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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第1幕 肉食女子編。 〜明かされていく妄想と真実〜

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『魔導具と雑貨・服の店 キャリーズ・パミュ』後編










「近頃の”派手”は、柄も色もすごいですわね」


 神シロの妻、女神東雲は思わず漏らす。


「ははは、シノは”地味”な”シロ”を好むからのう」


 神シロが笑って答える。


「今、その情報いらんけども……」


 黒銀の目の友こと、トランザニヤが顔を赤くする。


「黒銀のーーその口調、ゴクトーが引き継いどるな。はははは。

 うちのシノのことはさておき、お前さんの妻ルシーヌは、”派手”好きでしょっ中、赤や豹柄のレースを顕にしておったじゃろ?」


 神シロは冗談混じり、いや本気とも取れる言い方で肩をすくめた。


「彼女は”派手”な色が好きだったから……特に真紅がな」

 

 そう言うトランザニヤの黒銀の目は、どこか寂しさを漂わせる。


「ルシーヌの血を引く子を……静かに見守りましょう」


 女神東雲は、トランザニヤの肩にそっと手を置いた。


 神々はふっとした笑顔を浮かべ、下界にその視線を注ぎ込む。




 その頃、ゴクトーは突発ハプニングーーパメラの試着を見て、しどろもどろになっていた。



 ◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇






 「ここ、服屋だよな? なんで俺は命を削られてるんだ……?」


 そうつぶやきながら、汗を拭う。

 

 パメラの装備を目の当たりにして、ほぼ半死状態の俺は、その場で放心していた。

 思わずパメラから視線を逸らし、気持ちよさそうに店内を浮動するバルーン飛行船に目を向けた。

 周囲には緊迫した空気が漂う。


 だがしか───し。


 この時はまだ俺は気づいてなかった。

 ”敵”か”味方”かもわからない気配がーー密かに近づいてることを。


 俺の目の端に美しい金髪が映る。

 次の瞬間、殺し文句が俺の心臓を貫いた。


「彼女さんに……プレゼントですか……?」


 綺麗な女性店員が笑みを浮かべながら、そっと声をかける。


「い、いえ……」


 短く答え、彼女から視線をそらした。

 だが顔には血が昇り、めまいがしてクラクラする。

 

 まったく。この店員さん、俺の動揺も知らずに。

 今、そんな声はかけないで欲しい。答えに困るでしょッ!


 困惑しながらも、その綺麗な女性店員の言葉を飲み込む。

 そんな俺の気持ちなど知る由もないーー手に何枚もの『上下セット』を持った笑顔のアカリが俺の元に駆け寄る。


 なぜだッ!そのスキップッ!

 

 思いながら息も止まり、目は点になる。


「ぶはっ!」


 やっと息をついた俺は、大きく息を吸い込んだ。


 綺麗な女性店員は、それを見て吹き出す。

 

 大概にして欲しい。恥ずかしすぎるーー。


 そんな俺を他所に、アカリは目の前に立ち堂々と『上下セット』を掲げる。


 「これ、欲しいのっ!」


 そう言うと彼女は頬を染め、様子を窺う。

 アカリの目線より、掲げる『上下セット』に目は奪われた。

 

 派手な赤や黒レース、さらに”流行り”のオレンジまで持っている。

 

 いや、興味はあります、けれど、この状況でーー派手な下着を魅せられても困るんですが……。


 しかし、そうは思いながらも目はそこから離れず、顔の熱は上がったまま。

 そんな俺に、滝壺へと背中をバンと押されるような一言が添えられる。


「彼氏さんのお好みは、派手目の色の『T』なんですね。今、流行りの『O』もおすすめですよ」


 綺麗な女性店員はニコッとしながらアカリにそう言った。

 非常に迷惑な話である。


 彼氏じゃない、パーティーの仲間だっつうのッ!


 店員さんのその言葉は商売熱心で結構。

 だがな、どこかこちらを揶揄うようでもあるんだ。


 しかも、その話にアカリは静かに頷いてる。

 

 もうどうすりゃいいッ!

