ノビの装備とパメラの装備
「ちょっとだけ、手助けしてやるか……」
黒銀の目の友の声が嬉しそうに話す。
「そりゃ、面白くなりそうだ。
ダンジョンには、七星のあれが眠っているからな」
神シロも黒銀の目の友と笑った。
神々は下界を覗く。
ーーその頃、ゴクトーはダンジョンアタックに向けての準備を整えていた。
◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇
部屋に戻った俺はーー頭にはしっくりとくるテンガロン。
腰には【*桜刀】を二振り。
そしてーー『*アイテムボックス』を確認した。
「ヨシ!」
気合を入れーー集合より早めに部屋を出る。
例の”方向音痴スキル”が発動するからだ。
だが、玄関に差しかかった所で声をかけられた。
「待ちなさい!」
振り返ると、腕組みをした女将さんが【覇気】丸出しで仁王立ちしていた。
その瞬間ーー覚えのある【覇気】だ、と俺は背筋を伸ばす。
まるで俺の身体に馴染むような独特の【覇気】だった。
ふと、師匠の言葉が頭をよぎる。
『ゴクトー、くれぐれも*神代魔法は使い所を間違えるなよ。はっははは』
師匠はそう言って俺に奥伝まで授けてくれた。
まるで師匠の【覇気】を纏ったようなーー女将さんがさりげなくポツリ。
「これを持って行きなさい。 ……”ふん”」
鼻息を交えつつ、彼女はそう言ってずしりと重い紙袋を俺に寄越す。
覗くと焼きたてのパンがぎっしり。
「あ、ありがとうございます……」
突然のことに驚きながら頭を下げた。
女将さんは再び、「ふん」と鼻を鳴らし、頬を朱に染めながら宿屋の奥へと戻っていった。
やっぱり、聞いてたんだな。
パン、買えなかったこと、食堂で。
まるで“ツンデレ猪”……
でもーーいい女将さんだな。
感謝しつつ、宿を後にした。
赤壁の路地を抜け、村のメインストリートに出る。
雲ひとつないーー朝日が気持ちいいくらいの橙を彩らせる中、
すれ違う狼の獣人が息を切らせて走っていくーーその影とともに泥をつけた、ぽにゃぽにゃっとした足跡が石畳に残っていく。
「もう、そんな時間か」
オープン準備を始める、商人たちを見ながら零す。
メインストリートの両脇からカラン…、ギィィ…と、各店それぞれの扉の音が耳に飛び込んでくる。
カツヲ節の香ばしい香りも、通りすぎる屋台から漂っていた。
しばらくすると、肉屋の前でおばちゃんと目が合う。
「おや、行くのかい? ダンジョン。気をつけるんだよ~」
そう言いながら、おばちゃんが目の前まで歩み寄ってくる。
彼女の手には、鋭利な肉切り包丁が握られていた。
「ああ、行ってくるよ」
ちょっと怖いですけども、と思いながらもーーテンガロンハットを軽く上げ挨拶。
「頑張んな!」
笑顔で背中をおもいっきり叩かれた。
イタタタタッ!
柄で秘孔を突くな、神業かっ!ったく!
苦笑しつつ別れた。
あのおばちゃん、力加減を覚えて欲しい……と、ため息をつき、肩をすくめた。
だが、その数分後ーー俺の身体には力が漲る。
「不思議だ」
独り言ち、歩みを進めた。
特殊スキルーー”方向音痴”発動中の俺は、彷徨いながら歩く。
西の空のやや上方に、上弦の月がうっすら微笑む。 陽が追いかけられるように北西に傾き、メインストリートに俺の影を伸ばした。
まだ苔むしる石畳にはまだ朝露が光り、桜の花弁がチラチラと舞う。
少し暖かくなった風とともにーー
ゴォ〜ン… ゴォ〜ン…
教会の鐘が*10オクロックの刻を奏でる。
その音に導かれるかのように、俺は鐘の鳴る方へ歩き出した。
やがて、教会を過ぎるとギルド支部が見えてくる。
俺は緊張と期待が混じり始め思わず唾を飲み込んだ。
あの二人、もう来てるだろうか?
