表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第1幕 肉食女子編。 〜明かされていく妄想と真実〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/108

もうひとつのパラレルワールド  

 



 天界から覗く神々は囁き合う。


「あやつらは、『黄泉光の彼方』の世界に行った者ではないのか?」


「ああ、創造神、神代の末裔だな」


 神々は顔を顰める。


挿絵(By みてみん)

(*神々が天空の神殿に向かうイラスト)


 ここはパラレルワールド。その名も『永劫の残影』ーー時空のねじれによって出来たもうひとつの世界。


 ***



「だいぶ良くなったようね」


「ああ、恩にきるぜ。がっはははは」


 桃色の髪をポニーテールにまとめたジュリに声をかけられ、黒マントの男は豪快に笑う。巫代ミシロ家で療養を続ける彼を、小国トランザニヤから救い出したのはーー桃色姉妹の妹、魔導師のジュリだった。


 姉のアカリは調合室で亡き母の代わりに、薬草を調合していた。

 アカリは父に、将軍の薬を調合するように頼まれていた。

 ここは姉妹が住む鎖国された国ーー『ヤマト』。

 ズードリア大陸南西の島国である。

 この国は代々神代カミシロ家が代々将軍を務め、この国を治めていた。

 巫代ミシロ家は将軍家の分家にあたる。国での母は元御殿医、父は筆頭家老を務めていた。


 カコーン。


 チロチロと竹筒に水が溜まり、鹿威しが御影石を打ち付けいい音を鳴らす。

 庭に敷きつめられ流暢な弧を描く、白い小石が橙に染まる中、

 巫代ミシロ家の縁側に座り、マグナスは天を仰いでいた。


「十年前か……。我が兄オブリオはまだ王爵ではなく、末弟ドミナスは……まだ、あの泣き虫チビナスだった頃だろうな。 もう一人の”あの兄”は生きているのだろうか……」


 マグナスは豪快に笑おうとしたが、焦げた口髭と欠けた歯のせいで、その笑いは歪んだ。


 カツッ… カツッ…


 規則正しいハイヒールの音。

 それはジュリが履いているものだ。


「ネー、あの人、またスタボロよ」


 ジュリが、家の裏手に続く細道を示した。


 そこにいたのは、神シロが目をかけていた黒銀の瞳を持つ少年、いや青年の姿のゴクトーだった。その瞳の色は、マグナスの黒銀と紺碧のマッドアイ、姉妹の赤碧色の血脈とは全く異なる異質さを放っていた。