 

 半ば放心状態に陥る。

 俺は硬直しながら、その場から動けずにいた。

 

 そんな俺の様子を見て、まるでほくそ笑むような表情を見せる綺麗な女性店員。彼女はアカリをじっと眺め、その艶やかな唇を隠すように手で隠しながら早口で紡ぐ。


「お客様は、スタイルが良いですね。上は『F』カップ、 下は『M』サイズですか……。もっと、上は大きくても良さそうですが…… 彼氏さんは割と、ぴっちりがお好みなんですか?」


 言葉巧みにアカリを褒め、次々と商品の魅力をアピール。

 こちとら迷惑千万。思わず俺は耳まで赤くなる。

 

 一方のアカリは、頬を朱に染めながら応えた。


「そうなんです……。殿方は、赤や黒が好き、そう伺っておりましたけれど……

 ブルーもお喜びになるんですわ、うちのダー様は。それも、割とぴっちりが好きみたいで……うふふふんっ」


 彼女はチラッと俺を一瞥、上機嫌で店員に微笑む。

 

 俺はアカリを調子付かせる、店員の綺麗な顔に無性に腹が立った。

 

(ダー様、照れながらも耳がピクッと動いてらっしゃるわ。これはチャンスね)


 アカリの内心が伝わり、俺の思考はしばし止まる。

 このスキルと*ギフトしてくれた神を恨む。

 

 "うちの”ってっ!何っ!

 その話し方ッ!誤解を招くよッ!


 内心ツッコムが口には出さない。

 俺の取り柄でもある。


 そんな思考中、噴火寸前の俺に綺麗な女性店員が再び絡む。


「羨ましいですね……。素敵な彼女さんです。試着してみますか?  

 良かったら彼氏さんも、試着、見てみますか?」


 ニコッと笑う綺麗な女性店員。その顔はまるで魔族のようだ。

 

 【爆弾投下ボンバーショット】っ!

 呪詛魔法ですかッ! それッ!


 目がチグハグに回った。


 次の瞬間、ボン!


 破裂したような音が俺の頭に響く。 

 

 そりゃ白目も剥くし、俺の妄想心臓ーー『江戸っ子鼓動』も真っ赤かだ。

 察しろ。

 

 もはやこの状況からは逃げられない。

 『鼓動』が動けなくなったからだ。

 

 茫然自失の俺のことなどお構いなしにアカリはしれっと。


「ええ、してみますわ」


 艶のある声で答え、俺の腕を絡み取る。

 押し当てられる”むにゅっ”とした感触。


 何回目ッ!? 

 恒例の【デス】ですけども。

 もう、誰かッ!

 【メガ・エクストラ・ヒール】をッ!


 心の中で叫んださ。けれど救いの神や天使は現れなかった。

 

 おいおい。

 前世で見てたアニメなら、ここで現れるはずなんだが?


 周囲の目線が俺に集まるが、他方知らんぷりを決める他の店員たち。

 接客されてる客達も、俺と目が合うと視線を逸らしやがるんだ。

 

 複雑な心境とともに、無理やり俺は試着室の前へと連行された。

 それはまるで魔族に処刑される勇者のよう。

 哀れな俺をせせら笑う、綺麗な女性店員の顔に無性に腹が立つ。


 試着室の前、アカリがカーテンを勢いよく開け、腰をくねらせ入っていく。


 ”緊張”と”呪縛”。

 その空気に押され、俺の膝はガタガタと震えだす。

 思わずゴクッと唾を呑み込み、じわりと汗が背中に滲む。


 一方そんな中、隣の試着室からアリーとジュリの声がする。


「似合ってりゅ!  ジュリねぇ、流行りのこの紫、つけてみりゅ?」

「わたしに似合う? 緑とか青が、好みなのよ……」


 カーテンの下からジュリの美脚、アリーの小さな足とモフモフの尻尾が見える。


 次の瞬間、ポト…ポト…


 カーテンの下の隙間から小さな白い布の塊が、まるで意志を持ったように俺の足元へ転がる。それは名付けるなら『白い半月』。


 試着室に張り詰めた静けさが広がる。


 っえ?

 これっ!ジュリのかっ!?


 思わず息を呑む。

 まるで時間が止まったようだ。


「よく在ることですよ」


 綺麗な女性店員が、そっと笑って取り繕う。

 だが俺の心臓は、さっきから爆竹みたいに鳴りっぱなしだ。


「見たにゃ!」


 アリーがカーテンの隙間から顔を出し、目が合う。


「い、いや……」


 乾いた声が漏れた。どう言い訳しても怪しい。


 ……この状況、誰が信じるんだよ。


「その声は……見たわね、このっ! へんダ───っ!!」


「いやいや! 不可抗力だっ! 俺は何も見てないってばッ!」


(でもちょっとだけ……見られても、嫌じゃなかったかも……)


 ジュリの内心が俺に伝わる。


 ボンッ!