集合時間前には、着かなきゃなッ!
胸は高鳴り、景色も目に入らず足は自然と速くなっていく。
特殊スキル”方向音痴”をなんとか凌ぎ、ギルド支部に辿り着いた。
緊張しながらドアノブを握る。
───ギィィ…
いよいよだ、って感じだ。
そう思いながら足を踏み入れる。
受付の前には、ダンジョンアタックを申請するパーティーが列をなしていた。
居並ぶ冒険者たちの顔色は様々で、どこか不思議な緊張感が漂う。
周囲を見渡せば、“キョロキョロ”している二人が目に入った。
目が合うノビは、ニカっと白い歯を見せ、いきなりしゃがむ。
「ゴクどーさん、よろじくお願いじまづ!」
ピョンッ!
目の前に、勢いよく飛び込んできて思わず怯んだ。
「ち、近い」
いや、それよりもむしろ、ノビの装備に驚いた。
彼の装備は圧倒的なインパクトで異彩を放っていた。
髪にはしっかりと固定されたゴツいゴーグル。
彼が動くたび、それが光を受け淡く輝く。
その輝きはまるでーー古代魔法を封じ込めた遺物のよう。
ギルド支部の照明を受け、輝きを放つ全身を覆う緑色のラバースーツ。
そのスーツは、彼の身体にピタリと貼りつく密着感。
第二の皮膚のようで、動く度に筋肉の動きが見て取れる。
さらに、両拳には金属製のメリケンサック。
それは黒鉄製で、シンプルながらも力強さを感じさせる。
胸には特殊な胸当てを着け、それもラバースーツとの対比で目立ち、いかにも防御力を重視した堅実な選択に見えた。
キュタンキュタン
ノビが歩く度、わずかな音を周囲に響かせ、どこか両生類的な異質な存在感を放つ。
足元は、黒色のブーツを履いているが、これも一風変わっていた。
ブーツの踵は、水掻きのような形状ーー彼が水中での機動性を重要視していることを暗示していた。
その瞬間、師匠の言葉が頭をよぎる。
そう言えばーー『*フロッグマンの特技は潜水だ』って言ってたよな。
ノビを見て、さすがフロッグマンとの混血……と、納得した。
「HAHAHA……」と、コリン語で苦笑しながら、パメラに目を向ける。
誰もがーーその姿に目を奪われずにはいられなかった。
別の意味で強烈。
彼女の装備は”紅”を基調としていた。
トレードマークの紅の鍔広帽が目立っていた。
だが俺を見た途端、帽子をそっと外した。
彼女は紅いレザーのブルゾンの袖口を掴むーー艶やかな光沢が照明に映えた。
そのブルゾンの丈は短く、目を奪われるほどのヘソだしスタイルで大胆。
揺れるたび宝石が怪しく光るへそピアス。
そんな中ーーノビは憧憬の眼差しを向け、パメラをじっと見つめている。
当然、周囲からも彼女は注目を集めていた。
自然と俺の目もパメラに戻る。
パメラのスカートは短く、美しい脚線美を霰もなく晒す。
レザーの裏地が歩く度にチラリと覗く。
黒のガーターストッキングは、脚のラインを見事に強調している。
透けて見えるベージュの肌が照明に照らされ、妖艶に煌めく。
腿丈のブーツで闊歩するその様は気品すら漂う。
板の間をコツコツと音を立てて歩く彼女の姿は、さらに注目を集めていた。
「どう?ゴクちゃん?」
彼女は俺を見ながら、紅い杖を手にゆっくりと一周する。
杖の先端には蛇の彫刻。その杖の先は真紅の光が魔力に反応して揺れていた。
開かれたジャケットからは弩級のーー『爆弾』が微かに揺れる。
それに煽られるようにギルド内には微風が巻き起こった。
揺らすなよ!
柔らかそうだな。
……って、何、考えてんだ、俺っ!
この状況だ。 察しろッ!
