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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第0幕 序章。 〜妄想図鑑と神代魔法士〜

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垂れ耳のアリーと伝説の始まり  

 



「おい、あの獣人の子はオブニビアの孫、白狼虎の末裔か」


「なんだ、黒銀の、そんなことも知らんかったのか?」



 神シロは、そう言うと笑って下界を眺める。

 黒銀の目の友は、戸惑いながらも雲間を覗く。




 その頃、ゴクトーはギルド支部で運命的な出会いを果たす。




 ◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇




 「垂れ耳が可愛いんさ」


 ノビの言葉に俺の目が捉えたのはーー垂れ耳が可愛い獣人の少女だった。


 こちらを見る少女のその瞳は、美しいメタリックブルー。


 愛らしい小柄な身体に、迷彩柄のオーバーオールをまとう。

 銀の爪は短く、清潔感と几帳面さを感じさせた。


 Tシャツにハイカット、黒革ブーツという軽快な装備。



「これ、すごいなっ! 初めて見る」



 彼女が持つ魔導銃が俺の口を開かせた。


 その瞬間ーー ”照れ耳”が微かに動くと同時に、モフモフの尻尾も"フリフリ”と動く。それが彼女の愛らしさを際立たせる。



 幼さと、プロフェッショナル感か。

 ヤバイな……ってか、絶妙に、混ざり合ってるな。

 かわいらしいっ!

 モフモフにメロメロですが。何か?

 ……って、大丈夫かッ!俺っ!



 第一印象で顔に熱が籠った。

 一方で俺の目を見ながら、これ見よがしにジュリが前に立つ。


 目を輝かせる彼女に「随分と嬉しそうだな、きれいな、おみ足ですけども」……と。


 小さく囁き、俺は視線を落とす。


 ジュリから漂う仄かな石鹸の香りがーー俺の羞恥を高めた。

 彼女の表情が変わっていくのがわかる。

 さらにガッツポーズもしていた。


 

 なんで? 

 何かしたか?


 

 理解不能に陥る心。

 俺の目の端にアカリの姿がチラつく。

 彼女の表情にも笑みが浮かぶ。


 その瞬間、彼女が前のめりで自分の胸元を指差す。


 「私のココ、ポイントですの……!」


 そう言って彼女は、どこか揶揄うような視線をこちらに向ける。


「くっ」


 目の奥には何か違ったものが見えてる気がした……と、そう思わずにはいられなかった。


 急に胸元を強調しなっくても……いいんじゃね?

 確かにまぁ。

 ”死線”は……逝きますけども。

 ……ってか、悠長かッ!



 実は内心焦っていた。 

 ”死線”が急に『妄想図鑑』にシュッと収まったからだ。

 じとりとした汗が額を伝う。

 

 次の瞬間ーーアカリが”追撃ウィンク”をパチっと寄越す。



 ドキッ


 胸の『江戸っ子鼓動』がジャンプした。



「鼓動、静まっておけ」



 胸に手を当てて冷静に小声でつぶやく。

 

 一旦、頭を整理する。

 

 俺の妄想ーー出現パターンがだんだんと読めてきた。

 感情の起伏は元より、特に視覚、嗅覚からの導入が多い。

 しかし、妄想スイッチが入らなくても、具現化してきている。

 


 どうしようーー。

 

 

 不安はますます募るばかりだ。。


 一方でアカリの挑発とも取れる行動ーーその仕草に答えを出せずにいた。


 耳にまで熱が籠る。

 当然、はぐらかし、周囲に目を向ける。


 息を呑む周囲の冒険者たち。

 その目はアカリの姿に釘付け。

 彼女の美貌と、凛とした佇まいがそれを裏付ける。


 しかし、その卑猥な視線を受けながらもアカリはお構いなしに、

 あっけらかんとしていた。

 まぁいつものことだら、と俺は嘆息。


 

 そんな中、アカリが獣人の少女を前に推し出す。


「ギルド支部の前で、偶然……昔の仲間と会ったんです。かつて、一緒にダンジョンを攻略したこともあって、話が弾んでしまって……」


 彼女は目を伏せながら続けた。


「パーティーをまだ組んでいないと聞いたので……私たちの仲間に勧誘しました。この子は獣人狼種のアリーです。……ダメですか? ゴクトーさん?」


 彼女は悪戯っぽい目を向け、俺に一礼する。


 その仕草はどこか意図的なように感じた。

 首を少しかたむけ、『谷間』を強調するような姿勢。


 

 ちょっと、わざとだろッ!


