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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第0幕 序章。 〜妄想図鑑と神代魔法士〜

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『蛾・メッシュ』

 




 天上から覗く神シロが零す。


「どうやら、例の奴らが動き出したようだぞ」


「マジか……こんなにも早く魔族が……」



 黒銀の目の友こと、トランザニヤの瞳が赤く閃く。

 不穏な空気が流れる中、神々は再び下界を覗き込んだ。




 ーーその頃、ゴクトーは薄暗くなりつつある、ビヨンド村をまだ彷徨っていた。




 ◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇







「ありがとう、助かったよ」


「もう日暮れだ。早めに帰りなよ」



 西に沈む茜が紺空に変わり、星々が煌めき始める。


 村の若者に案内され、ようやく目的地に着いた。



 お礼に金貨を一枚手渡す。



「……ふっ、 お主、礼をわきまえてるな」



 若者の仕草はまるで老齢の貴族のよう。 

 顎に手を添え口が綻ぶ。


 

 その話し方ッ! 


 内心のツッコミはお得意。

 ニコニコ笑いながら、若者はそのまま去っていく。



 年寄りか?……ったく。


 彼の背中を見送った。




「ここかぁ」



 

 ***【ロカベルの魔法薬材と薬店】***



 窓ガラス越しには、薬材がびっしり並ぶのが見える。

 

 道のり……。

 長かったんですけども?


 苦笑しながらため息をつく。



「ヤバイ時間がない!」


 慌てて店の扉を肩で押す。



 カラン


 ようやく辿り着いた、って感じだ。



 その瞬間ーー若葉のみずみずしい清涼感が漂う。


 まるで、山中の澄んだ空気の中にいるような感覚。


 大きく息を吸い込むと気分までほぐれていく。

 薬草とともにハッカ油の爽やかな香りが、妙に心を落ち着かせた。


 気を取り直し、店内をゆっくりと見渡す。


 ガラス瓶に光が差し、緑や琥珀色がきらめく。

 見渡す限り、薬瓶や薬草が所()しと並んでいた。


 ーーその時、カウンター越しで頬杖をつく女性が俺に声をかけた。


「いらっしゃい。探し物かしら?」


 しっとりとした、つややかな声と美貌ーー白衣をスラリと纏っていた。


 美しい緑碧色の髪を掻き上げ、長い耳にかける滑らかな白い手。


 ふわりと漂う、爽やかな香りがバニラのように甘く変わった。

 

 潤うエメラルドの瞳で彼女が俺に近づく。


 柔らかな笑みを浮かべる、その美女ーー"おねいさん”は初見にもおくびれず。



「ふふふ。顔を真っ赤にして……可愛い坊やね。……魔法回復? 

 体力回復かしら? 麻痺や毒の回復ポーションも揃ってるわよ。

 それとも……若いのにーーあれ”が欲しいの?」



 最後の一言ーー艶やかな声の中に含まれる揶揄(やゆ)するような響き。


 バウンッ!


 見つめる彼女の視線に『鼓動』が跳ねた。


「おいッ!」


 小声で零しながら胸を押さえる。


 この感じ……どこか懐かしい気もする。


 この綺麗なおねいさんは、一体何者……と、思わずその美に当てられ顔を床に落した。



「ふふ。坊やね」


 彼女の艶っぽい声に顔を上げた。

 

 わざとだろう、いや、わざとの違いない。

 彼女はこれみよがしに低い姿勢から俺を見上げる。


 ”たわわ”ッ!


 迫力の谷間が俺の目を奪った。


 あれっ? 目が。 目が霞む。

 身体が宙に浮く感覚。

 目の前がゆらゆらと揺れ出す。

 意識が遠のいていく。



 視界がぐにゃりと歪み、カチッとした音とともに、

 俺は”自分の癖”の世界へ入っていった。




 【妄想スイッチ:オン】


 ──ここから妄想です──


 

「けけけ……」


 谷間から覗く魔物『蛾・メッシュ』が北叟笑む。

 

 強敵を目の前にして、俺の奥歯がギリっと音を立てる。


 紫の翅には二つの目。



 威嚇なのか……?


 翅をばっと広げた。



「ふっ…… 『ジョウヨク・フクロウ』の笑みのようだな……」



 握る拳に汗が滲む。


 張り詰めた緊張が漂う中ーー



 バフッン バフッン



 煌びやかな鱗粉を放つ。



 次の瞬間ーーチラリ///



 『蛾・メッシュ』がこちらを見る。



「…っ……”ナマメカシ”のスキルかっ!」



 また、チラリ///



「くっ!」



 肩が震え膝が落ちる。



「ふふふ」



 『蛾・メッシュ』は、笑みを浮かべたーー。




【妄想スイッチ:オフ】


 ──現実に戻りました──


「旦那、あっしにお任せを!」


 そう言って『鼓動』が 『蛾・メッシュ』の襟元をぐいっと掴み、吸い込まれるように『妄想図鑑』に消えていった。

 

 

 俺は意識が戻り、我に返った。



「”はっ” 艶っぽいな……蛾・メッシュだと?」


 

 滲む汗が目に入り、まともに息すらできない。


「何か言った?」

 

 耳を傾ける綺麗なおねいさんは、ただ笑みを浮かべ、俺の顔をじっと見つめ続ける。


 どうやら俺の小言ーー妄想も見えては、いないようだ。

 少しの気まずさが残りつつも、あえて俺はここで声に出した。

 もちろん、うつむきながらだ。 察してくれッ!



