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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第1幕 肉食女子編。 〜明かされていく妄想と真実〜

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「”死線”、サーチだ」

 





「何だか……良からぬ雰囲気が漂うの」


「あら、あなた様、めずらしいですわね」


 神シロの言葉に、不安の表情を浮かべる女神東雲(しののめ)


「大丈夫だ。あいつなら……もう芽吹いているからな」


 黒銀の目の友こと、トランザニヤがニヤリと笑った。


 三柱は下界を覗き、ゴクトーたちの様子を窺った。









 ◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇








 興奮した身体を癒すため、『セーフティー・ゾーン』で横になった。


 『セーフティー・ゾーン』は、音もなく無色透明な壁に包まれた空間。


 目が覚めると、柔らかい感触が頭を優しく支えていた。    


 

 フレッシュな桃のような香りが鼻をくすぐり、薄目を開ける。


 そっと鼻血を拭うジュリの顔が視界に入る。


「ネーのせいだ……」


 彼女がつぶやく。

 その顔は何故か、しかめっ面。


 彼女の優しい手の動きに違和感を感じる。


 

 ふと、一方からの熱い視線に気づいた。

 アカリがポツリと漏らす。



 「『攻略』し過ぎたかしら……」


 

 彼女は心配そうな素振りを見せ、顔を覗き込む。



 「大丈夫ですか?」


 だが、彼女の瞳に宿る『猛虎の目』が気になる。

 その顔は口角をきゅっと上げ、笑っていた。


 余裕のある笑みーー。

 

 彼女はいつもこの顔をする。

 自信たっぷりなのは、きっと彼女の器量なのだろう。

 彼女の表情が崩れるところを、俺は見たことがないかもしれない。



 アカリさんや、

 あなたの”パカックス”が原因ですけどもっ!


 彼女からふと、目をはぐらかす。 

 心境は複雑だったさ。


 この展開に戸惑いながらも頭の中を一旦整理する。


 『セーフティー・ゾーン』……ただ、飯と休憩を取りに来ただけなのに。

 アカリの、あの攻め方はなんだ? 死ぬところだったぞッ!

 

 ……ってか、師匠を見つけるんじゃなかったのか?

 それと七星の武器のことだって……

 みんなあまり、気にしてない様子だけどーー。



 ため息をつき、目をはぐらかした視線の先。


 少し離れた所から、パメラが歩み寄り苦笑いを浮かべる。


「いつまで、膝枕されてるのよん!」


 冗談まじりにそう言って彼女は、唇を尖らせた。

 確かに、ずっとアカリに膝枕されたままだ。



「す、すまん……!」


 慌てて身を起こす。


 するとーー空気を読めない男が動き出す。


 やれやれ、また厄介な展開になりそうだ、なんて思ったのも束の間。


 俺を覗き込むノビが口を挟んだ。


「いいなー、オラも先生に……」



 ノビが言いかけたその瞬間ーーパメラがすかさず声を張った。



「もう、貴様はこの階層で……離脱させるぞおおおおお!!!」



 ブルン



 『爆弾(ダイナマイト)』が大気を震わす。



「しだっけええええええええええ!」



 吹き飛ぶノビ。


 だが、一瞬で身を翻しーービダンッ!



 ノビは天井に張り付いた。



「慣れっごなんさ!」



 クルッ



 ピタ。



 宙返りして、見事な着地を決めるノビ。



 マジかッ!……それッ!モリスエだろ!


