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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第1幕 肉食女子編。 〜明かされていく妄想と真実〜

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ロカベル姉妹と予言のような妄想










「おお、やっと『*マヌエルの森』の『*八支族』と絡んだの」


 神シロは口元を緩ませる。


「あなたのその顔、まるで少年のようですわよ」


 妻の女神東雲は、笑みを浮かべながら甘えるように神シロに寄り添う。

 天上の神殿が輝きを増す中、下界を注視する一人の神が振り返る。


「それは帰ってからやってくれッ! それよりゴクトーが《具現想霊》に、完璧に目覚めたかもしれん……」


 そう言って黒銀の目の友こと、トランザニヤが割って入った。


「そう、つれなく言うな黒銀の、やっとこ面白くなってきたとこなんじゃぞ」


 言いながらも神シロと女神東雲は顔を見合わせ「ぷっ」と吹き出す。

 3人の神々は微笑みながら、下界の様子を窺っていた。




 ーーその頃、ゴクトーは『ロカベルの魔法薬材と薬店』店内で、初めての経験に困惑していた。




◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇





「呼んだ?ミンシア姉様」


 現れたのは、一目でわかるほどのハイレベルな美貌を持つエルフの女性。

 十八歳ぐらいに見える。 

 

 いや、見た目では惑わされないぞ。


 エルフ 特有の長い耳に、耳飾りとレザーのチョーカー。

 緑碧色の短い髪は肩口ぐらいまで。

 美しく滑らかに流れる、透き通るような碧の瞳がこちらを見つめる。

 その視線はどこか怯えたようにも揺れ、整った顔立ちやスレンダーな体型は、まるでモデルのよう。


 彼女が歩く度、胸元がゆるっとあいたTシャツに目がいく。

 "ボヨン”と揺れる胸に慌てて視界を反らした。

 

 その瞬間、『江戸っ子鼓動』がバフンッ!と跳ねる。

 

 急に血が逆流したかのように全身に血液が巡る。

 息苦しさと、目眩。

 くらっと頭が揺れ、目も霞んでいく。

 カチッとした音が頭に響く。

 そして、俺は自分の”癖”の世界に足を踏み入れた。



 【妄想スイッチ:オン】

 

 ──ここから長い妄想です──

 

 その瞬間、俺の視界に黒銀の輝きが割り込む。 

 まるで夜空に瞬く星のような、鋭くも魅惑的な光。

 その光の中から、低く響く声が聞こえてきた。


「ゴクトー、君は面白いスキルを持ってるよなッ!」

 

 声の主は黒銀の瞳を持つ銀髪の男。その姿は半透明の影のように揺らめきながら、突然目の前に現れた。 


 ……俺と同じ色の髪と瞳だ。

 

 その男が纏う光り輝く銀のローブーー風もないのにふわりと靡き、まるで神話の物語のワンシーンのように滑らかに動く。 その表情には悪戯っぽい笑みも浮かんでいた。


「誰だッ!」 


 思わず声に出た。


「俺か? ししし、いずれ教えるさ。君の妄想はなーーちょっとばかり、類稀なスキルだ。少し特別なものを見せてやろうじゃないかッ!」

 

 そう言って銀髪の男が指をパチンと鳴らす。

 

 その瞬間、パァーーとエメラルドグリーンの光が目の前で収束し、

 まるで舞台の幕が上がるかのような、鮮やかな光景が広がった。

 

 そこは森の奥深く。 妖精たちが楽しそうに羽ばたいている。

 一際目を引く巨大な樹木。それは天を突くように、そびえ立っていた。

 周囲には小鳥の囀り、微かな小川のせせらぎまで聞こえてくる。


「これって、師匠から聞いてた……もしかしてマヌエルの森? これが世界樹なのか?」


 思わず声が漏れた。


 その大木の葉の隙間から差し込む光が、まるで万華鏡のように色とりどりの輝きを地面に投げていた。

 集まる妖精たちも、どこか気持ちよさそうにその木漏れ陽を浴びている。


 目を凝らすとその中心に、ひとりのエルフが立っていた。

 美しいプロポーションで立つ姿は、神話の絵巻から飛び出した女神かのよう。 

 彼女の髪は緑龍のように、風にそよぐたびに光の粒子がキラキラと舞い上がっていた。 

 その瞳は、薬屋の姉妹と同じ碧の輝き。

 どこか深く、森の精霊を宿したような神秘的な光を放つ。 

 

