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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第0幕 序章。 〜妄想図鑑と神代魔法士〜

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フロッグマン



 

 


 天上からゴクトーたちの様子を眺める二柱。


「ほほう。同志ケロッグ・フロッグ殿の末裔か?」


「そうみたいだな。そっくりだ」


 神シロに答える、黒銀の友の眉尻が下がった。



 神々は興味津々と言わんばかりに下界を覗く。








 ◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇





「せ、先生……起きでください……先生……!」



 静寂を破る若い声が聞こえる。


 


 ***【ビヨンド村の酒場】***




 突然、『蹲踞(そんきょ)(しゃがむこと)』の構えをとる青年の姿を目にした。 


 多分、人より視力が良いのは、薄々感じてはいたけども。

 しかし、また奇妙な構えだ。 何故しゃがむ?



 そう思いつつ、こちらを見つめる彼を薄目で見ていた。

 何かを確かめるかのように、彼のその眼差しは鋭く光った。


 思わず背筋が伸びる。



 注視していると彼の四肢がぐっと引き締まり、筋肉がピーンと張り詰める。


 何かを準備しているかのよう。




 次の瞬間ーー彼は両手を広げて勢いよく地面に叩きつけたーー。


 ”バンッ!”


 

 鋭い音とともに地面が震えた。

 その瞬間、彼は柔軟な後ろ脚を力いっぱい蹴り上げて、

 弾むように空中へと浮かび上がる。



 ビヨ〜ン。


 

 彼の足が地面を蹴る音とともに、その身体の動きに目を奪われた。


 爬虫類の王が舞うかのような、優雅で軽やかな跳躍。



 ピョン。



「はぁ? そんなのありか?」


 思わず声が漏れる。

 彼から目が離せずにいた。


 着地の瞬間も流れるように柔らかく、見事なバランスを保ちながら、

 次の一跳びに備える姿に、ただ驚きと感嘆を覚える。


 

 ピョーン。



 跳躍を繰り返しながら近づいてくる、ちっこい青年。


 彼の動きはまさに爬虫類、いや蛙そのものと言っても良いだろう。

 長い距離を瞬く間に跳び越えてくる。

 

 その姿は、力強さとしなやかさを兼ね備えていた。



 ピタン。



 ちっこい青年は見事な着地を見せる。

 


 まるで体操選手のようなピタっと静止する姿に、俺は見入ってしまった。



「おいおい、15メージ(m)を……たったの3ジャンプ?……マジかっ!」



 口から自然と零れる。

 その偉大なジャンプに圧倒されるばかり。


 そのちっこい青年を用心しながらも、じっくりと観察する。


 金色短髪が月明かりに照らされ黄金色に見える。

 こちらを見つめるライトブルーの瞳の奥ーー琥珀色の瞳孔は細くなったまま。

 突っ張る腕や太ももは、薄緑色に変色していた。 

 

 だが、顔だけは人間の持つそれ。

 むしろ幼くみえて、可愛げもある顔立ちをしている。


 両手に緑色の吸盤グローブ、両足には水掻き付きのブーツ。

 彼が跳ね上がるたびに、印象的に映ったのは言うまでも無い。


 そのちっこい青年は「ケロッ」と鳴き声を上げた。

 

 

 ”チチチ”ーーコウロギの翅の擦れる音が、

 ひんやりした風とともに運ばれてくる。


 アカリとジュリは、目を丸くしたままその場から動かない。


 場にはしんとした空気が漂い始める。

 

 俺はこの時とばかりに記憶を辿った。


 彼の装備や見た目から、”フロッグマン”と人間の混血だ、と理解した。

 師匠から託された『ズードリア大陸種族大鑑』に、

 フロッグマンについて、事細かに書かれていたのを思い出す。

 ページに目が止まったのは、珍しい種族と思ったからだ。


 でも、彼の見た目は大鑑のイラストとは異なり、洗練されてない。

 いや、むしろ田舎者の匂いが、プンプンとこちらまで薫るようだ。



 グローブもブーツも、特殊すぎだろっ!



 ツッコンだが口には出さず。 

 俺の唯一の取り柄だ。


 

 ちっこい青年は、伏せるパメラの背中をじっと見つめていた。



「起きてケロッ!」



 そう言って背中を摩るが、結構な酒が入った『爆弾(ダイナマイト)』パメラは、起きる気配を全く見せなかった。


 

 肩をすくめながら、俺は周囲の様子を窺う。



 その瞬間ーー「ケロケロケロケロケロ(おぎてくださいよ、先生)!!」



 ちっこい青年の手荒な揺すり。



 おいおいおいおい。 それ何語?


 だが、俺はその言葉の意味を理解できた。

 不思議な感覚だ。



 俺の心のツッコミを知ってか知らずか、ジュリが拾い上げる。



「ちょっと、あんたそれ何語?起きないのよ、さっきから……」


 その性格ならな、とジュリの言葉に息をつく。

 彼女は案の定、パメラとちっこい青年の間に飛び込込んだ。


 ちっこい青年の腕を掴み、鋭い視線、いや睨みを効かせた。

 眉間に皺を寄せ彼女はじっと、そのちっこい青年の顔を見やる。



 あのジュリの顔、かなり機嫌が悪いぞ!

 おい、ちっこい青年、吠えられるかも? ヤバイぞッ!



 俺は苦笑しながら、その様子を眺めていた。



 一方でアカリも不審がるのだが。

 彼女は冷静な物腰を崩さず、そのちっこい青年に問いかけた。


「お知り合いですか!?」


 その表情は穏やかながらも声はキツめ。語気もどことなく強く感じる。

 

 彼女の心に”何か”が、引っかかっているのではないかと思えたほどだ。



 アカリ、ほんとブレないよ。

 その鋭い視線っ!……怖いんですけどもッ!