 口には出さなかったが驚いた。 

 その動きは、前世で見た遠い記憶と重なった。

 


 そんな中、アカリ、ジュリが大きくため息をつく。

 だが彼女たちのその表情には、自然と笑みがこぼれていった。


 この『師弟コンビ』のやり取りは、”恒例行事化”しつつある。


 ある意味”お約束”。

 この”恒例行事”、場が和むな……と、内心つぶやき、自然に口元も綻ぶ。



 その時、ふわっとしたモフモフの尻尾が目の前で揺れた。


 アリーもノビを見て賞賛する。


「おお!ノビたんすごいにゃ!」


 彼女が笑みを浮かべ垂れ耳でパタパタと拍手する。



 その仕草、声も可愛いい、と俺は思ったさ。


 ジュリに身を寄せて、張り切るようにアリーが手を挙げた。


「出発にゃ!」



 垂れ耳をはためかせ、尻尾で出口を示す。


 食事を済ませ、俺たちは次の階層へと降りていった。



 


 ***【ダンジョンアタック再開】***





 21階層、蔦が広がる鬱蒼とした緑の森。


 俺たちは分け入るように進んでいく。


「ヒャハコココーー」


 魔物らしき叫び声が森中でざわめく。

 アカリの足がピタリと止まった。


 「ヒヒゴンね。『A級指定魔物』よ。フィルテリアでは見かけたことあるけど、まさかこんな数ーー、集団のボスが仲間を集めてるわ」


 そうつぶやくアカリの表情には、焦りと不安の色が混じっていた。

 アカリの目を見ながらジュリは杖を構え、静かに頷く。

 

 確かに周囲には魔物の気配が漂う。

 アカリの前に、スッと踏み出した彼女のモフモフの尻尾が揺れる。

 

 「僕が先導するにゃ!」


 アリーが垂れ耳をピンと立て、進んでいく。

 確かに周囲には魔物の気配が漂う。

 『獣人の気配察知能力は桁がちがうーー』と、師匠からも聞いていた。

 

 用心しながら、俺たちは森の中を進んで行った。

 

 森の中の風がピタリと止んだーーその瞬間。

 

 わさわさとした蔦の揺れとともに、オーガサージェントが複数体現れた。


 

 オーガサージェントが、大戦斧だいせんぷを振りかざし襲ってきた。


 魔導銃を構えるアリーの身体が、金色の光に包まれる。


 「間に合わにゃい!」


「避けろアリー! こいつら、図体の割に素早いぞ!」


 俺が指示を出す。 


 咄嗟の判断は流石だ。

 アカリが切り込み、扇子と【桜刀】を駆使しながら敵を払い倒す。


「リーダー様、オーガサージェントは『A級指定』の討伐対象、オーガナイトと違って、なかなか手強いですわよ」


 彼女は額に汗を滲ませる。


 この階層から魔物たちは、『A級指定』も含む脅威となった。

 物凄い【覇気】を纏い、凶暴な視線を向け行手を阻む。


「鬼のような魔物だな。体長は俺の3倍、いや、もっとデカイか……」


 思わず声が漏れた。



 場には緊張した空気が漂う。


 仲間たちが身構えた次の瞬間ーー


「ふぅーー」


 俺は吐く息とともに、刀を握り直した。



巫代ミシロ流抜刀術ーー【爪咬】!」


 その瞬間、二振りの【桜刀】を逆手で振り上げる。

 一瞬、【桜刀】が交差するように桜色の奔流が閃く。



 澄んだ空気が漂う中、カチンッ!とした音だけが森に広がる。


 「ふぅーー」と息をつき、二振りの【桜刀】を鞘に収めた。



 ”ズバババババババッ!”



 鈍い音とともに切断されていく複数体。


 次の瞬間、 赤いキラキラが眼前に広がり、オーガサージェントは消え、ごろっとした魔石に変わった。


 その刹那、周囲に漂う魔物の気配は少しずつ薄れていった。


 大きくなった魔石をひとつ拾い上げ、目を丸くしたパメラが零す。


「やるわね、ゴクちゃん、すごい剣技ねん」


 そう言う彼女の目は笑ってはいなかった。


 パメラの表情があまりにも可笑しくて、

 張り詰めていた仲間たちの表情にも笑みが溢れた。



 こうして、俺たちは階層ボスを倒しながら順調に進み、

 30階層へと到達した。


 


