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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第1幕 肉食女子編。 〜明かされていく妄想と真実〜

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いきなりの昇格?初のレイド?




「おお! なんと……やつら依頼を受けることになったぞ!」


 神シロが仰々しい声を出す。


「どんな依頼なんでしょうね?」


 シロの妻、女神東雲は口元を綻ばす。


「多分、あれだろ?」


 黒銀の目の友ことトランザニヤが山間を指差す。


「大丈夫か?あれ?」


 神シロが目を凝らしながら漏らす。


「仲間たちが一緒なら大丈夫だろう……だが、まだメンバーが足りない」


 トランザニヤの顔が曇る。


「そうだな……*マヌエルの森の民『*八支族』か……一度、絡んではおるんだがな……」


 神シロは歯切れの悪い言い方で下界を眺めた。


「……あの長女は変わりものだが、頭は抜群にキレる。 ”教授”だしな」


 下界を覗くトランザニヤは、思い出したように神シロに答える。


「大丈夫ですよ、きっと。あの子たちなら」


 女神東雲もトランザニヤと目が合うと下界を覗く。




 

 その頃、ゴクトーたちは支部長が待つ、応接室の扉をノックしていた。




 ◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇





「どうぞ」


 ガチャ


 ソファに支部長が座っていた。

 彼の視線が俺たちを品定めでもするかのような目に変わる。

 俺は目をそらさず、目深に被るテンガロンの鍔をあげた。


 ハウゼンは四十代前半といった雰囲気のナイスミドル。

 茶髪をきっちりとオールバックにまとめ、青い瞳が知性と厳格さを感じさせる。

 目鼻立ちが整った顔立ちは精悍せいかんで、切り揃えられた口髭が渋さを引き立てていた。

 着ている紺色のスリーピーススーツも細部まで仕立てが良く、光沢のある茶色の革靴も洗練された印象を与えている。


「まぁ、立ち話もなんだ。そこにかけてくれ。まずは、君たちに祝辞を。

 ダンジョン踏破おめでとう!」

 

 さすがは村長兼任って感じだな。

 カリスマが滲み出てる。只者じゃないな。


 彼の第一印象だ。

 

「ダンジョン踏破については、もう本部に通達済みだ。そこでなんだが、君たちパーティーにレイド(依頼)があるんだ……」


 ソファに腰掛ける仲間たちの表情にも緊張感が漂う。

 支部長の【覇気】がまるで重くのしかかるようだ。


 それを嘲笑うかのように、丸窓から覗くもうひとつの三日月。

 満月と三日月がふたつあるこの世界の空は、紺色に染まっていた。

 雲ひとつない夜空には一番星も煌めき、その星が導くように桃色の髪を照らす。

 その瞬間、影のリーダー・デス姉ことアカリが開口した。

 

「それで、どのようなレイド(依頼)なのでしょうか?」


 支部長のハウゼンは、少し困惑した表情を浮かべつつ、紡ぎ始めた。


「ここから60キロメージ(km)ほど離れた北西に、険しい山々がある。

『ハゴネ』地方と呼ばれているのだが……そこでワイバーンらしき魔物が数頭、目撃されたんだ。もしかしたら、この村にも襲って来るかもしれない……。頼りにしてた『S級』のリンクスたちが、ダンジョンから戻らない状況でね……」


 その言葉に俺とジュリは「!!!」と、目を丸くし顔を見合わせた。


 まさか、ダンジョンで倒したあの”悪魔付き”の名前がーーここで出るなんて。

 俺とジュリだけが知っている話だ。

 他の仲間たちは魔法で眠らされていたのだから。


 そう思っていた矢先ーージュリが「どうするの?」と。

 心中と目で窺ってくるので、俺はわずかに頷いて応えた。


 しかし、なんだ。このスキル、ありがたいと思ったことが一度もない。

 人の心がわかるのは便利でもあり、時に煩わしいこともある。

 

 複雑な心境の中、仲間たちの顔色を窺った。


「本部にも依頼はしているんだが、君たちにも現地調査と討伐の依頼をお願いしたい」

 

 ハウゼンの話を聞き終えると、一瞬静まり返る。


 だが沈黙を破ったのはーー以外にもアリーだった。


「にゃ!僕の魔導銃でイチコロにゃん!!」


 彼女は拳を握りしめ、前のめりになる。

 すかさずジュリが続けた。


「アリーなら余裕よね!へんダー、この依頼、受けてみようよ!」と。


 何故か俺に向かって胸を張り、親指で自分の胸を指す。


 そのポーズに合わせて紫の紐がチラリと見える。

 もちろん、その動きに俺の思考は急稼働。


 ジュリさんや……また、それを強調するのか?

