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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第0幕 序章。 〜妄想図鑑と神代魔法士〜

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ゴクトーの長ーい、一日【後編】──肉屋とパン屋と……黒い影

 テンガロンハットとローブを手に入れたゴクトー。

 食料調達のため、次の目的地「肉屋」へ向かうが──予想外の人間ドラマに巻き込まれる。

 



 天上から覗き込む神々も声が、流れゆく雲間に溶けていく。


「……あの帽子をようやく手に入れたな」


「ははは、面白くなってきたな、黒銀の」


 神シロは腹を抱えて笑っていた。


「まだ、出逢いは終わっちゃいないさ。この村には因縁と未来が潜んでる」


 神々の視線は村の一角に注がれる。







 ◇(主人公、ゴクトーが語り部をつとめます)◇ 






 気持ちを入れ替え、ゆっくりメモを広げる。


 ”特化スキル”を持つ俺はこの地図が頼みの綱だ。



 ……次は薬屋だな。


 

 思いながら地図を見て歩く。 


 だが、ふと背中にドス黒い気配を感じた。

 誰かにじっと見られてるような感覚。

 それはこの世のものとは思えないーー威圧を放っていた。


 

 咄嗟に振り返る。

 

 しかしも、後ろには誰もおらず、妙な気配も消えていたーー。


「なんだったんだ……」


 俺は独り言ち、また歩みを進めた。


 偶然にも肉屋を見つけ思わず入る。

 木製の扉が引き摺るような乾いた音を立てた。



 その瞬間ーー木を燻したスモークの香りが鼻をくすぐる。

 肉屋のカウンターには、干し肉や燻製が並び、肉の塊も天井から吊るされていた。


 店内には、お上品な言葉使いの声が響く。


 おほほほほほ、ってなぁ。

 村の肉屋だぞっ!


 目が点になるくらいだ。


 身なりの上等なご婦人方が列をなす。

 

 きっとこの村に出店してきた、大手チェーン店の重役の妻たちだ。

 匂いでわかる。

 彼女たちがつけるフローラルの魔香水。

 それが店のスモークの香りと相まって、

 まるで高級デパートの入り口前にいるようなか感覚。


 あ、でもカルディア魔法国でも、入ったことなかったよな。

 ーー「サンドル・デ・パート高級店」。


 師匠と待ち合わせた、店前でのことが思い出される。

 

 

 俺はご婦人たちの言葉に耳を傾けた。


 「このお肉、ステーキにしたら美味いかしら?」


「オックスは高級ですからね、品質は間違いないですよ」


「美味しいのよね。カイド産ですもの。ここのお肉……ふふふふふ」


「あるだけ全部、いただくわ」



 なんて言っちゃってるよ。 


 オックスは牛のような魔牛。

 ズードリア大陸の西南、巨人族が治める『カイド』産が最も有名でポピュラーだと、師匠から聞いたことがある。 

 

 ご婦人方はすでに、商品を吟味し始めてる。    


 っえ、全部っ!? やべ、俺も買わねぇと。


 周囲にいる女性従業員たちは、忙しなく接客していたから仕方なくーー

 テキパキ仕切るおばちゃんに声をかける。

 ふくよかな顔立ちの、店主らしきおばちゃん。



「乾燥腸詰と干し肉。それと鶏モモの燻製も頼む」


 俺の言葉に優しい笑みを浮かべつつ、彼女は商人らしい哲さを漂わせる。


「あんた……その刀『冒険者』だよねぇ… ずいぶん買い込むねぇ。旅かい? それとも……あのダンジョンかい?」


「ダンジョンだ」


「そうかい……」


 彼女は笑い、手早く注文品を包みながら話し始めた。


「うちの店に来る『冒険者』たちから、よく聞くのよねぇ。

 こっちからたずねたわけじゃないんだけど、みんな話してくれるのよ」


 その声は滑らかで彼女が続けて紡ぐ。

 