「あれは……」


 マグナスの呼吸が一瞬止まった。

 彼は立ち上がり、傷の痛みを無視して青年に近寄る。


「待て、その瞳は兄のアンド……!」


 青年ゴクトーは、突然自分に迫る大柄な男に驚き、怯えたように後ずさった。

 彼は二振りの【桜刀】を握り込む。


「誰だ、あんた?」


「……まさか、こんな遠い異国で……」


 マグナスはゴクトーの顔を覗き込む。その瞳の奥に、トランザニヤ王族の血脈に時折現れるという、『始祖の源流』を見た。


 マグナスは青年の肩を掴んだまま、姉妹に視線を戻した。


「アカリ、ジュリよく聞いてくれ。そして青年、君の持つ瞳の力は、トランザニヤ王族に伝わる始祖の血脈の、さらに深い源流だ。わしは君の瞳に畏敬すら感じる」


「始祖の血脈……?」


 調合室から出てきたアカリは言葉を失った。

 このヤマトの国にも、その血脈の痕跡があったというのか。


 ジュリは不安げに、マグナスに尋ねる。


「公爵様は、その血筋の秘密をご存じなのですか?」


 マグナスは深い息を吐き、視線をゴクトーの瞳から、遠い故郷の空へと移した。


「わしの故郷には、『トランザニヤ物語』という英雄譚がある。子供から大人まで、誰もが知る物語だ。我が姪……エマも、それに夢中だった」


 マグナスは微かに微笑んだ。

 それは、幼いエマに「八咫鴉の勇者」の物語を読み聞かせた、優しい叔父の顔だった。


「実はその物語に、剛勇の騎士ーーマグナスが出てくるのだが……それが、他でもない、わしをモデルにしたものだ」


 ゴクトーは目を丸くし、ジュリとアカリも驚きを隠せない。


「だがその物語の結末は、わしがヒドラに挑み、国を守り、そして討ち死にするという、悲劇で終わる」


 マグナスの声に、重々しい真実が宿る。


「物語の結末は現実になった。そしてわしを救ったお前たちーー」


「つまり、この世界は……」


 ジュリの顔には焦燥と困惑が色濃く滲んだ。


「そうだ」


 マグナスは言葉を遮る。


「この世界は、わしの悲劇がまだ起きていない世界……あるいは、誰かに書き換えられた、わしの物語の末章なのかもしれない」


 壮大なスケールで語られた事実に、3人は言葉を失った。


 マグナスの生存は、単なる奇跡ではなく、世界そのものの運命を変えるための、避けられぬ一手だと彼らは知った。




 ***



 その頃、もう一つのパラレルワールドーー『黄泉光の彼方』では、神々が下界を覗き、苦笑いしていた。



「黒銀の、ありゃエルダードワーフ、サンダースの末裔じゃよな」


 神シロは、ポンと黒銀の目の友ことーートランザニヤの肩を叩く。


「ああ、間違いない、『刀匠鍛冶師』の血を引くものだ。こんな偶然があるのものか? 古の末裔達がこぞってビヨンド村に集まるとは……」


 トランザニヤは小首を傾げながら言の葉を落とす。

 そんな中、神シロの妻である女神東雲が微かに表情を曇らせる。


「古の大戦で戦った末裔達が集うーーそれはまさしく、この大陸を制覇せんと画策する、魔王ガーランドに立ち向かうべく集まった宿命なのでは?」


 女神東雲はじっと神シロを見つめた。


「宿命、いや運命か、このワシですら、変えられぬ」


 神シロは白い顎鬚を撫で付け下界を見下ろす。


「大丈夫だ。この世界にはオレの末裔ーーゴクトーがいる!ヤツがきっとなんとかするさーーなにせオレと同じ【*魅了覇気】のギフトを授かってるからな」


 黒銀の目を細めながら、トランザニヤはニヤッと笑った。






 ◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇




「ちょっと待ってよ、お兄さんのそれーー」


 その声に仲間たちと思わず振り返ったーー。


 挿絵(By みてみん)

(*ドワーフの女の子のイラスト)


「それって【桜刀】じゃない?」


「ん?なんでそれを?」


 思わず答えてしまった。

 長い茶髪を編み込んだドワーフの女の子は近づいてくる。

 ニヤニヤとしながら歩いてくるその表情は、どこか馬鹿にでもしているかのようだ。


「そういえば、さっき『キャリーズ・パミュ』の会計で、

「男が女の下着を買うの初めて見たわ」って、笑ってたよなぁ?」


 俺はキッと睨みを効かせ、彼女に答えた。

 彼女は俺の刀、【桜刀】を渋々と眺めながら口を開いた。


「まぁそうね。でもあれは単にキッカケよ。その刀が目に入ったからついね。あんた、知らないようだから教えておくけど、その刀は『七星の武器」に数えられる伝説の魔刀なのよ、それを持つ大の男が下着を買ってる姿が滑稽だったの。笑わずにはいられないわー!はははははーあ」


 そう言って彼女は笑い飛ばす。

 俺は恥ずかしくなって耳まで赤くなった。


 そんな俺たちの会話を聞いた仲間たちは、ポカンと口を開いたまま、ただ目を丸くして立ち止まっている。


 特にアカリの表情はまるで青天の霹靂とでも言うべきか。

 物凄い驚いた表情だった。

 一方で、長い茶髪を編み込んだドワーフの女の子は、「ふむふむ」と顎を触りながら感慨深い表情を見せる。


「あなたたち冒険者よね、あたち、決めたわ。あなたたちの専属鍛冶師になったげる。あたちはこの村で開業したばかりの鍛冶屋。名前はポロン・サンダース。

 ドワーフの上位種、エルダードワーフなのだ。とりあえずついてきてちょ!

