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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第1幕 肉食女子編。 〜明かされていく妄想と真実〜

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ダンジョンアタック! 






 天界で、二柱の神が下界を見下ろしていた。


「ゴクトー、ついにパーティーを組んだか」


 黒銀の目を持つ神、トランザニヤが静かにつぶやく。


「リリゴパノア、か。面白い面子を選んだな。あの姉妹と組むとは、ゴクトーらしい」


 白髪の神シロが顎を撫でながら笑う。


「だが、問題は師匠ナガラだ。『ねじれ』に飲み込まれた彼を、果たして見つけられるか?」


 神シロの声に重みが加わる。


 黒銀の目の友ことトランザニヤが遠くを見つめ、言葉を紡ぐ。


「単なる次元の歪みじゃない。魔族の干渉を感じる。ナガラは亜空間に飛ばされたか、あるいはこの世界に転生している可能性もある」


「ふむ。いずれにせよ、『七星の武器』が鍵だ。あの武器が揃えば、黒い門を封じることも可能だろう」


 神シロが目を細める。


「ダンジョン神オグリが隠した七星の武器、ズードリアの至宝か……。

 ゴクトーたちが見つけられればいいが……」


 トランザニヤの声に期待と不安が混じる。


 二柱の神は笑い合い、下界を見守った。




 

 ◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇




 俺の名はゴクトー。冒険者だ。

 二年前、師匠ナガラと旅をしていたが、突然姿を消した。


 『”ねじれ”に巻き込まれたらしい』


 それが師匠の最後の言葉だった。

 俺は師匠とともに冒険者になって旅をしていた。

 だが、2年前師匠は突然失踪した。


 師匠の言い残した”ねじれ”とは何なのか? 

 謎は残ったままだ。

 あの日から、俺は師匠の行方を追っている。


 このダンジョンに来た理由は二つ。

 一つは、師匠がダンジョン攻略を愛していたからだ。

 ここに手がかりがあるかもしれない。


 もう一つは、「七星の武器」の噂。その名を聞いた瞬間、胸の奥で何か熱いものが蠢いた。

 まるで、運命に導かれているような感覚だ。


 


 ビヨンド村の北西部、ズードリア大陸の新ダンジョンが発見された。


 挿絵(By みてみん)

(*ズードリア大陸マップ。ビヨンド村の位置)


 そこで偶然、師匠の義理の妹であるアカリとジュリに出会った。


 彼女たちも師匠(義兄)を探しているらしい。

 

 さらに、魔導士パメラ、フロッグマンとの混血ノビ、狼獣人の少女アリーと意気投合し、パーティーを結成した。


 パーティー名は『リリゴパノア』。

 皆の名前から一文字ずつ取った。


 名付けは俺の数少ない得意分野。

 だが、なぜかダンジョン未経験の俺がリーダーに推された。


 アカリ曰く、「ゴクトーさんの直感と魔法のセンスは、兄様に似てる」と。


 信頼されるのは嬉しいが、正直、不安しかないのだが。




 


 ***【ダンジョンアタック開始】***




 

 ダンジョンの入口は暗く、湿った風が吹き抜ける。


 先頭は武者姿のアカリ。

 扇子を片手に、凛とした佇まいだ。


「暗いわね」


 ジュリがつぶやき、杖を振る。


「【パル・ルームス】!」


 "ボォ༄༅”


 小さな炎が杖先に灯り、埃っぽい空気を焦がす。

 炎の揺らめきが壁に長い影を落とした。


 アリーが垂れ耳をピンと立て、魔導銃を構える。


 ノビの足音が「キュタンキュタン」と薄暗い通路に響く。


 両生類かッ!


 内心ツッコミを入れた。

 気にはなるが、彼の真剣な表情に文句は言えまい。


 後ろを追従するパメラの艶やかな声が俺に向けられた。


「ねえ、ゴクちゃん。編成はどうするの?」


 少し考え、前に注意しながら、そのままの言の葉を落とす。


「前衛は俺とアカリに任せろ。

 中衛にはジュリとアリーが良いと思う。後衛はノビとあんただ」


 パメラが紫の髪をかき上げ、微笑む。


「ふーん、ゴクちゃんの指示、キリッとしてて好きよ。

 ”あんた”なんて………あたい好みの、どSよぅ……やっぱりねん。

 ゴクちゃんの、この雰囲気ーーゾクゾクするわん」


 その声には妙な色気がある。


 振り返ると、パメラは紫の髪を耳にかけ、胸元を正す。


 ギラリン✧


 見つめるパメラのグレーの瞳が閃いた気がした。


 なんだ? この感覚……。


 ゾワゾワッ、と俺は背中に寒気を感じた。


「……何か言ったか?」


「ううん、なんでもないわ。リーダーの言う通りにするわよん」


 パメラは少し頬を染め、笑みを浮かべる。

 