 特殊な白衣は気高さを象徴するかのようだ。

 その姿はどこか貴賓が漂う。

 まるでアニメのヒロインのように、細部まで緻密で美しい。


 おっと、これは俺の前世の記憶だったな。


 俺はしばし口を開けたまま、その美しい姿に見惚れていた。

 そんな俺を他所に銀髪の男が微笑む。


 「ゴクトー、彼女はミリネア。八支族の誇りを背負い、森の知恵と力を操る者。どうだ、気に入ったか?」 


 その声は威厳を漂わせ、森の隅まで広がっていく。

 銀髪の男の声は、まるで観客を煽るような楽しげな響きがあった。

 

 ミリネアは、ゆっくりとこちらに視線を向けた。 


「あなたが、運命の……宿命を背負う人? ふふ、面白いわ。わたくしはミリネア。宿命の血を受け継ぐものよ」


 その瞬間、時間が止まったかのようにーー彼女の唇がわずかに動き、静かな声が森全体に響き渡った。


 その声は薬屋の姉妹のものとも、どこか異なる。 

 もっと深く、妖艶で心の奥底に響くような力を持っていた。

 彼女が一歩踏み出すと、まるで森の精霊が歩き出したかのように小さな花が咲き始める。 それは魔法とも違う神秘的な光景。


 頭の中で前世の記憶が蘇り駆け抜けていく。


 ファンタジーアニメでも、見てるかのようだ。

 

 俺は目が離せず、ただそこにぼんやりと立ち尽くしていた。

 甘い香りとともにそよぐ風は、俺の髪を靡かせる。

 

 だが、その瞬間低い笑い声が再び割り込む。


 「ほぉ~、ゴクトー、鼻の下が伸びてるぞ! だがな、まだ君に会うには早いのかも知れん。もう少し、時を経てからだな……」


 銀髪の男は、再び指をパチン。



 その瞬間、ミリネアの姿が光の粒子となって溶けていく。 

 まるで神隠しにでもあったように、彼女の輪郭が柔らかく消え、森の光景も蜃気楼のようにゆっくりと薄れていく。幻でも見ているかのような光景の連続。

 

 最後に銀髪の男の声だけが残る。


 「次はもっと、面白いものを見せてやる。楽しみにしてろよ、ゴクトー!」

 


 【妄想スイッチ:オフ】

 

 ──現実に戻りました──



 

 俺は我に帰り、長い妄想から覚め意識を戻した。


「なんだったんだ? ……妄想が暴走し始めたのか?」

 

 声が出てしまうほどの違和感を抱えながら現実に戻る。 


 そんな中、綺麗なおねいさんの妹は訝しい表情で、どこか不思議そうに俺を見ていた。 


 彼女は俺の妄想癖を知らないし、ましてや銀髪の男が絡んできたなんてーー知る由もない。 


 思考を巡らせる俺を他所に、薬屋の妹は顔を覗き込む。

 

 (顔、真っ赤だ、この人。 大丈夫なのかな?)


 彼女の思いが俺に伝わる。

 それが羞恥心に拍車をかける。


 恥ずかしいな。ほんとにもうッ!

 このスキル、なんとかしてくれ!


 ーーそれが俺の心を満たした。

 思わず窓ガラスの外に目を向ける。

 

 雲ひとつない紺碧の空。

 二つの月が、ぼんやりとした薄明かりを地上に落とす。

 

 その景色を眺めながら大きく息をひとつつく。


 「いや、なんでもない! ほ、ほんと、なんでもないんだ!」


 慌てて手を振って誤魔化すが、内心ではあのミリネアの姿が、再生するように頭に焼き付いていた。

 

 どうしてくれるんだッ! 忘れられなくなっちまってる。

 ……銀髪の男め、覚えてろよ。


 現実を目の前に心中は複雑。

 思考を一旦止め、整理するように再び窓ガラスを見つめた。

 