 今度は俺の頭がショートした。

 当たり前だ。


 アリーには疑いの目で見られるし、なんだ?その見られても嫌じゃないって。

 おいおい、あなたたち姉妹はーー師匠の妹なんだよ。

 俺は一体、どうしたらいい?


 ますます、心の中では困惑。

 複雑な葛藤を抱えたまま、固まり、佇んでしまった。


 だが次の瞬間ーーシャーッ!


 「ジュリ、何の騒ぎ?」


 隣で試着していたカーテンが勢いよく開いた。


 アカリがオレンジの輝きを放ちながら、名付けるなら『はち切れんばかりのぴっちり』で、目の前に堂々と立った。


挿絵(By みてみん)

(*新装備”オレンジー”の装備を試着しているアカリ)


 そして、放たれた強烈な無詠唱『オリジナル魔法』ーー【スゴイ・デス】が俺にかかった。

 

 目が眩むほどのまばゆい光が、俺の身体を包み込む。

 意識が朦朧とする中、俺は堪え足を踏ん張った。


 チラチラと目に星が浮かび、ふらっとして意識が遠のく。

 カチッとした音とともにーー俺は独自の”癖”の世界へ入っていった。

 

 【妄想スイッチ:オン】

 

 ──ここから妄想です──


「ドキドキドキドキ!!! 旦那ガッテン承知! そこどいとくれ───!」


【妄想スイッチ:オフ】


 ──現実に戻りました──


 胸の『江戸っ子鼓動』が韋駄天のように走り去り、『妄想図鑑』にすっと吸い込まれ収まった。


 「ってか、助けてくれよ鼓動!」    

          

 我に帰り、意識を現実に引き戻す。

 顔に熱が籠るのも感じ、胸を押さえ息をつく。


 だが、目の焦点はそのまま固定。


 何が起きたかもわからず、その場にただ立ち尽くす。


 その瞬間、アカリと目が合う。


「ふふっ、じゃあこれにしますわね……ダー様に選ばれたのですもの!」


 そう告げる彼女は、クスッと笑ってカーテンを閉めた。


 言ってしまえば「チーン」。はい詰みました。

 完全にアカリのペースに翻弄される。

 

 ……ってか、おい!

 俺が選んだことになってる?

 おかしいだろッ!


 思ったその瞬間、 "ツ────ッ”とした生暖かい感触を感じた。


 錆びた鉄の味がするな……。


 唇を舐めながら、その味にどこか懐かしさを感じた。

 ふらっとした瞬間、「大丈夫ですか……!?」と。

 綺麗な女性店員さんが俺を支える。


 視界はぼやけ、その声がゆっくりと遠ざかる。

 

 ガンッと音がするほど、壁に頭を打ち付けそのまま、壁にもたれる。


「もう……限界……」


 まるで遺言を残すかのような掠れ声だ。

 そして、壁を滑りその場に崩れ落ちた。



「ゴクちゃんには刺激が……強すぎたかしらん……」


 パメラの声がぼんやりとした意識の中で聞こえる。


「ゴクにぃ……しっかりにゃ……!」


 アリーが言いながら俺の身体を揺する。


(またネーと、パメラさんを見て……もう──っ!)


 ジュリの気持ちが俺に伝わり、どうやら嫉妬しているようだ。

 意識が朦朧とする中、ジュリが声を荒げる。


「ちょっと、へんダ───っ! 起きなさいよ!」

 

 声はわかるが、もう目は開けられない。

 ふわっとした温かい息が耳元にかかった。

 次の瞬間、囁くアカリの甘い声。


「ダー様……大丈夫ですか」


 彼女の麝香(ムスク)のような香りに、不思議だが俺は落ち着き安堵した。

 どこか懐かしくもあり、なんだか幼い頃、母に抱かれた時のような香りがした。そのおかげもあってか、少しずつ意識を取り戻す。


 興奮し過ぎて……多分、自身でリミッターをかけたんだろう。

 あの時も、そうだったな。


 孤児院での記憶が脳裏をよぎる。


 そして、俺は記憶を辿った。


 シスターの着替えを偶然、見てしまった時のこと。

 仲良しのケントが大騒ぎして、『ゴクトーが真っ赤になって死んだぞー!』

 なんて、告げ口したっけな……。

 あの時の罰掃除、キツかったんだからなッ!

 いつか仕返ししてやる!  