 30階層では、トライタウロス(角が三本生えた牛のような二足歩行の魔獣)やデーモンスパイダー(骸骨姿のアンデット系大蜘蛛)といった、『AA級指定』の魔物達が現れるようになる。


 

 挿絵(By みてみん)

(*トライタウロスとデーモンスパイダーのイラスト)


 前で戦闘を繰り広げるパーティーは、この魔物たちにかなり苦戦を強いられているようだった。


 だがーー問題は魔物の強さだけではない。

 ここまで来るとノビを守りながらの攻略が、次第に厳しくなってきた。


 仲間たちが不安を滲ませる中、アカリが口を開く。


「『セーフティーゾーン』の*【転移ポータル】で、ノビを戻しましょう」


 彼女が冷静な判断力を見せる。



 当のノビは悔しそうにーー


「行きたくねぇ、しだっけ……先生がそう言うなら!」


 涙目になりながら肩を落とす。


 仲間たちの表情も複雑。

 

 ノビを見つめるパメラが特に印象的だった。


 「できれば、この先も一緒にーー」と、

 言わんばかりのパメラは口を真横に結び、唇の端を噛みしめていた。

 

 

 心が痛むのか、彼女は瞳を潤ませ紫髪を掻き上げる。


 弟子の目に涙が浮かぶのを見ても、彼女は黙っていた。

 俺も心の中で別れを惜しむ。


 ノビ、お前の分まで進むよ。

 俺たちの帰りを待ってろよ……。


 仲間たちも同じように、肩をおとす彼の背中を見つめていた。


 最後に振り返るノビがニコッと笑い、大粒の涙を溢した。


 

 【シューーーーン】


 姿は見えなくなり、仲間たちの目にも涙が湛えていた。

 

 だが、それでもーーこの歩みは止められない。


 ノビ抜きの5人で俺たちは階層を進んでいった。


 30階層以降、これまでの階層ボスも再登場し、

 さらに新たな魔物が次々と現れた。


 ダンジョン攻略の難易度は、確実に跳ね上がっていく。


 40階層では、『AAA級指定』の魔物たちが牙を剥いてくる。


 

 特にキングデーモンスパイダーと、

 ブラックサンドワームのコンビネーションは凶悪だった。


 俺たちの前に、立ち向う7人組のパーティー。

 動きが違うーーおそらく全員『A級』ランクだろう。



 挿絵(By みてみん)

(*キングデーモンスパイダーと、ブラックサンドワームに立ち向かうパーティーのイラスト)

 


 「横取りするなよ!」


 そのパーティーのリーダーらしき男が俺たちに叫ぶ。

 その言葉に仕方なく俺たちは黙視していた。


 

 攻撃が始まった。

 

 確かに全員が強いーーだが、一瞬の刹那ーー2人が瀕死の状態に陥った。

 さらに槍を持つリーダーらしき男は、キング・デーモン・スパイダーの猛毒で麻痺していた。

 

「っく……仕方がない、39階層の『セーフティー・ゾーン』に撤退だ」

「すまん、みんな」

 

 仲間たちを担ぎ、そのパーティーはひき下がった。

 

 

 おいおい、そんな中途半端な……と、

 思いながらも彼らをどこか庇ってしまう。


 

 次の瞬間ーー シュルッ!


 ブラックサンドワームの攻撃が俺たちに襲いかかる。

 身を翻したモフモフの尻尾が地面を這う。



 アリーが叫ぶ。


「ジュリねぇーー!避けるにゃ!」


「任せてん!!」

 

 次の瞬間、パメラが紅色の光に包まれ、彼女の身体には魔力(マナ)が集約されていく。


「【ウォーターウォール】!」

 

 詠唱すると、真紅の魔法陣が展開され、水の壁が周囲を包む。

 その瞬間、ジュリがすかさず詠唱する。


「燃え盛る火の妖精サラマンダーよ。

 今、その力を解き放ち、その深淵の炎で敵を焼き尽くせ!

