志を感じる。


 その瞬間、アカリの中で“何か”が砕ける音がした……気がする。

 彼女の視線はすっと下がり、拳をギュッと握っているのが見える。

 背後からゆらゆらと立ち上るーー怒気のような湯気。


 「わ、私のダー様を……仲良く、やっていきましょう。ね?」


 アカリがふんわりと言った。

 だが、その笑顔は完全に凍りついている。

 そんな中ジュリがフォローする。

 

「えっと……仲良くね……ってか、すごっ!」


 そう言う彼女の目は完全に、ミーアの特定部分に釘付けだった。


 しかしだ。なんでうちの仲間たちはいつもこうなる?

 仲が良いのか悪いのか……。

 

 複雑な心境とともに、周囲が殺気立っていくのがわかる。

 

 そんな中、飛び出した無邪気な発言。


「ねぇ、ゴクにぃ。ミーアちゃんとすんごい仲良しにゃね?

 さっきから、くっついてりゅけど?」


 アリーの素直すぎる疑問が、場に“トドメ”を刺した。


「な、仲良く?  いや、その、そういう意味ではなくてだな……」


「仲良しさんなんだにゃ! そっかぁ、なりゅほど」


 アリーはなぜか納得している。


 一方で、パメラは嘲笑を浮かべお茶を啜る。


「ふふふ……これは、なかなか興味深い状況ですねぇ。ねぇ、ノビ?」


「オラ、関係ないんさ! そういう火種は、ぜってぇ、近づがねぇっで決めてるんさ!」


 パメラの問いにノビは目を逸らして震えていた。

 

 だが、震えるのは俺の方だ。


 ……こ、この空気、やばすぎる……。


 視線が痛い。


 誰より、何よりーー“むにゅ〜ん”の柔らかみが、腕に重くのしかかる。


 これは確実に修羅場である。


 そんな中、場の雰囲気を変える一言が俺を救う。

 「ふふん」と鼻を鳴らし、横目で一瞥するパメラがミーアに尋ねた。


「ミーアちゃんは『狩人』のスキルがあるのよねん?

 エルフの弓って、矢に魔力を込められるって聞いたことがあるのだけれど……

 それって、本当なのかしらん?」


 その口調はいつもの調子。


 ……パメラ、助かったよ。

 だが、妙に和やかじゃないか……。

 

 内心空気が変わってほっとする。

 

 俺の腕をさっと離し、ミーアが小さな声で答えた。


「矢に少し魔力を乗せて放つことができます。えっと、遠くからの支援が得意なので……多分中衛か、後衛が合ってると思います」


 その控えめな小さな声にアリーがパッと反応する。


「凄いにゃ!僕の魔導銃とかわりにゃいね!」


 垂れ耳をピンと立て嬉しそうに言うアリーに、ミーアが少し照れる。


「ハゴネには何度も行ったことがあるので……その、道案内ぐらいはきっと大丈夫です」


 ミーアの答えはしっかりしていた。

 

 初対面の時は……もう少し、ぎこちなかったけど……。

 馴染むのも早い。その心配は要らなそうだな。

 

 思いを馳る俺を他所に、ジュリがミーアの特定部分を指差し口を挟んだ。


「それっ! 凄っい大きいーー! へんダーも嬉しいでしょ!」


 その発言に周囲が一瞬静まり返る。


 ……っえ?  “戦力”の話だよな?

 いや、だよな……?


 俺をチラリと見てから、しょんぼりと肩を落とすジュリ。


 すると、アカリが場を仕切るように口を開いた。


「うちのダー様と私が前衛でうまくやるわ、

 ジュリとアリーとミーアさんが中衛、

 パメラさんとノビが後衛。良いバランスね」


 アカリは堂々と話を進めているが、内心は違うのだろう。

 ほんの少し頬が緩んでいる。


 その発言に心が揺れる。


 いやいや、それって、もうほぼ宣言……。

 デス姉さんや、そういうの、バレてますけども……!


 そう思っていたのも束の間、空気が読まない男が口を開く。


 突然、喜びを爆発させたようにノビが声を上げる。


 「オラ……後衛で嬉じいんさっ!」


「貴様はオマケだ──っ!!」


 すかさずパメラが一喝。

 もちろんノビの顔は「ケロッ」と。


 はい、出ました。ケロッと劇場。

 これぞ『恒例行事』……。


 思わず”ニタリ”としながら口を開く。


「俺はその、アカリに賛成だけど、みんなはどうだ?」


「良いにゃ!」


 アリーが垂れ耳をはためかせ、パタパタと拍手する。


「任せてくださいませ!」


 アカリは力強く"ボイン”と胸を叩く。


「ゴクちゃんが、決めたのならいいわよん」


 パメラも『爆弾(ダイナマイト)』をーー。


「パメラ、揺らすな!」


「わかってるわよん」


 俺の言葉にパメラが拗ね、キッと睨む。


 一方、ジュリがポツリ。


「大きいっていいな……ちぇ」


 ジュリは”自分の”を覗きこんでいた。


 話に追いつこうとノビが"サイン”を出しながら「しだっけ、おーげー!」となぜか格好をつける。


 仲間たちの反応を聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。


 ……良かった。

 勝手に決めたけど、なんとかなったな……。


 ひしひしと嬉しさが俺の顔に滲み出る。


 そんな俺にジュリがゆっくりと歩み寄ってくる。

 顔もほんのり朱い。


「へ、へんダーに、これ……」


 そう言って、『万能巾着』から布油紙袋を差し出した。


「なんだ? これ?」


 「お礼……!」


 顔が真っ赤になるジュリ。


 お、お礼? 俺に?

 そんな、急に、そんなの渡されたら……。


 緊張して袋を受け取り、中身を確認。


 すると、喜びが一気に溢れ出した。


 「ありはっとぅ!」


 嬉しすぎて、声が裏返ってしまった。


 次の瞬間、全員が「ゲラゲラ」と笑い出す。


 一方で、顔を伏せて俺は慌てて、『アイテムボックス』に袋を押し込む。


 プレゼントか……。

 懐かしい。こういうのって、

 サンタから貰うもんなんだよな。


 孤児院で育った俺は、プレゼントなんてサンタにしかもらえないーーずっとそう思っていた。


 そっと深呼吸する。

 仲間たちが笑いながらそれぞれ言葉に出す。


「ゴクにぃ、真っ赤にゃ」


「しだっけ、ゴクどーさんも照れることあるんだ」


「ふふふ、最初にシャツを選んだのは、私ですわ」


「あら、アカリちゃんのセンス良いわねん、次はあたいも……」


「良かったぁ。へんダー喜んでくれて」


「…………うちも欲しい」


 俺は少し肩の力を抜いて、小声でつぶやいた。


「まぁ、こういう空気も悪くないよな」














 挿絵(By みてみん)


 泣いてもいいですか? 


 書き始めた頃はPV5しかなかったーー私の作品。

 諦めず作品リニューアルを決め、改稿、推敲を繰り返しました。

 私がここまで漕ぎ続けられたのは、応援してくださる諸先輩方々。

 そして読んでくださる皆様です。感謝しかありません。


 ありがとうございますm(_ _)m

 引き続き、お読みいただければ嬉しいです。楓




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