 思うが口にすることも叶わぬ現状。

 

 目尻を下げる冒険者たちからも「おおー色っぺぇー!」。

 なんて声も耳に届くほど。


 一方で俺がその声に目を向けると、ジュリが眉根を寄せる。

 彼女はアリーを押し出しながら”への字に曲がった唇”を動かす。


「子供に見えるかもしれないけど、

 アリーの実力はわたしたちと同じーー『A級』なのよ!」


 そう言ってジュリが手を合わせ、胸元をわずかに張り出した。


 わざとらしいぞッ!その動き。

 涙ぐましい努力だな。


 なんて思ったりもする。

 そんな俺を他所にーー「ん?」


 アリーは前に一歩進み出る。

 彼女は控えめにちょこんと頭を下げた。 

 その瞬間ーー垂れ耳もはためく。


 その小さな動作がまた可愛いい。



 人数が多いほうが良いしな。

 


 ……なにより、この“モフモフ”感、たまらんぞッ!


 思いながら俺は口角を上げる。



「よろしくな」



 軽く言ってアリーの頭を撫でた。

 直後、彼女は顔を真っ赤にしてうつむく。

 照れ耳がピクと持ち上がり、モフモフの尻尾は直立。


 その可愛さにもう一度、撫でたくなる。


 だが、「風雲急を告げる」とは、まさにこの事だろう。

 

 その瞬間、ギルド内の風がピタリと止まる。   

 その瞬間。緊張した空気が周囲に漂う。


 背中にビリビリとした圧が貫いたその瞬間ーーゆらっとした感覚に襲われた。


 目が眩み、一瞬だが妄想スイッチがオンになりかけた。



 ガオォ✧   

 アカリは〝妖艶な虎の目〟のように。 

 

 キューン✦  

 ジュリは〝孤高の鷹の目〟に変わっていくように見えた。



 姉妹の目がーー同時に閃く。

 それは独特の雰囲気。

 だがどこか懐かしい感覚も僅かに感じた。


 

 「…また、妄想が暴走してる……」



 思わず、漏れた小さなつぶやき。

 肩をすくめたのは言うまでもないのだが。


 

 そんな俺にお構いなしーー姉妹の目は、そのままでじっとこちらを見ている。



 いやいや。

 二人ともッ!獣の目向けるなっ!

 食われるのかッ!俺っ!


 彼女たちは黙ったまま、ただじっとその場で佇んでいた。


 いや、見据えるでもなく、

 睨むでもなくだな。


 思いながらも何が何だかさっぱり。

 彼女たちに困惑しつつ、脇に汗が滲む。


 俺、アリー、アカリとジュリーー無言のままの状態がしばし続いた。


 

 

 耐え難いと思った俺は、パメラとノビに目を向ける。


 大人な対応を見せるパメラは、あしらうように言ってのける。


「さっ、ゴクちゃん、早く、パーティーの登録、済ませちゃいましょうよん」



 まるで何事もなかったような口ぶりだ。

 さらにパメラはノビを一瞥。


 空気が読めないのか、と俺は思っていたがーーノビはアリーの頭を優しく撫でた。


「よろじぐね」


 その瞬間、アリーが照れ耳をかすかに揺らす。

 

 どうやら二人ともアリーの加入に賛成のようだ。

 桃色姉妹とアリーが手を取り合う。

 それが微笑ましい。

 

 その光景に見惚れてる俺を他所に、パメラが勢いよく振り返った。


 ブルルン

 

 次の瞬間、大気が震えた。

 彼女の『爆弾(ダイナマイト)』が猛威を振るう。



「しだっけ、慣れでるんさああああああ!!」



「ノビが吹き飛んだわーー!!」


 ジュリの冷徹な声が俺の心に刺さった。



「ゴクちゃん、"モフモフ”には、めっぽう弱いみたいねん……でも、あたいにはね、この、『爆弾(ダイナマイト)』があるから……」



 そう言って彼女は自慢げに受付へ向かう。



  ピョン。 キュタン。 ピタッ!



 三拍子、着地も揃えるノビ。

 パメラの後を追うように「ケロッ」と戻ってきた。


 

 マジか。おいおい。


 内心でツッコミを入れつつ、俺もその後を追ったーー。

 


 受付の前、順番に並んだ俺たち。



「こちらに記入をお願いします」



 受付嬢から俺も申請用紙を受け取る。


 名前とパーティー名を書く欄があるのを見て、俺は考える。



 そういえば、

 パーティー名、まだ、決めてなかったよな。



 ペンを走らせようとした矢先ーーパメラの確認の声がした。


「パーティー名ーー『桃色姉妹と仲間たち』で、いいわよねん?」



「ダサイッ!」


 一方でジュリが即座に全力否定。



 ジュリさんや……否定するのはいいけどな。

 代案はッ!?