 窓の反射でおねいさんが妹に、そっと耳打ちをしているのが映る。 

 妹はチラリとこちらを見て、小さく頷いていた。


「わかった。頑張る。ミンシア姉様」


 その声は小川のせせらぎのように静かで、耳に心地良い。

 一方の姉は、自信満々に振り返る。その瞬間豊かなバストがプルン。


「坊や〜ワタシったら、自己紹介がまだだったわね。ワタシはミンシア・ロカベル。この子は妹のミーア。 妹は『狩人』の*ギフト持ちで、冒険者ランクは『A級』よ。案内もできるし自慢の妹よ!」


 その言葉にミーアは視線を伏せ、微かに頬を朱らめながら小さく言葉を添えた。


「ハゴネなら、うちが案内する」


 その胸元に思わず俺の目は釘付けになった。

 この姉妹の【魅惑ボディー】の魔法に惑わされる。

 

 なんとも情けない。


 考エロ。考エロは違うだろッ! 

 バカ考えろ、俺ッ!

 

 自身でツッコムが、今はそれどころではない。 

 冷静に頭を切り替える。

 

 ハゴネ……俺たちには未開の地。

 案内役か……それは願ったり叶ったりなんだが。


 そう思いながら俺は口を開く。


「連れて行くのは構わないが、妹さんは大丈夫なのか?」


 その言葉で察したのか、姉のミンシアは澄ました顔で笑みを浮かべた。

 彼女が妹を前に出し、艶やかな唇を動かす。


「問題ないわよ。この子、大人しく見えるけど、見かけによらず肉食よ。

 特に男に関してはーー八支族の女は、全員肉食なの。きっとハイエルフ種の性(SAGA)ね」


 その一言に思わず退け反りそうになった。


 肉食ッ!?

 ハイエルフの性(SAGA)って……ゲームのタイトルじゃあるまいし。


 ふと頭に浮かんだ俺を他所に、姉を見上げ小さな声で抗議する真っ赤な顔の妹。


「ミンシア姉様……それ、余計」


 聴きながら思わず苦笑。

 俺は仕方なく頷いた。


「わかった……ハゴネに詳しいなら一緒に行こう」


 ……八支族。マヌエルの森の長老たちの一族だよな。

 

『そこには夢が詰まってるんだ。世界樹があるマヌエルの森、行ってみたいと思わないか、ゴクトー、はっはははは』


 そう言って、師匠が例の変な笑い方してたよな。


 記憶を辿り懐かしさがよぎる。 が、この状況下だ。

 とりあえず俺も名乗る。


「ゴクトーだ。行くなら、仲間に紹介したいんだが……」


「わかった。姉様、行ってくるわ!」


 嬉しそうだがミーアの声量は変わらない。


 姉のミンシアはそんな妹の様子を満足そうに見ていた。


「俺たちはワイバーンの討伐をするためにハゴネに行く。

 もしかしたらワイバーンに遭遇して、戦闘になるかもしれないぞ」


「ええ、問題ないわ」


 ミーアは小さな声で、それでも自信ありげに答える。

 その落ち着いた様子に少しだけ安心した。


「そうか……報酬も山分けにしよう。ギルド支部に行ってパーティーの登録をしないといけないな……」


「……そうね」


 興味がなさそうなトーンだが、ミーアは一応頷いた。


 戸惑いはある。だが、見かけとは違い彼女は『A級』冒険者だ。

 そんな彼女が同行してくれるのは、なんともありがたい。

 考えを巡らせてもキリがない。 


 ま、仲間たちも納得してくれるだろうさ。


 俺は決心を固めた。

 

 ミーアとともに店を出ようとしたその瞬間ーー「妹をよろしくね!」


 その声に振り返る。


 「chu♡」っと、ミンシアが艶やかな唇を動かす。

 その仕草は余りにも大胆で、顔が一気に熱くなるのを感じた。


「ミンシア姉様……それ余計」


 妹のミーアが、かすかに眉をひそめて姉に小声で抗議する。

 その小さな声と困惑した表情に、思わず足を止めた。


 ……この、魔性のエルフがっ!


 内心叫びながら俺は、『ロカベルの魔法薬材と薬店』を出たーー。












 


 「お読みいただき、ありがとうございます〜」


挿絵(By みてみん)

(*ミーアのイラスト)


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