「ダンジョンには、各階層に魔物が現れない、

 『セーフティーゾーン』があるって。

 でも、その階層ボスを倒さないと次の階には行けないから、

 そこでみんな野営するんだってさ」



「そうなんだ」



 俺の返事は、彼女の早口に一層拍車をかけた。



「で、うちの乾燥腸詰をパンに挟んで食べるのが最高だって評判よ。

 お世辞かもしれないけど、悪い気はしないわねぇ」



 そう言っておばちゃんは、誇らしげに笑っていた。


 俺にとってその話は”とっても貴重な情報”。



 なるほどな……セーフティーゾーンか。


 良いこと聞いたな。



 思いながら耳を傾けつつ、俺は尋ねる。



「いい話が聞けたよ。それでーーパン屋はこの近くにあるのかい?」


「えぇ、この通り沿いにあるわよ。

 村で一番のパン屋だから、すぐわかると思うわ」


 おばちゃんがさりげなく口元を綻ばせて、俺に肉を手渡す。



「はい、全部で金貨一枚にしてあげるわ。おまけよ、ありがとね~」



 彼女に感謝しつつ、金貨1枚を手渡し、『アイテムボックス』へ収める。



 親切なおばちゃんだ……と、思いながら店を出る。



 俺は購入したてのテンガロンハットを被り、気合を入れた。


 その瞬間、何だか頭上で声がした。



「ん?」



 空を見上げ周囲も確認ーー何もない。



 気のせいだよな。



「ヨシ!」



 あの話を聞いたらパンに挟んで食べたくなった。



 次の目的地は変更。俺はパン屋を目指した。


 教えてもらったパン屋の前に到着。ほんの数分歩いた距離だ。



 だがーー『CLOSE』。店の扉にその札がぶら下がる。



 閉まってるとはな。

 仕方ねぇ、薬屋に行くか。



 次の行き先を確認しようとしたーーその瞬間。


 パン屋の中から怒声が響く。


 年老いた男と若い青年の声が入り混じり、まるで喧嘩でもしているようだ。



 何だ……? 

 一体、中で何が起きてるんだ?



 不穏な空気に思わず立ち止まる。



「なんでパン作りの修行に行っだお前が!!」


「オラはパン屋になんか …… なるもんかさ!」


「バガもん!!! お前が継がんでどうするんさ!!」


「サーシャが、いるだろさ!」


「サーシャも手伝いは、しでくれでるが……いずれ嫁さ行くんだ。……この店ばどうなる……」



「つんぶれれば… いいんさ!」



「ぐぬぬ…… もう呆れだわ。……何年振りがに帰っで来たど思ったら……

『冒険者』なんぞになる……? ふんざげるな! この親不孝もん!! 

 お前 なんぞ出でいげーー!!」



「わがったよ!! もう帰ってくるもんかさ!!」



 バーンッ!


 突如ーー大きな音とともに勢いよく、パン屋の扉が開かれた。


 カキッ

 

 その衝撃で『CLOSE』の札が地面に落ちる。


 中から飛び出してきたのは、若い青年。

 その青年は険しい表情を浮かべていた。



 青年が鋭い目で俺を見据える。


 見せ物じゃねぇ、って顔だな。

 俺をそんなに睨むんじゃねぇよ。


 一瞬、緊張した空気が場に流れる。


 だがーー何も言わずにそのまま、青年の姿は村のどこかへ消えた。



 何だったんだ、今の? ドラマか?……と、チラリと落ちた札に目をやる。


 もうパンを買うのは無理そうだ。


 それにしても、あのちっこい青年。

 年下に見えたが、あの迫力は、なんなんだ。


 ぼんやりと頭の中を整理は、してはみるものの。

 俺は勢いに押され、無意識にメモを握りしめていた。



「あ!」



 気つけば、地図がクシャッと。



「……せっかくの地図が……」



 慌てて両手で伸ばしながら薬屋へ向かう。



 道に迷い、何度も立ち止まっては、

 滲んで読めなくなった文字を指でなぞり、メモを確認。


 しかし、一向に場所はわからない。



 見上げると陽は茜を帯び、墨空が広がっていた。


 俺の迷いにも容赦なく陽は暮れていく。


 準備、間に合わないかもしれない。

 

 ……ってか、呑気かっ!


 この後に及んで、まだ自分にツッコミを入れる性分が憎い。

 我ながら呆れる。


 怪しい声、

 魔導具屋での買い物、

 肉屋でのやり取り、

 パン屋での一件。



 振り返れば、考え事ばかりしていた気がするーーけれど、何も得ていないようで、何かが変わり始めた気もする。



 でも、どうしてもな。 頭が回らないんだよ。


 わかるかい? そういう日ってあるだろ?



 今日一日を思った以上に長く感じる俺だった。


 ーーそしてその夜は、まだ終わってなかった。





 









 挿絵(By みてみん)

 (*魔族の監視役)

 

 お読みいただき、感謝!


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