緊張の一瞬、派手なお花畑フェスティバル!
「シロ、お前、食いつきすぎだぞ!」
「いやな、お主にそっくりだなと思ってな」
黒銀の目の友の瞳がパチパチっと瞬く。
神シロの言葉に彼はどこか嬉しそうに笑った。
神々は口元を緩めながら下界を覗く。
◇(主人公ゴクトーが語り部をつとめます)◇
「いよっ 兄ちゃん! 両手に華だなー!!」
「顔が真っ赤だぞぅ?」
「これから……? 若いって羨ましい! にゃははは」
「……ちょっと、やめなさいよん……!」
その女性が振り返った瞬間ーーブルン。
爆風とともに一瞬、空気が震えた。
揶揄う冒険者たちの顔が歪む。
ふわり、風がひまわりの白いモフッとした種を運んでゆく。
空が薄墨色に変わった頃、宿屋にたどり着いた。
アカリはその凛とした、美しい女性の背中を見送っていた。
「止めてくれてた彼女がリーダーなのかしら……?
あの胸まるで『爆弾』ね。 めちゃくちゃな威力だわ。
スタイル良いし、紫髪だし魅力的ね……」
俺の腕を掴んだまま、どこか嫉妬混じりの声で彼女が話す。
思わず恥ずかしくなり、揶揄う冒険者たちから逃げるように背を向けた。
そんな俺を見てアカリが目尻を下げ、笑みを浮かべる。
例えるなら「にまぁ」。
その笑顔には、何か魂胆があるとしか思えない。
次の瞬間、ジュリの眉が寄る。
どこかいじらしさが見えたのは気のせいか。
彼女が頬を膨らませ口を開く。
「っは、入るわよっ!」
うわずった声だった。
間口の広い、どこか落ち着く感じの宿屋。
その玄関を3人でくぐる。
「いらっしゃいませ」
キラン✧
受付で俺たちを迎える女将さんの目が閃く。
次の瞬間、風が止み緊張した空気が周囲に漂う。
察したのか、ジュリが表情を変えた。
顔、今にも弾けんばかりだな、と思ってしまう。
アカリがその様子を見てニヤリと笑っていた。
その瞬間ーー女将さんの訝しがる目が俺を貫き、苛立ちを滲ませ口を開く。
「一人増えたの……? あの部屋なら銀貨八枚。まったく、今どきの若い女の子は、男を連れ込んで」
額にかすかな”#”を浮かべる女将さんはそう言った。
その目は、益々鋭さを増していく。
そんな中、俺は「いや、誤解しないで欲しい」と、小さくつぶやいた。
ため息をつき、女将さんを見やる。
その目は、実に分かりやすく、じとり。
姉妹たちはどこか不満げな態度。
まぁ女将さんから開口一番、怪しまれる言葉を聞いたんだ。
当たり前か……。
そう思っていた矢先。
頬を染めるジュリが口を開いた。
「そっ、そっ、そんなんじゃ……ないわよ……」
恥ずかしそうに彼女がうつむく。
動揺してるのか? 顔、真っ赤だ。
俺の心の意見だ。
一方でアカリがジュリとは違った雰囲気を醸しだす。
彼女の顔に「あなたがタイプです」って、まるで書いてあるように見えた。
目をこすったさ。 んなわけあるわけない。
ぼんやり見えた気がしたんだ。
わかる? この感じ?
妄想か、なんて戸惑ったりしちゃうし。
アカリの目の奥が閃いた……気がするっ!
そんな俺をよそに、アカリはあっけらかんな一言を投げる。
「まぁ……部屋は広いし……あながち、間違ってはいないわね」
声は普通のトーンだ。至って冷静なのが逆に怖い。
場に緊張感が漂う中、ふと、心に浮かぶ。
アカリさんやその文字、消す気はないのか!?