 彼女のこういう反応、慣れないな……。


 一方、寄り添いながら歩くアカリは、

 冷静にゆっくりとした足取りで前を見る。



「行くわよ。準備はいい?」


 彼女の声に皆が頷く。

 

 いっそ、アカリがリーダーの方が良いのでは?


 思いながら気合を入れ直した。


 

 これが迷宮なのか? 

 行き止まりや、トラップは多々あるが……。

 まぁ、一応、【身体強化魔法】でも全員にかけておくか。


 先を見据え、ダンジョンの違和感を感じる。


 【神代魔法】のひとつ、【身体強化魔法】を仲間たちにかけた。


「【滅咫メターフールゾン】」


 透明な膜がパーティーを包む。


 師匠から教わった【神代(カミシロ)魔法】のひとつ。

 笑いながら話す師匠から聞いた話だが、この詠唱は古代語らしい。


滅咫(メター)ーー【毒・麻痺軽減】、

 (フール)ーー【魔法耐性上昇】、

 ()ーー【筋力・スピード上昇】、

 (ゾン)ーー【耐久力上昇】の効果がある。

 使ってみろゴクトー、はっははは』


 と。


 師匠から伝授された、こんな意味と効果がある優れものだ。

 これで仲間たちは大丈夫だろう。


 仲間たちは一切気づいていないが、これで少しは安全に進めるはず。

 

 少しはリーダーらしいことができて、ほっとしながら歩みを進めた。



 *【1階層  タイル張りの迷路】*


 スライムがヌルリと現れるが、薙ぎ払いながら進む。


 辿り着いたボス部屋で待っていたのはーーキングスライム。


 ボヨ〜ンと跳ね上がり、粘着攻撃がアカリを襲うーー

 キングスライムにアカリの扇子による一閃。

 キラキラとした破片とともにガラスが砕けるような音が響く。

 

 キングスライムは、一瞬で赤魔石と化す。


 その瞬間、ボス部屋には地下へ続く階段が現れた。

 

「行きますわよ」

 

 息を切らせる様子もなく、アカリが先導して短い階段を降り始める。

 俺たちもその後に続くーー。



 *【2階層  土壁が続くが迷路ではない階層】*

 

 青い肌の小鬼、ゴブリンたちの群れの気配が近づいてくる。

 奴らは頭の良い魔物だ。集団で襲いかかってくるのが常。

 

 だが、ジュリが火属性の魔法で次々と倒していく。


「燃えなさい!」


 "ボォ───ォッ༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅!!!”  


 彼女の杖から放たれた炎がゴブリンを一掃。


「ぎゃぎゃ」


 ”バシュ”


 ボス部屋のゴブリンソルジャーも、アカリは、こともなげに【桜刀】で斜めに切り伏せ一刀両断。



 シンプルなんだな、ダンジョンの構造って。

 ……ってか、魔物が弱すぎるんだが。


 思いながらも先に進んだ。


 テレレレ♪ テッテッテー♪

 脳内に流れるファンファーレの音とともに、

 『ガンガン行こうぜ』の作戦で、敵を蹴散らしながら進んでいく。


 あれ? これってゲーム? 


 脳の奥底ーー微かにこびり付いた懐かしい記憶の断片が頭を掠めた。


 「なんだろう、今のは一体?」


 思わず漏れ出た。


 そんな俺を他所に、アカリはズンズン先へ進む。

 置いてかれそうになるが、俺も早足で土壁の階段を降りて行った。


 


 *【3階層  巣穴だらけの階層】*

 


 コボルトの群れが敏捷に襲ってくるーー必要に嗅覚が良いらしく、すばしっこい。


「にゃ! 動き、速いけど、逃がさにゃい!」

 

 

 ”ゴォォ༄༄༄༄༄༄༄”


 アリーの魔導銃が火を吹く。 

 

 焦げた匂いとともにゴツゴツした石床に魔石が転がる。

 カラン……カラン……と、乾いた音がフロアに反響。

 それをノビがキュタンと歩み寄り拾い集める。


 まるで合奏を聞いてるようだ。



 挿絵(By みてみん)