 いや、でも確かに”死線”が……おい、落ち着けって!俺ッ!


 視線を感じたのかーーまるで勝ち誇ったように彼女は俺を見て笑っている。


(よしよし、ちゃんと気づいてる!やっぱりこれ、この色で正解だわ!)


 ジュリの気持ちが伝わってくる。

 もう勘弁してほしいよこのスキル。


 胸中はズタズタ。

 そんな俺に刺さる灰色(グレー)の視線が何かを宿した。

 もはや、やな予感しかしない。

 案の定、ジュリとのやり取りを横目で見ながら、「ふっ」とパメラが軽く鼻を鳴らす。


(ジュリちゃん、ほんとわかりやすいわねん。まあ、あの子なりに可愛いけど……でもねん、結局ゴクちゃんが選ぶのはーーあたいみたいな大人なのよん)


 パメラの思考も俺に伝わる。


 もう、どうにでもしてくれ。


 思いながらも自然と耳まで熱くなった。

 頭の中身をすっぽり誰かと入れ替えたくなる。

 

 察しろ。


 次の瞬間、不意にノビが前のめりになった。


「オラもいきまづ!! 頼りにされでるとこ、見せるんさ!」


 彼は”これみよがし”に胸を張る。

 だが、いつもの『恒例行事』が発動。


「貴様ああああああ!! 今度こそ死ぬぞオオオオオオオ!!」


 パメラは声を荒げたがノビは「ケロッ」としている。


 それどころか、嬉しそうに"ニヤニヤ”していた。


「先生! でも、先生が守ってくれるからオラ、大丈夫なんさ!」


 そう言いながら無邪気な笑顔をパメラに向けた。


 パメラはその瞬間、言葉を詰まらせる。


(こいつ……本当に何も考えてないバカなんだけどん、こういう時だけ、なんでこんな顔するのよん……)


 ふと目を逸らしたパメラだったが、その顔にはほんのり朱みが差していた。


(バカは嫌いだけど……コヤツ、昔からこうやってツッコンでくるのよねん。

 あたいが……先生でいられるのも、コヤツがいるから……なのかも、ねん)


 ノビの純粋な気持ちとパメラの気持ちがぶつかりあってる。

 心中で苦笑するも、なんだか俺の方が照れてしまう。


 ……ま、パメラもなんだかんだで、ノビを放っておけないんだよな。

 実際、自分の生徒でもあるし。

 それにしても、このコンビ……絶妙に噛み合ってないんだよなぁ。


 率直な心の感想を述べてみました。

 もちろん口は閉じたままだ。

 表情にも無論出さないさ。


 そんな俺を他所にパメラが艶やかな紫髪を掻き上げる。


「ゴクちゃん……もち、あたいも連れていくわよねん♡」


 いつものように妖艶な声を出す。

 その口調はどこか柔らかい感じ。

 さらに「パチッ」とウィンクしながらだ。


 それ、ウインクは、いらんだろッ!

 あれ?さっきとなんか、

 雰囲気が変わった?……気のせいか?


 俺が頭を捻りながらそう思っていた矢先。

 ハウゼンの視線が俺に向く。


「これを引き受けてくれたら君たちを『S級パーティー』に昇格させるよ。リーダーはゴクトー君だったよね。君の意見はどうなんだい?」


 その言葉に全員の視線が俺に集中する。


「ハウゼンさん……これって、断れないって空気ってやつですよ。

 ワイバーンって、あのドラゴンみたいな魔物ですよね?……」


 逆にハウゼンに問いかけた俺は、嫌な記憶が甦る。


 以前、『修行だ』と。

 師匠にワイバーンの巣に放り込まれたことがある。


 偉い目にあったよなぁ、あの時……。


 脳裏をかすめるが、ため息をつきつつも俺は静かに答えた。


「わかった……引き受けよう」


 その言葉に、仲間たちも目を輝かせ頷いた。

 ノビを含めた彼女たちの表情は、晴れやかに彩られていく。

 それは張り詰めていた緊張感を解放し、心地良い結束を感じさせるものだった。

 