 胸中、この状況に困惑。

 

 だが、姉妹の態度もお構いなしに、

 そのちっこい青年がボソリと漏らす。


「オラはパメラ先生の、生徒せいどなんさ……」


 ひどいなまり混じりにそう言って、ため息をつく。


 ちっこい青年は落ち着きなく、オドオドしていた。

 

 異なる三つ巴の視線バトルに、俺も少し怯んだ。


 なんか見覚えがあるな……。

 あ! そうかっ! パン屋の息子だッ!

 どうりでな、ひどい訛りだと思ったよ。



 あの時の怒鳴り声ーー記憶が俺の脳を掠める。


 

 穏やかならぬ空気が立ち込める中、ちっこい青年の琥珀の瞳孔がパッと開く。


 そのライトブルーの瞳がパメラに向けられたーーその瞬間。


 ようやくパメラは目を覚まし、少しだけ息を整えた。



「んっ…く……」


 彼女の表情には、まだどこか眠気が滲む。



「先生、オラでつ。ノビでつ。起きでください!」



 ノビと名乗るちっこい青年が声をあげる。

 

 パメラはキリッとした表情を見せ、眉根を寄せて唇を動かす。


「ノビ……だと? 貴様、なんでここにいる?」


 言い終えた彼女の表情は渋い。


 なんだろ、『あたいはパメラ、よろしくねん』って、

 軽い感じとは真逆、違和感すら覚える。



 パメラだよなっ? 別人かッ!?



 ツッコミながらも、驚きと疑念が頭に浮かぶ。



 しばし様子を見てみるか、と黙視を続けた。


 ちっこい青年ーーノビはパメラの言葉を耳に入れたその瞬間、わずかだが口元が緩んだ。

 

 彼は誇らしげに、ひどいなまり口調でパメラに答えた。


「新じいダンジョンが出来たって聞いで、ふるさとに帰っできたんさ!」


 だが、パメラは険しい表情のまま、言の葉を裏返す。


「学院はどうした? 貴様のランクは、まだ『B級』だったはずだが……」


 彼女の眉間には深い皺が寄る。


 しかし、ノビは微かに頬を緩めながら紡いだ。


「学院は休学じできました。ダンジョンに潜っでみたくて……」


 そう言って、”おとぼけがすぎる態度”で肩をすくめてみせた。

 その顔は赤く染まってもいる。


 夜空を見上げるノビ。

 二つの満月が嘲笑うかにように、ノビとパメラを照らす。

 冷たい風は揶揄うように二人を包み込んだ。

 

 アカリとジュリも、この二人のやり取りを静観している。


 けれど、パメラの表情は惟然険しいまま。

 さらに彼女はまるで諭すようにノビに言の葉を落とす。


「貴様ではまだ実力が…… 私も20階層までしか潜ってないからな…

 全てはわからんがやめておけ、貴様死ぬぞ!ダンジョンは甘くない。

 私でも、過去に何度も命を落としかけた……」


 パメラは言いながら天を仰ぐ。


 その姿は経験値の威厳ーーまさにそのもの。

 彼女はゆっくりと視線をノビに向けた。

 その目は優しいようでどこか厳しいようにも見える。


 ノビは再びため息をつく。


 諦めたのかっ!?

 いや違うな、こりゃもっと違う何かだ。


 その様子を眺め思った。



「ししし」と、俺はこっそり笑った。


 その瞬間、ノビがこちらをギッと睨む。


 その瞳孔は開き、瞳が揺れたように見えた気もする。


 もしかしてーー泣いてるか?……悪かったな。



 俺の思いなど知る由もないーーノビが意を決したように口を開く。



「先生が連れで行っでくれれば、いいんさ!」



 その語気も強めな発言にパメラがため息をつく。


 彼女は一呼吸置いてーー低い声だが、包み込むような優しさを感じさせながらノビに言の葉を落とす。


「断る。足手まといを連れて行けば、

 リスクは全てこちらに降りかかる……諦めなさい」


 彼女の目は真剣そのもの。

 まるで駄々っ子を諭す先生のようだ。



 パメラさんや、そのギャップーー。

 そういうのも好きですけどもッ!

 良い先生って、感じで素敵なんだが。


 思わず口元が緩んでしまった。


 表情を少し和らげたパメラは、夜空の星を見つめていた。

 諦める気配さえ見せない、ノビの顔が目の端にチラつく。


 パメラのその姿を見て思ったことが一つある。


 美人先生だし、装備も…… せ  く  し──  。

 しまった、余白……って、なんで暴露した俺っ!


 もちろん口には、出せないさ。


 彼女の身にまとった蛇革のコルセットは、大胆にも前が大きく開いていた。 

 その質感と革紐のデザインは精巧で、彼女の存在感をさらに際立たせる。


 落ち着きと自信を滲ませるようなパメラの姿に、思わず目が奪われる。

 彼女の毅然とした振る舞いには、どこか貴族のような気品さえ感じられた。



 『爆弾』に、こんな一面があるなんてな……。

 意外だ。 でも、悪くない。



 彼女の変貌ぶりに、俺は好感が芽生え始めていた。

 先程の困惑が嘘のようにやわらぎ、尊敬の念が開花する。


 冒険者としての経験、風格を漂わせるその態度ーーまるで、荒波を乗り越えてきた者だけが纏えるオーラのよう。



 静観していた俺は、ここぞとばかりに口を開く。



「あの、パメラさん、少しいいか?」




 



 






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