(*コボルトと対峙するアカリのイラスト)


 


 階層ボス部屋に着いた瞬間、

 コボルトソルジャーの鎖付き斧が唸りを上げる。


 ”ズバッ”


 だが、アカリは【桜刀】を抜いて一閃。

 その軌道を読んでいたーー。


 4階層 スケルトン       ボス  スケルトンキング。

 5階層 ゴブリンソルジャー   ボス  ゴブリンジェネラル。

 6階層 ビッグスライム      ボス  ビックキングスライム。


 階層ごとに、出現する魔物とボスを次々と倒していく。


 ・

 ・ 

 ・


 戦闘中、ジュリとアリーがほとんどの敵を薙ぎ倒す。

 ボス部屋での戦闘は、もちろんアカリの圧勝だった。


 15階層の『セーフティー・ゾーン』で軽く休憩。

 入り口に足を踏み入れる。


 その瞬間、どこか血生臭い……風が吹き、場の空気が一瞬で変わった。

 俺たちと入れ替わりに、「ハイランク」と思われるパーティーとすれ違う。


 大剣を背負う男、フードを被る耳長のエルフ、盗賊のような出立の黒頭巾の男、半裸な巨人族の男ーーその中のひとり、怪しい雰囲気を醸すドワーフの声が俺の脳に蘇る。


『あの美人……へへへ。おいどんの好みだ』


 ギルド支部で見かけた5人組のパーティーだ。


「ひひひ。お先にな、色っぽいねぇちゃん」


 すれ違い様にドワーフに薄気味悪い台詞を置いていかれた。

 彼らは先にダンジョンアタックを再開させる。


「気味が悪いわねん」と、視線を集めるパメラは顔をしかめる。


 気を取り直し、『セーフティー・ゾーン』内で水分の補給。


 パメラはジュリとアリーに【マジック・ヒーリー】をかけ、魔力(マナ)の消耗を回復させる。


 アカリとジュリもそれぞれ回復魔法ーー【ヒール】で擦り傷を癒し、連携を取っていた。


 ーー身体強化魔法の効力がここで切れたようだ。


「【滅咫(メター)(フール)()(ゾン)】」


 俺は再び小声で唱えた。

 そして、『セーフティー・ゾーン』から出た俺たちは、アタックを再開した。


 ・

 ・ 

 ・


 20階層 鬼のような魔物オーガソルジャー を倒していくーー。  


 ボス部屋には、オーガナイトが身構え待ち受ける。


 "ボォ───ォッ༅༄༅༅༄༅༅༄༅༅༄༅!!” 

 ”ゴォォ༄༄༄༄༄༄༄!!”


 ジュリの火炎魔法とアリーの魔導銃が火を吹く。

 

 あっさり楽勝。


 余裕の笑みを見せる彼女たち。


 戦闘が終わり、腰に吊るした『刻の魔導具』を確認する。


 まだ、3オクロック(約3時間)しか経ってない。

 ふと、今までの戦闘を振り返る。



 アリーのあの魔導銃は驚異的だ。

 アカリの【舞刀術】も独特だし、刀技のキレは見事だ。

 俺も師匠に【抜刀・居合術】は教わった。

 ですけども……扇子を使った技は初めて見た。

 それに彼女、【回復魔法】まで使えるなんて。

 万能過ぎだっ!

 ジュリも【火炎魔法】もそうだが、

 ……ってか、【回復魔法】、それもこなすのか?