【エクスプロージョン】!!!」


 ”ボォー༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄”

 火属性の攻撃魔法が繰り出された。


 だが、キング・デーモン・スパイダー、

 ブラック・サンドワームは瞬時にその攻撃を避けた。


 ジュリがキョトン。


「っえ?」


 目を丸くしながら漏らす。


 しかし、魔物たちは間髪入れずに襲いかかってくる。


 ”キィ───ンッ!”


 アカリが持つ【桜刀・黄金桜千貫】と、

 キング・デーモン・スパイダーの鋭い爪挟みが交錯する。


「こっちは私が!」


「任せたぞ、アカリ」



 ”ブスッ”


 アカリの【桜刀・黄金桜千貫】が輝きを増す。

 その刹那、キング・デーモン・スパイダーの腹を射抜く。


 紫血がダンジョンの石壁に飛び散ったーーその瞬間。

 

 炎属性魔法が通用しない魔物を相手に、アカリと俺が連携する。


「巫代流抜刀術 【慰雨の音】ーー!」


 俺の【桜刀・黄金桜一文字】が白光とともに一瞬閃く。


 【桜刀】をカチン。 スゥっと鞘に収める。

  

 0コンマ数秒遅れてーー”スパッッ”   


 紫血が波紋のように飛び散り、真っ二つに切断されたブラックサンドワーム。


 2体の魔物にトドメを刺しながら、


「さすがですわね……頼りにしていますわ」


 戦闘中にも関わらず、アカリはどこか楽しそうに笑みを浮かべる。

 

 場には赤いガラスの破片、いや結晶とでも、言うべきか、それが宙を舞いながら集約して、大きな音をふたつ奏で、地面に転がった。

 

 妙な緊張感を覚えつつ、なんとか敵を討伐した。




 


 ***【セーフティー・ゾーン】***


 

 

 疲れ果てた俺たちは、『セーフティー・ゾーン』に到着。



 やっとこ、なんとかって、感じだ。



 足を踏み入れた瞬間、大きく息をつく。


 そんな俺に笑みを浮かべ、アカリが口を開く。


「ここで、野営にしましょう」


 彼女がリーダーシップを発揮し、皆それに従う。

 それぞれテントを張り始めた。


 俺も師匠から受け継いだ、<ヤマト式テント>を組み立てる。


 組み立てながら、ふと、師匠の仕草が頭に浮かんだ。


 『ゴクトー、冒険者ってのは、野営もする。

 テントぐらい組み立てられないとな。はっはははは』


 変な笑い方をしながら、俺にテントの組み上げ方を教えてくれた。 


 師匠は今頃、テントもなしで、どうしてるのかな?


 胸中、そんなことを思いながらテントを組みあげた。


 一方で、桃色姉妹が<最新式テント>を、かしましく張っている。


 やっぱり、裕福な家の出身なんだろうな。


 ぼんやりと、そう思いながら独り言ちる。


「ヨシ、と、あとは飯の用意だ」


 持ち合わせの食材を使って夕食を準備し始めた。


 


 しばらくすると、パメラが俺の元へやってきた。



「ん? どうした?」


 彼女が頬を朱くしながら俯く。


「あなたの、その<テント>、寝心地が良さそう。

 あたいは、夢を見ながら寝たいのん」と、そう言ってパメラが顔を上げた。



 その言葉に一瞬、『鼓動』が跳ね上がる。


 いやいやいや、『鼓動」騒ぐな!

 ……これって、理性を保てるのか?俺っ!


 思ったが、口には出せない。


 結局、狭い最新式テントに四人で、

 詰め込まれるのが嫌だっただけらしい。


 快く<ヤマト式テント>を貸し、

 俺は寝袋で眠ることにした。



 疲労感が全身を包む中、寝袋に入り目を閉じる。


 だがーー頭に浮かんだのは、昼食時のアカリの仕草。

 

 彼女は美脚を組み、さらに両肘で胸を押し上げ、挑発的な一言を投げた。


『……パッカーンですわ♡……クスッ』


 頭の中にはアカリの笑みと、挑発的な仕草がチラつき、胸が騒つく。


 夕食の時もッ!