 懐かしいな。今頃、元気にしてるかなぁ?


 胸の中で思い出に浸りながら目を開けた。


「いい思い出じゃないよな……ししし」


 思わず笑い声が漏れる。

 

 目覚めた時には、仲間たちは既に着替えを済ませていた。

 そんな俺に悪戯っぽい目を向け、パメラは艶っぽい唇を動かす。


「ゴクちゃん?鼻血、ほらこれで」


 鼻血をハンカチで丁寧に拭ってくれる。

 それはまさに”姉さん女房”のような風格。


 (うぶね……可愛いわん)


 彼女は妖艶な笑みを浮かべる。


 まただ……。


 パメラの思いが伝わってしまう。

 どうにもならないことなのだが、このスキルに戸惑いはある。

 

 周囲には客もおらず、仲間たちが静かに顔を覗く。


「もう平気だ」


 そう言って立ち上がろうとしたその瞬間、よろめいた。


「ちょっとっ!しっかりして、……このバカ」


 ジュリが慌てて俺を支える。

 そして俺をじっと見つめ彼女が頬を朱くする。


「……ありがとうな」


 そう言って俺はジュリのそばから離れた。

 彼女はその瞬間、目を伏せる。

 なんとなくだが、変な空気が周囲を包む。


 他方、仲間たちはどうやら心配だったらしい。

 厄介なあの綺麗な女性店員の姿は、もうそこには無かった。


 そんな空気を吹き飛ばすように、アリーが俺に身を寄せて獣耳を垂らす。

 彼女は恥ずかしそうに顔を覗き込む。


「ゴクにぃ……大丈夫にゃ──か?」


 そのモフモフの尻尾で俺の頬をそっと撫でる。


「ありがとう、アリー……気遣ってくれて」

 

 答えると彼女が俺の膝にちょこんと座った。

 そして、恥ずかしそうに”照れ耳”を朱く染める。


 一方で鼻血を拭うパメラが俺を揶揄う。


「ゴクちゃん、そんなに赤くなっちゃって……鼻血、何リットルまで出せるかしら……? 記録、取っておこうかしらん?」


 そう言いながら魔女のような目で見つめる。


 冗談、きついんですけども。


 そう思うが得意技が炸裂。違う台詞を言ってのけた。


「もう大丈夫だ。行こう、ギルド支部に」


 俺はテンガロンハットを拾い上げ、被り直す。


 だがーー。


 何でッ!?

 俺って、こうなるんだっ!?

 

 支払いの段になって、なぜか俺がレジに立たされていた。


 周囲の視線が刺さる。

 後ろのカップルに「すごいな」って、言われているのが耳に入る。

 まるで見世物のようだ、と俺は感じていた。


 「男が女の下着を買うの初めて見たわ。はははははーあ」


 レジの横で背は低く、長い茶髪を編み込んだドワーフの女の子に笑われた。


「いやこれは、あの、その」


 またしても”しどろもどろ”で答えてしまった。

 そんなやり取りの最中、アカリがキッとそのドワーフ女子を睨んだ。


「ダー様、お会計、お願いしても?」


 アカリがしれっと口にする。

 俺の手には、すでに何枚もの『上下セット』が乗せられていた。


 服を、買いに来たんだよなッ!?

 なのにッ!それもーー派手な下着ッ!

 なんで俺っ?!


 思うが絶対口には出せない。

 仕方なく無言でうなずき、レジにそれを差し出す。


 レジの女性はにっこり微笑みながら、手慣れた手つきで袋詰めを始めた。


「どうぞ、お幸せに」


 その一言が俺のトドメとなったーー。


 ありがとう……俺の理性よッ!

 ここまで、よく戦ってくれたっ!


 そして俺は思い、なんとか姿勢を正して一歩踏み出した。


 後ろを振り返ると店の看板が目に入る。


『魔導具と雑貨・服の店 キャリーズ・パミュ』


 確かに、噂通り『品揃え』は豊富な店だった。


「色んな意味でな……」と思わずポツリ。


 次は“本当に”服だけの店に行こう……。


 そう心で誓った。

 俺は静かに店を後にした。


「ちょっと待ってよ、お兄さんのそれーー」


 その声に仲間達と思わず振り返ったーー。

 









 *ギフトーー特定の個人に授けられた特別な能力スキル。

 神や上位の存在から与えられるだけでなく、家系に受け継がれたり、特定の条件を満たすことで覚醒したりもする。




新キャラ登場ーー。

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