 パメラの【補助魔法】の【マジック・ヒーリー】。

 その効果は目を見張る。

 それにしてもこのパーティー、凄いんじゃないのか……。


 思考を逡巡、大きく息をつき、肩をすくめた。


「俺とノビは……あまり役に立ってないな」


 彼女たちを眺め、自分とノビの存在感の薄さに気づく。


 敵を倒すどころか、【魔石】と宝箱を回収する役割。



 だがーーそれでも、ノビは満足げに、キュタンキュタンと歩みを進める。


 ノビの横を歩きながらパメラがこぼす。


「ここまではーーあたいも来たことがあるけれど……

 早すぎるわ。見た目は可愛いのに、アリーちゃん。

 あなたって本当に凄いわねん」


 彼女は驚きつつも、アリーを労う。


 ”照れ耳”を手で押さえ頬を隠すアリー。

 その小さな手を見て思い返す。


 彼女が持つ魔導銃。

 それから繰り出される攻撃は炸裂する度に、

 周囲の空気すら震わせる程の威力。

 その分、自身の魔力(マナ)と体力の消耗は著しいだろうが、

 彼女は微塵もそれを表に出さないーー。 


 思いながら俺は小さな勇者に声をかける。


「……アリー、凄すぎるな……見かけによらず……」


 彼女は”照れ耳”をパタパタ、尻尾をフリフリとさせる。


「ジュリねぇの方が、凄い凄いにゃのだよぅ……」


 アリーは、どこか恥ずかしそうな小さな声を漏らす。

 その姿はなんとも愛らしい。

 その瞬間ーーアリーと肩を並べるジュリの目の色が変わった。


「きゃわいいーーーいっ♡」


 アリーを擁え込むように抱きつく。

 その勢いに押され”照れ耳”も、尻尾も振りが早くなった。


「息にゃ……でき……にゃい……」


 次の瞬間、アリーの耳は赤く染まり、足をバタつかせる。


「これ、偽パイ。硬い壁にゃ……」


 ジュリの懐で複雑な心境なのか、小さくつぶやくアリーだった。

 その声は俺にしか届かず。


 一方、その光景を後ろで見ていたノビは、呆然として立ち尽くす。


 「しだっけ、癒される絵面……なんさ」


 彼女たちを見たノビがポツリ。

 横に並び立つ、ノビが目尻を下げる。


「がわいいんさ……」と、さらに小さくつぶやく。


 ノビはゴーグルを額に上げて笑みを浮かべた。

 その時だった。


 ダンジョン内に一陣の鋭い風がびゅっと吹いた。


 ジュリの何気ない仕草と風がが引き金でーー


「……っえ!」


 予想外の展開が起こった。


 目の前がぐらっと歪む。

 アドレナリンは上昇し、眩暈がしクラクラ。

 カチッっとした音が脳内に響く。

 俺は自分の”癖”の世界に入っていった。



【妄想スイッチ:オン】


 ──ここから妄想です──



『ゴクトーさん、こんにちわ♪』


 割れ目がハッキリわかる、

 名付けるなら『緑レースの桃風呂敷さん』が、俺に向かってーー

 にこやかに微笑みかけ挨拶してくる。



 俺の妄想眼”死線”は無意識にその"一点”に集中したーー。



 【妄想スイッチ:オフ】


 ──現実に戻りました──            


 『桃風呂敷さん』は、ジュリのミニスカートの中にスッと消えた。


 俺は意識を戻し、我に返った。


「……癖が、だが『妄想図鑑』、出てこなかったな」


 そう漏らす俺を他所に、アリーが冷ややかな声を落とす。


「ジュリねぇ、緑のおぱんちゅ、見えてりゅ……」


 肩をすくめながら冷静にポツリ。



 ノビは慌ててゴーグルを下げ、ジュリに背を向けた。


 ジュリも見られてるのに気づき、頬を朱に染める。

 その瞬間ーー慌ててしゃがみ込み、桃色の光に包まれた彼女が吼える。


「このっ! どスケベどもぅーーーっ!!!」


 鋭い眼光で睨まれ、動揺して思わず震える。

 目がねじれるぐらいに白目を剥いたさ。

 額から汗も滲む。


「どスケベどもぅ スケベどもぅ ケベどもぅ ベどもぅ」


 ピシ…ピシ…


 ジュリの叫びと魔力(マナ)が反響し、壁を破壊する勢いには驚いた。


「今日のは、見せたかったんだけど……ノビにも見られちゃった」


 しゃがみ込んだままのジュリが小さくつぶやく。


 だが、その声は俺の耳には届かなかった。


 ジュリの瞳には涙が湛える。

 その様子を目を丸くして見ていた姉のアカリは呆れ顔に変わった。


 俺とノビをジト目で見つめ、ひとつ息をつき、ジュリは肩をすくめた。


 ぽつ…ぽつ…と、しんとしたダンジョン内には水滴が滴る音が反響する。

 先程までの風もここでピタリと止まった。


 そんな中、こちらに向けられる、穏やかならぬ視線の圧にふと気づいた。