「"あれ”以外のポーション……五本ずつください……」



 意味もわからず、ただ注文を告げる。

 一泊置いて見上げた瞬間、彼女と目が合う。



「か、かわいいわね」


 彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべ、口元に手を当てて笑った。


 その言葉と仕草に背中にも、じっとりとした汗が滲む。


 大きく息を吸い込む。



 その目ッ!

 やめてほしいんですけども。


 思いながら視線を窓ガラスに向けた。


 対面の店の松明に火が灯る。


 ゆらゆらと揺れるのをじっと眺め時を稼いだ。

 

 冷静になる余裕が少しできた。



 この時、ふと頭を掠めた師匠の言葉。



『エルフは見た目に反して、年齢が大きく違うからな。はっはははは』



 そう師匠が言ってたのを思い返した。


 なんとなくな。 口が勝手にだ。



「騙されるもんか……」


「っえ?」


「いや……何でも……HAHAHA」



 小さく漏れ思わず苦笑するしかなかった。

 そんな俺を他所に、一方の綺麗なおねいさんは上機嫌。


「用意するわね。ちょっと待ってて」


 彼女はカウンターへ戻り、短いスリットから網目の美脚を覗かせる。



 色っぽすぎるだろ?  

 ここ薬屋だろッ!



 息つく暇もない。


 鼻唄まじりに彼女が薬瓶を並べ始める。


 独特な形状の小瓶。 


 揺れる色とりどりの液体。


 さすがにこれくらいの色分けなら分かるぞ……。


 ん?……でも……と、思いながらも小瓶を凝視した。



 ふと、彼女が口角を上げ上目遣いで言葉を紡ぐ。



「全部で金貨3枚ね。おまけも付けとくわ。た~くさん買ってくれた、

 ワタシ好みの坊やにね……ふふふっ」



 そのしゅんかん。

  ↑最早漢字にもならない……心の動揺だ。 察しろッ!



 “坊や”って! ガキ扱い、すんじゃねぇ!


 心の中で叫んださ。


 

 つややかな声が響く中、彼女の唇には意味深な笑みが浮かんでいた。


 表情はどこか妖艶さを感じさせ、周囲の空気を一変させる。



 金貨3枚を慌てて渡し、『アイテムボックス』に放り込んだ。



 その時、彼女の表情が一変した。 



「気をつけて……割れるわよ……ワタシの薬たち……」



 そう言って息をつき、肩を下げる。



 その顔はかすかに、かげりが見えた。



 どうしたんだ?  



 チラリと彼女を見やる。


 その瞬間、柔らかい笑みを浮かべる彼女。



「また来てちょうだいね~。 ”特別サービス”しちゃうから〜」



 言い終えると「パチッ」とウィンクを寄越した。


 まるで、”魅惑の魔法”にでもかけられたようにだ。


 心、奪われたよ。  見りゃわかるよな。



 狼狽える俺を他所に、次の瞬間ーーchu♡



 色っぽい投げキッスが俺の♡(ハート)に”呪い”をかけた。



 いや、麻痺の魔法か?



 解けるのか……俺っ!



 深呼吸して気を落ち着けるが、固まる俺。



 っく! こ、このおねいさん……。


 侮れねぇ!



 俺は彼女の目をそらしつつ、なんとか言葉を絞り出す。



「ど、どうも……」



 カラン


 その場から逃げ出したよ。 



 心の中の余韻と言いますか……なんと言いますか……。


 思いながら店に振り向き、しばらく佇む。


 大きく息をつき、雲ひとつない黄緑色の二つの満月を眺める。


 風も穏やかだか少し冷たさを感じる。



「魔性のエルフだな……」



 ポツリと漏れ出た。



「まあ……いいか」



 ……で、結局パンは買えなかった。



 必要なポーションは手に入った。


 これでダンジョン攻略には困らないだろう。


 ちょっぴりの”満足感”が意気揚々と足を進める。




 だがしかし。  ”方向音痴”スキル発動だよ。 


 

 冒険者としては致命傷とも言える俺の弱点。



 まるで道自体が変わったみたいだ。



 あれ? 宿の名前、なんだっけ……?

 やっちまったか?



 冷や汗が額に滲む。

 途方に暮れながら路地を彷徨った。



 角に大きく伸びる黒い影。



「けけけ」



 噛み殺したような笑い声に背筋が凍る。


 身構えながら用心し、急いでその影に近づく。



「嫌な気配だ……」



 初めて感じる異様な気配。


 何かに付き纏われてるような感覚。


 だが、師匠の柔らく優しい【覇気】とは……違う。


 俺は注意深く周囲を見渡す。



 だが、そこにはーー誰もいなかった。  


 肩をすぼめ、どこかほっとしながら、気持ちを切り替え歩き出す。



 やがて、朝方に見かけた小さな教会が目に入った。

 メインストリートに向かって大きく一歩踏み出す。



「やべ!」


 

 苔むしる石畳にーー思わず”コケ”た。



 かっこわりぃが毎度のこと。



 膝に力を込め再び、歩き出した。


 ふと、メインストリートの先に、赤と桃色の点が目に入る。 


 それは朝に通った酒場の付近だったーー。




「ん?」








 「お読みいただき、ありがとうございます」


 挿絵(By みてみん)

(※ミンシアの衣装は異世界の薬師制服をベースにした特注のコスチュームです。

 ※デザイン上の露出はありますが、下着ではありません)




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