 駄々っ子のように剥れるジュリを見ながらそう思った。そのゴネる姿に「HAHAHA」とコリン語で苦笑しながら周囲を見回す。


 案の定、空気を読めない男がやらかす。


「アカパメ団が良いんでない?」


 ノビがケロッと提案する。


 だが、その瞬間ーー「貴様ァああああああ!何がアカパメ団だッ!」



 プルルン



 パメラがノビに振り返り怒声を浴びせる。

 

 しかし、ノビは「ケロッ」、と宙返りしてその爆風を(かわ)した。

 

 そんな中、獣人のアリーが小さき声を漏らす。



「やりゅね!」


 その声には、どこか尊敬の念が滲んでいるように感じた。


 周囲の冒険者たちが目を丸くして、俺たちを見ていた。



「ししし」


 その光景に思わず笑いながら、俺は周囲に目を向けた。

 ヒソヒソと何やら囁かれるが、気にせず零す。


「パーティー名って……そんなに重要なのか?」



「ええ、もちろんよ。有名になると依頼も増えるの。依頼人に覚えられるのって、大事なことなのよね」



 パメラの真剣な表情を見て、頷くしかなかった。



「私たちも悩んだの。でも……最終的には、船長が勝手に記入したの」



 アカリも一言補足する。


 姉妹は顔を見合わせて頷き合う。



 なるほどな……

 そういうことか、重要なんだな。



 記入用紙を前にして俺は思った。


 パメラが「クスッ」として笑みを浮かべた。


「ゴクちゃん、パーティーの名前、ちゃんと考えなさいよ。リーダーなんだからさ」



 瞬間、俺の思考は動きが止まった。


 ノビ、アリー、桃色姉妹も俺をじっと見て笑みを浮かべている。



「え? 俺がリーダーなのか?」


 そう言った瞬間、ジュリが一歩前に出た。

 彼女が指を突き出す。



「そうよ!へんダーなんだから、責任持ちなさいよ!」


「へんダーって言うのやめなさい、リーダーに!」



 アカリはそう言いながら俺に寄り添い、シャツの袖を掴む。

 頬は朱く染っていく。その仕草はどこか可愛らしく見える。


 他方、そのやり取りに気を揉んだのかーー


「ゴクちゃん、早く決めてよ~ん♪」


 パメラがおねだり口調で言ったな、と俺は思い笑った。

 そんな中、思いもよらない人物に言葉を投げられる。


「あの〜早く、決めてもらえませんかね?」


 受付嬢はーー苛立ちを漂わせ、片眉を上げた。



「えーと……」



 焦りながら全員の顔を順に見た。



 妖艶すぎる魔導士。

 ド田舎カエル。

 モフモフの猟師。


 そしてーー桃色の誘惑姉妹。




 このメンツ、ひとつの名前でまとめるのかーー?

 いや……でも、確かに。

 これから一緒に命を張る仲間なんだ。

 適当に済ませるのも違うよな。



 この瞬間、不意に頭に浮かんだ言葉があった。



「……“リリゴパノア”」



 つぶやいた瞬間、皆が俺を見つめる。



「なによそれ?」


 ジュリが怪訝そうに眉をしかめる。


「語感は悪くないけど……意味は?」


 パメラも興味深々に首をかしげた。


「アカリとジュリのリとリ、ゴは俺、パメラとノビ、アリーで……パノアだな」



 俺は笑って答えた。



「……なにそれ? 急にどうしたの?」



 ジュリが半笑いでツッコム。



「いや、ふと浮かんだだけさ。妙に語呂がいいなって、名付けは得意なんだ」



 俺は肩を窄め、足元の木箱をコツンと蹴る。



「リリゴパノア……うん。響きは悪くないわね」



 そう言ってパメラが頷く。



「 がっぢょええんさ!」



 ノビが天井に届く勢いのジャンプを見せる。


 アリーはそれを見て口元を緩めた。



 自然にその言葉が俺たちの“名”になった。


 喧騒の中、誰にも気づかれない小さな命名式。

 たが、それが“伝説の始まり”になるとは、誰も知る由もなかったーー。


 結果的に『リリゴパノア』という名前でパーティー登録を行うことに。


 受付嬢は呆れた顔をしながら、冒険者カードにパーティー名を登録。



 な、なんとか決まったな……ふぅ。



 ギルド支部を出た俺たち『リリゴパノア』は、ダンジョンへと向かう。



 ダンジョン入口で、ギルド職員に冒険者カードを提示する。

 職員が魔導端末にカードをスキャンし、確認した。


「パーティー名は『リリゴパノア』。リーダーはゴクトーだな。入ってよし」


 職員にうながされ、俺たちはダンジョンの中へと足を踏み入れた。


 薄暗い入口に差し込む光が、まだ未到のダンジョン冒険の始まりを告げているようだった。



「行こう!」



 緊張する俺の一声で、『リリゴパノア』六人のダンジョンアタックがーー

 ここから始まるーー。















 挿絵(By みてみん)

(*アリーのイラスト)



  *魔導銃ーー魔力(マナ)を込め発射できる魔導具。

 概、銃身が長い物と短い物がある。


 長い物は『マジックガン』と呼ばれ、

 短いものは『ピストル』と呼ばれている。


 主に『狩猟(ハンター)』のギフトを与えられたものが、

 使いこなせる魔導具として知られる。





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