 俺を見つめるパメラのグレーの瞳が妙な熱を帯びる。


「ここであたいも”攻略開始”、しないとねん」


 小声で囁き、彼女は口元に妖しい笑みを浮かべる。

 まるで何かを企むような表情だ。


「へ? 何の攻略?……っちょっ!」


 俺の言葉尻を蹴飛ばすように、パメラが艶しい声を出した。


「ゴクちゃんになら……♡」


 そう言って唐突に短丈スカートを捲り上げようとした。


 その瞬間、空気を読まない男がここぞとばかりにーー「しだっけ!」と。

 その挑発的な動きに、ノビが身を乗り出した。


 ギロリ。


 睨みつけるパメラがワナワナと震え出す。


「何が、しだっけだ! 貴様になど…… 見せるかあああああ!!!」


 ブルルルン


 揺れる『爆弾(ダイナマイト)』とともに、爆風がノビを襲った。


「不意打ぢなんさああああああああ!」




「吹き飛んだわね……」


 アカリは飛んでいくノビを見ながら、冷静につぶやく。




 ピョン。 だがノビは「ケロッ」と戻る。



「タフなやつだ」と、思わず俺は声を漏らす。

 むしろ、ノビの図太さに感心する。

 口元が緩んで多分"ニタリ”としていただろう。


 一方で、ジュリが噛み殺したような笑い声を漏らす。


「ククク……」


 彼女は涙目で少しだけ朱くなった顔を手で覆う。


 一連のやり取りを眺めながら、ふと、頭にあることが浮かんだ。


 ここまでで、師匠の【覇気】は感じられなかった。


 やはり、こんな階層には居ないよな……。

 宝箱の中身も到底、『七星の武器』と呼べる物は無かったし。


 しかし、俺はまだこの時、露ほども知らなかった。

 アカリ、ジュリ、パメラの真の目的をーー。


 

 ”ぐぅううう”


 妄想の『腹の虫 ぐうさん』が鳴き出した。


 そんな中、アカリが誰の目にも止まらず、ひっそり。


「ジュリやパメラさんに負けてられないわ。私もリーダー様を攻略しないと……」


 彼女は、押し殺したような早口で何か言ったようだ。


 だが、内容は俺の耳には届かなかった。

 次の瞬間、アカリは俺と目が合うと瞳を閃めかせた。


「『セーフティーゾーン』で食事を取りませんか?」











────────────────────────────────────


【文中補足兼、付録図鑑】



 ◾️【魔物名】スライム(Slime)

 • 分類:軟体系

 • 生息階層:ダンジョン第1〜2階層

 • 危険度:★☆☆☆☆

 • 特徴:半透明のゼラチン質生命体。

 • 備考:倒すと「魔石(赤)」を残す。

   体液は薬草と混ぜると治癒薬の基礎素材になる。


 物理攻撃に弱いが、魔力を吸収する性質を持つ個体もいる。


 ノビの一言:「最初の敵って感じなんさ……油断すると足を滑らすんさ。しだっけ、地味に危険なんさ」



 ◾️【魔物名】ゴブリン(Goblin)

 • 分類:亜人系

 • 生息階層:第2〜5階層

 • 危険度:★★☆☆☆

 • 特徴:小柄で俊敏。集団で襲う習性があり、火に弱い。

 • 備考:知能が高い個体は“ゴブリンソルジャー”や“ジェネラル”へ進化。


 ジュリの観察記録:「焦げる臭いがするくらい焼くのがコツよ♡」



 ◾️【魔物名】コボルト(Kobold)

 • 分類:犬人魔系

 • 生息階層:第3〜6階層

 • 危険度:★★★☆☆

 • 特徴:敏捷性と嗅覚に優れ、獲物を長時間追跡する。

 • 備考:かつては獣人族の分派だったという説もある。


 アリーのメモ:「鼻がよすぎるにゃ! でも、焼いたらおいしそうな匂いがすりゅ……」



 ◾️【魔物名】スケルトン(Skeleton)

 • 分類:不死系

 • 生息階層:第4階層以降

 • 危険度:★★★☆☆

 • 特徴:亡者の魂が骨に宿った存在。光・聖属性の攻撃に弱い。

 • 備考:かつての戦士の残留思念が宿ることもある。倒すと微弱な霊力を放つ「白魔石」を落とす。


 アカリ感想:「骨のきしみ方で個体の強さがわかるわね。硬いやつは要注意ですわよ」



 ◾️【魔物名】オーガ(Ogre)

 • 分類:鬼人系

 • 生息階層:第20階層付近

 • 危険度:★★★★☆

 • 特徴:膂力に優れ、知能は低い。鉄鎖武器を得意とする。

 • 備考:「オーガジェネラル」は稀に魔法を使う個体も報告あり。


 パメラの記録:「筋肉バカは嫌いじゃないけど、匂いが無理ねん♡」


















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