 なんだかんだで、この仲間たちなら大丈夫だろう。

 パメラとノビも、いい意味で何かが変わりそうな気もするしな。

 ヨシ、やるか……。


 思考を逡巡させる俺に、仲間たちの笑顔がその答えを導いてくれた。


 そんな俺たちの様子にハウゼンが口火を切る。


「討伐したら魔物の素材はこちらで買い取らせてもらう。

 もちろんだが討伐の依頼と報酬も別で払うよ。ワイバーンの素材は高く売れるからね……ははははは!」


 ハウゼンが心底嬉しそうに笑った。


 ちょっと嬉しそうだな……ナイスミドル。

 笑いが止まらないって感じじゃないか?


 挿絵(By みてみん)

(*ハウゼンのイラスト)

 

 その姿に俺は苦笑する。

 村の防衛と自分の懐が潤う未来を見据えているのだろう。

 だが、実際に依頼を引き受ける立場としては、あまり気楽には受け取れない。


 そんな中、少し顔を緩めるハウゼンからの急な提案。


「君たちの冒険者カードを渡してくれ。ランクをUPして作り替えるよ。

 ノビ君も『パーティー所属登録』されるから……個人ランクはB級ランクカードだが、黒の縁取りになるんだ」


 そう言って手を差し出す。


 俺たちはカードを手渡し、彼の指示に従う。


 そんな中、いきなり声を出す見た目がカエル。


「先生……オラ……嬉じいんさ……」


 ノビが目を潤ませながら、パメラに抱きついた。

 彼女は驚きながらもそれを避けない。


 俺は逆に驚きつつも、妙な違和感を覚える。

 いつものパメラなら即座にノビを叩き伏せているはず。

 そのパメラが……何故か受け止めている。


 だが、そこまで。

 パメラの表情が変わっていく。

 

「貴様! わざと顔を擦り付けるでない!もう離せ!」


 怒りが混じっていたが、いつものそれとは少し違うような気がした。

 どこか迷いが感じられる。


 パメラ自身も戸惑っているようだった。


 (なんでアタイは……コヤツを突き飛ばさない? ただのバカで、何も考えてない お調子者なだけなのに……!)


 パメラの思考が読み取れるのが辛い。


 ノビの顔がさらにパメラの『爆弾(ダイナマイト)』に張り付く。

 ようやく理性が追いついたのか、パメラは「ワナワナ」と震えだす。


「……この場で、コヤツを、この手で……!」


 その言葉とともにーー“バシッ!”


 パメラのビンタがノビの顔に炸裂した。

 一方、ノビが頬を押さえ一言。


「先生。でもやっぱ愛があるんさ、力加減が優しいんさ!」


 顔を真っ赤にしながらも、ノビは「ケロッ」として笑う。

 その無邪気さがさらに怒りを煽ったのか、パメラは肩で息をしながら睨みつける。


(愛? ふざけるな! なんで、なんでそんな顔をするのよ……!)


 うんざりするぐらい、パメラの心境が伝わってくる。


 自分でも理由がわからない苛立ちを抱えながら、パメラが拳を握る。

 だが、それ以上の追撃をしない自分にも、彼女は戸惑っていた。


 俺はふと目を伏せ、思い返した。


 あのダンジョンでノビを助けた時も、厳しい言葉で叱り飛ばしてたけど、結局一番身体を張って守ってたのはパメラだ。

 ノビの能天気さに呆れる反面、その底抜けの信頼がどこから来ているのかを考えると、少しだけ微笑ましい気分だ。


 ま、これも俺たちのパーティーらしいってことか。


 そう思い肩をすくめた。


 場が混沌とする中、カードを受け取ったハウゼンは、受付まで一緒に来てくれた。そしてギルド職員とともに、カードの作り替えを進める。

 

 やがてーーハウゼンが俺たちの前に歩み寄り、「ほら、これが新しいカードだよ。確認してみてくれ」と。手渡してくれた。

 仲間たちが繁々とカードを見つめる中、 「白金(プラチナ)色のカード、古代文字かしら?縁取りが施されてるのね」と。ジュリが淡々とした声を漏らす。

 

 つられるように俺もカードを眺めた。


 左上には『Sランク』と堂々と表示されている。

 その横には証明である白金のアミュレットが輝く。


 ノビの銀色のカードも黒い縁取りがされている。

 カードを眺める仲間たちの表情も自然と和やかに緩む。

 アリーが両手を広げて、耳をピンと立てながら飛び跳ねた。


「 やったにゃっ!」


 一方でジュリがニッコリしながら俺を見つめる。


「 へんダー……ありがと。ネー! わたしら、とうとうなったね『S級』に!」


 ん? お礼を言った?