 うちの工房に案内するわ!」


 そう言って彼女は俺の腕を引っ張る。


「おい、ちょっと待て、いきなり過ぎるだろ? 仲間たちもびっくりしたままだし、それに今、君と出会ったばかりだろ?」


 俺は彼女の腕を引き剥がそうと、必死に腕を振り払おうとした。

 しかし、彼女の握力は相当なもので、振り払えない。この小さな体のどこにそんな力があるのか不思議に思う。なにせ彼女の身長は俺の半分ほど。

 どう見たって1メード(m)無い。

 けれど筋肉質ではある。その彼女の雰囲気ーー【覇気】と言うべきか。

 それがどこか懐かしさも感じさせる。


 思考を巡らせながら仲間たちに目を配った。

 仲間たちはあまりの唐突さに呆れ顔をするばかり。

 しかし、皆、どこか憎めない感じを察してもいるようだ。


 俺はポロンと名乗った長い茶髪を編み込んだ、ドワーフの女の子にこう告げた。


「すまん、今は寄れない。ちょっとこれからギルド支部に報告があるんだ。それを済ませないと、俺たちのダンジョン踏破は完了しないんだ」


「っえ!? あなたたちだったの?攻略したパーティーって?」


 ポロンと名乗るドワーフの女の子の歩みが止まった。


「ああ、なんとかな。俺たちのパーティーは『リリゴパノア』、まぁ、今はひとり、欠けてるがな」


 俺は苦笑いしながら答えた。

 その答えに仲間たちの表情も自然と緩む。


 その瞬間、ビヨンド村のメイン通りにどこか温かい風が吹くのを感じた。

 陽もだいぶ傾きかけ、薄墨色の空が見えていた。まん丸の笑顔を見せる月も顔を出す。


 俺の言葉にポロンと名乗るドワーフの女の子は、腕を掴むのをやめた。


「わかったわ。今その状況なら、わたちも無理にとは言わない。けれど落ち着いたら、必ず寄ってね。うちの工房は東の通りを真っ直ぐに行った、町外れにあるわ。常に煙突から煙が出ているからわかるはずよ。工房名は『黄金桜流・刀匠鍛冶師の工房ポロン』よ。はははははーあ」


 そう言って彼女は、おさげ髪を翻しながらメイン通りを歩いて行ったーー。










 ───────




【文中補足】



 挿絵(By みてみん)

(*ズードリア大陸マップ・トランザニヤの位置)


 トランザニヤーーズードリア北方の島国。

 総人口、僅か二千人程の小国。


 マグナスーートランザニヤ国家の中では唯一の大将軍。

 実質No2の権力を持つ。



 挿絵(By みてみん)

(*ズードリア大陸マップ・ヤマトの位置)


 神代家および関係家系図(ヤマト国)


   ■ 神代家かみしろけ


   ヤマト国を統べる本家にして、大将軍職を代々務める。

 武と魔を司る“神代の血脈”を継ぎ、【神代魔法】および【舞刀術】の源流を成す。現当主は以下の通り。

 • 大将軍 神代正嗣 (かみしろ まさつぐ)

 ヤマト国の現国主。武芸・政務・魔導のすべてに通じる稀代の将。

 威厳と慈悲を併せ持つが、時に冷徹とも評される。



 ■ 巫代家みしろけ


 神代家の分家にして、文と医を司る家柄。

 古より神代家に仕え、政務・医術・儀式に通じる名門。

 家紋は“桃桜と月環げっかん”。


 • 当主 巫代長門(みしろ ながと=ナガト)

 神代家筆頭家老。温厚ながらも決断力に富む。

 家督を継ぐ男子に恵まれず、のちに養子を迎える。


 • 正室みしろ 巫代美里みさと

 ヤマト随一の名医。御典医として大将軍家を診る。

 薬学と魔術の融合理論を体系化した人物。


 • 長女 朱里(あかり=アカリ)

 巫代家の嫡女。才気と理知に満ちた女性で、母譲りの医術と魔導に秀でる。

 後に冒険者となり、義兄ナガラの行方を追う。


 • 次女 樹里(じゅり=ジュリ)

 姉を慕う快活な少女。魔導士として天賦の才を持ち、【多重魔法】を自在に操る。姉と共に“宿命の旅”に出る。



【桜刀】ーー『七星の刀匠鍛冶師』たちによって鍛えられし武器。

 神より賜った受け継がれた技術ーー【兼松桜流』、『黄金桜流』が主流。


【*魅了覇気】ーー相手の心を引きつけて夢中にさせてしまう、あふれるばかりの覇気のこと。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