 "パカックス”、されましたけども……。


 そんなことを思いながら、いつの間にか深い眠りに落ちていったーー。







 ***【翌日】***







「ちょっ…何して……るのよ!!」


 怒声が耳を劈いた。


 現実に意識が引き戻される。


「この…あんたら…!

 こんなことして…冒険者として恥ずかしくないの…? う…ぅ…」


 ジュリの声が途切れ、彼女が崩れ落ちるのが視界の隅に映った。


 ……ん?


 身体が動かない。


 縛られている? 口も塞がれてる?

 こりゃ魔法の拘束。


 アカリ、パメラ、アリーも眠らされている。


 おい、おい、おい、なんだってーのこれッ!



 俺は目を凝らし、目の前に立つ奴らを見定めた。


 敵の奇襲ーー!!

 

 その中のひとりの声が俺の記憶を呼び覚ます。


『あの美人……へへへ。おいどんの好みだ』


 ギルド支部、さらに15階層で、すれ違った5人組のパーティーだ。

 


 ーーこの状況でできる唯一のことがある。



 

【妄想スイッチ:オン】


「”死線”、サーチ開始だ」


「あいわかった」



「主よーーまずドワーフ。

 全身ミスリル鎧の近接戦特化タイプ。重装突撃、脳筋スタイルと見ます」


「ふむ」



「続いて右ーー

 黒フードの男。王都の盗賊ギルド元幹部。スピードと攪乱が主軸、短剣使い」


「盗賊か」



「中央ーーエルフの暗殺魔導士。高出力の攻撃魔法と、毒、幻惑の可能性大です」


「やっかいだな」



「左の巨漢。青緑の髪、筋骨隆々で上半身裸。朱色の長槍──巨人族と判断」


「初だな」



「そして、あの男ーー」


 ”死線”の声が、わずかに低くなった。



「……リーダー格。銀の瞳孔、黒革スーツ、

 背負うは【魔剣サランドガリア】ーー

 金属光沢の肩当ては恐らくヒイロカネ製。

 戦歴、魔力の質ーーすべてが規格外。……こいつだけは別格です、主よ」


「十分だ、戻れ」



 「またいつでも、主の眼にーー」



【妄想スイッチ:オフ】


 ”死線”は『妄想図鑑』に収まるように、霧の如く吸い込まれた。





「お、起きたか。黒鴉の小童」


 ドワーフが斧を突きつけ、歯をむき出しに笑う。



「よぉ、目覚めはどうだ? これからお仲間をーーひひひ……」


 盗賊風の男が舌舐めずりをする。



「まずはこいつから片付けるか……」


 エルフが魔力(マナ)を溜め、その指先は光を帯び始める。


 

 一方、黙したまま、不気味な笑みを浮かべる巨人。



 そしてーーあの男がジュリの横に立った。


 【覇気】だけで空気が震える。



「いい女だな。強い女をねじ伏せる……最高だぜぇぇぇ」


 顎を掴まれたジュリは歯を食いしばり、悔しそうに睨み返していた。


 男はくぐもった声で笑い、名乗りを上げる。


「俺の名はリンクス。S級冒険者にして、【魔剣サランドガリア】の使い手だ。

 特に俺はな……女の血を求める。 悪魔付きって知ってるか? それをーーこの女の血で鎮めるんだよ」



 なにぃ?……悪魔付きだと?

 師匠が言ってた悪魔の下僕しもべ……。


 名乗りをあげたリンクスを俺は睨んだ。


「ククク……まずは、この女の血を……たっぷり吸わせてもらうぜ」


 その瞬間、俺の中の何かがーーカチリと音を立てた。




 















 お読みいただき、ありがとうございます。


 挿絵(By みてみん)

(*ゴクトーの妄想キャラクター、彼の妄想眼”死線”のイラスト)




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