 いや、それはいいんだが。


 ジュリに気を取られ、身を寄せるパメラに気づかなかった。

 彼女が震えた声を出す。

 

「ゴクちゃんのお陰よん……」


 その瞬間、場の空気が読めない男が口を挟む。


「先生のお陰なんさ……」


「貴様はそのままだろうがっ!」


 パメラはノビに怒鳴りながらも、その表情はどこか穏やかだった。


 はい、恒例のネタね。 

 俺の妄想スイッチのようだな。


 そんな俺の胸中を知ってか知らずか、アカリが小声で囁く。


 「うちのダー様のお陰ですわ……」


 また……デス姉さん、その言い方な。

 それと腕を拉致るのはやめてくれ。

 ほら、ギルドにいる全員が俺を見てるでしょ……。


 一方、ジュリが険しい目で俺を睨む。


 チラリと横目でアリーを見ると、彼女は少し残念そうに俺を見ていた。


 おいおい、アリーまで。

 その目はやめて欲しいんですけども……。


 俺は仲間たちの視線から逃れられなかった。

 ギルド職員たちの視線も痛い。

 周囲の冒険者たちも何事かと騒めき始める。


 俺が困惑する中、ノビが口を開く。


「泣いででも、先生は美人なんさ……」


 言いながらパメラの前に立つ。

 

 一向に落ち着きを取り戻せない。

 逆に俺は内心、またビンタされやしないかとヒヤヒヤしていた。

 

 他方、受付嬢とハウゼンが小声で話しながら笑っている。


 ハウゼンまで……先が思いやられるな。

 本当に、とほほ…。

 

 そう思っていたのも束の間。

 先ほどから腕を掴んで離さないアカリが口をとがらす。

 

「ダー様、今日は私の隣にいてくださいませ?」

「い、いや……俺、ちょっとあっちの掲示板をーー」

「逃がしませんわ」


 デス姉ことアカリは、がっちり俺の腕を固めたーー。

 その様子に、ギルド職員がざわつき始める。


 ーーはい、いつものリリゴパノアです。


 そんな中でも俺はふと、今回の依頼の本質を思い出していた。


 ワイバーンの目撃情報。

 しかも場所は“ハゴネ地方”ーージュリと俺しか知らない、あの悪魔付きをハウゼンが頼りにしていた?

 これ、ただの調査じゃ済まないかもな。


 ちらりとジュリを見ると、彼女もわずかに表情を引き締めていた。

 普段の彼女の軽さが抜けた、魔導士の顔だ。


 やっぱり、あの一件を思い出してるんだな……。

 まさか、ここで繋がってくるとはな。

 まぁ、今のリリゴパノアなら、きっと大丈夫だろう。


 俺は仲間たちの姿をまじまじと見つめた。


 アリーは意気込み十分で、魔導銃をメンテしながら鼻歌を歌い、ノビはビンタの余韻で目を回しつつも「行ぐぞぉ〜!」と。意気込んでいるし。

 

 パメラも、しっかりとそんなノビの背中を見つめていた。

 

 デス姉ことアカリは、完全に俺にロックオンしてたけど……まあ、それも含めて、いつもの我がパーティーだ。


 さて、初依頼だ。気を引き締めていくか。


「みんな、準備はいいか?」


「にゃーっ!」


「ニヤニヤしてる、へんダーのその顔は、気に入らないけどね……」


「もっちろんよん♡」


「いづでもいげるんさ!」


「……うちのダー様のためなら、何度でも命を懸けますわ」


 いや、それはちょっと重い。


「よし、じゃあ出発だ!」


 俺たちリリゴパノアは、初めての“レイド(依頼)”に挑むーー。



 











 *マヌエルの森ーー『メデルザード王国』、『ゴマ』、『フィルテリア』、『カイド』──四つの国に囲まれている、森林山岳地帯の総称。

 主にエルフの民たちは、『狩猟・農園・薬』で、生活の基盤を築いている。

 ”国”として大陸中の種族が認めている。




 『*八支族』ーーマヌエルの森を治める八人の長老たちの一族。

 

 


 


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