思いながらも俺の妄想眼”死線”がパメラの装備からーー離れられなくなった。
ゴクッ…
じっと見つめてくるパメラの喉が鳴る。
さらにどこか上機嫌で腰をくねらせた。
彼女の顔立ちと艶やかな瞳がさらに、その神秘的な魅力を引き立てる。
笑みを浮かべた彼女は、艶かしい声を鼻に”かける”。
「あたいのことは、パメちゃんと呼んでね」
「呼べん……が、飲み込まれるようだ……まるでヘビに……」
ほんとにほんとに小さな声で俺は漏らした。
その格好ッ!男はイチコロってわけかッ!
狡猾ですけども……。
思ったが口には出さず。
得意技炸裂だ。
面映ゆい羞恥心が感情を麻痺させ、複雑な心境に陥る。
汗もじっとり滲んだ。
こりゃ、周りからも目を引くよな。
なんて思ってたーー矢先、空気を読まない男が動き出す。
ノビが物申すと言わんばかりに言葉を投げる。
「先生さ、パメちゃんだなんて、呼べねぇんさ」
ポツリとつぶやく。
パメラを見るその目は、真剣そのもの。
先生って、なんだか色っぽい響きだよな……と、思いながら俺はノビをつつく。
次の瞬間、真っ赤になったノビの淡い思いがーー耳打ちされた。
ノビは”*カルディア”の魔法学院時代から、ずっとパメラに好意を寄せているらしい。
これな。
言われてもなァ……。
困惑したさ。 わかるだろ?
案の定、ノビの言葉にパメラが反応。少し眉根を寄せてはっきり。
「貴様には、言っておらんぞ!」
「なんなら、この場であの世に、送ってやっても良いのだぞ!
ノビぃぃぃ!!」
怒鳴るパメラにあっさりとノビが打ち砕かれる。
だがしかし。
それに対しノビが「ケロッ」と、宙返り。
見ていた俺は”ひっくりガエル”だな、なんて思う。
『恒例行事』に自然と口元も綻ぶ。
だが、同時に息もついた。
彼らから見た黒一色の俺はまるで鴉のようだろう。
3人が異彩を放つ装備で揃ったこの場は、どう見ても目立つ。
そんな中、改めて挨拶した。
「よろしく頼む」
ノビとパメラもほぼ同時に微笑み返す。
「よろしぐ」
「ゴクちゃん、よろしくねん」
テンガロンハットの鍔を軽く持ち上げ、二人に頭を下げた。
先程のパメラの怒号の叫びと相まって、ギルド支部がざわつき始める。
どこか血生臭い……風が漂い、場の空気が一瞬で変わった。
見ていた冒険者、怪しい雰囲気を醸すドワーフが声を上げる。
「あの美人……へへへ。おいどんの好みだ」
ドワーフの目がパメラを射抜く。
気になった俺はドワーフの連れのパーティーを見た。
先頭を歩く一人は、大剣を背負う男で気配、いや【覇気】が異質。
多分このパーティーのリーダーだろう。
フードを被る耳長のエルフーー魔力の量が半端ないことぐらい、俺だって一目でわかる。
目しか見えない盗賊のような出立の黒頭巾の男。
こいつも諜報系のスキルを持ってそうだ。
そして、半裸なーー巨人族の男はやはりデカイ。
天井に頭が届くほど。初めて実物を見た。
そのニヤつく顔はどこか異常者のように感じだ。
見るからに怪しい”ハイランク”の五人パーティーだ。
こいつら、何かが違う。
ダンジョンで出くわしたら厄介そうだな。
思っていた矢先、突然体温は上昇ーー沸き立つ血、喉の渇きを抑え、彼らの背を見送った。
俺たちのような奇妙な3人組に、ギルド全体がざわつくのは無理はなかった。
桃色姉妹を待つ中、俺はひとり口にする。
「さあ、これからが本番だ。どんなダンジョンアタックになるのか……楽しみだぜ!」
お読みいただき、ありがとうございます。
気に入っていただけたらブックマークをお願いします。
リアクション、感想やレビューもお待ちしております。
【☆☆☆☆☆】に★をつけていただけると、モチベも上がります。
引き続きよろしくお願いします。