なんて我ながらアホなことを考えた。
「HAHAHA」……と、思わずコリン語で苦笑したよ。
もちろん恥ずかしくもなったさ。
宿屋は決めてなかったから、丁度良かったけども。
この姉妹と一緒にいると、なんだろ、この強制感……。
俺、大丈夫かな……?と、思ったが口には出さない。
ま、俺の取り柄だ。覚えておいてくれ。
仕方なく納得して俺も短く投げた。
「この村に来たばかりなんだ、ひとり部屋で頼む」
「ひとり部屋なら、銀貨五枚!」
女将さんが早口で短く返した。
な、なんだ、この女将さん……妙に機嫌が悪いが。
あえて表現するなら「猪……」みたいな顔だ。
思いながら肩をすぼめ、銀貨を渡す。
その時だった。
”ビリビリ”とした空気が周囲に漂う。
心臓がドキッとし、目の前がゆらっと歪んだ。
カチッとした音とともに自分の世界、妄想が俺の心を支配したーー。
【妄想スイッチ:オン】
──ここから妄想です──
緊り詰めた息、女将さんの『ハナタレ』が空気を切り裂く。
「”ふん”」
彼女は鼻息を荒くした。
「うわあああああああああああ!」
俺は彼方に吹き飛ばされた。
「ふんっ。 ……軽い男ね」
女将さんはわずかな笑みを浮かべていたーー。
【妄想スイッチ:オフ】
──現実に戻りました──
俺は我に返り、意識を取り戻す。
「……はっ!また癖がっ!」
思わず口から溢れた。
姉妹のせいで完全に浮かれてるな……。
思いながら冷や汗を拭う。
姉妹たちは俺の言葉に苦笑いこそするが、表情はまだ硬い。
一息ついて、女将さんから鍵を受けとる。
ついでとばかり眉を寄せ、女将さんは小声で俺に耳打ちする。
「……あの姉妹、見た目ほど単純じゃないから……気をつけなさい」
そう言い残し、女将さんは軽やかに奥へ去っていった。
俺はこの状況にポカンとしていた。
わかるだろ? 目と口を開いて、ただ立ち尽くしたのさ。
誰だってそうなる。
一方で、対照的な姉妹がちらちらと俺を見ていた。
ジュリが女将さんの後ろ姿に向かって、舌を出す。
「ベ──ぇ───っ!」
可愛い。
そう思ったが、口に出すのは憚られる。
ジュリは俺と目が合うと再び顔を朱らめる。
一方、アカリは”何食わぬ顔”をしてポツリ。
「田舎の宿屋なんてこんなものよ。とりあえず、私たちの部屋でお茶でも…」
そう言うアカリは、腕を掴んだままーー”むにゅっ”て、してくる。
これはなんのサービス?、ってか、いい加減離せ。
俺だって理性てもんがあるんだ。
ま、嬉しいけども。
思いながらも、頬に朱がかかるアカリに引きずられ、俺は部屋へ向かった。
もちろん心境は複雑だったさ。
宿屋の中を見回し、その趣きに舌を巻きながらーー部屋の前に辿り着く。
アカリが腕を離すと小声で零す。
「ここよ。さあ、くつろいで……」
「……ああ」
お互いぎこちなさが伝わる、アカリとの一瞬のやり取り。
ガチャッ。
入ったその瞬間、フローラルの甘い香りが漂う。
「っえ!?」
その瞬間。
目の前に広がったのはーー赤・黒・金・緑・白……。
まるで『お花畑のフェスティバル』。
だがーーかけてあるのは、”派手な装備”と色鮮やかな下着だった。
俺の理性は最早、風前の灯火。
瞼を閉じピンと固まり、呼吸も止まったよ。
そんな俺を他所にアカリは通常運転。
竹を割ったように口を開いた。
「気にしないで」
わずかに目を吊り上げ、平然と言ってのける。
「気にしないで」じゃないでしょ?
ツッコンださ。心の中でな。
一方でジュリの表情が途端に変わっていく。
彼女は俺の視線に気づき、慌てて取り込む。
ジュリは顔を真っ赤に染める。
「わたしのは緑と白。地味なやつばっかり……。
ネーの……あんなカラフルなの、真似できないよ──っ!
ネーと比べられたのかなぁ?」
彼女は早口で小さくつぶやく。
「っえ?」
俺にはよく聞こえなかった。
ため息をついたジュリと目が合う。
その瞬間、彼女が勢いよく声を張った。
「わたしは気にするわよっ!
何、ジロジロ見てるの、このっ!へんた──いっ!」
そう言って彼女は眉間に皺を寄せ、ワナワナと肩を震わせる。
けれど、怒ってるというより、照れ隠しってやつだな。
わかる?
思いながらもその場でキョトンと立ち尽くす。
ジュリから罵られ蔑むような目を向けられた。
もちろん彼女から目をはぐらかしたさ。
場に混沌とした空気が漂う。
押しつぶされるような緊張感に呑まれていった。
そんな中、艶のある声でアカリが促す。
「ここに掛けて……今…… お茶を淹れるわ」
相変わらず、艶っぽい唇だ。
下着を見られた事にも、妹の事にも、全く動じないのはすごい。
あっけらかんとした態度を見せるのもな。
俺の思いなど、お構いなしに アカリが紡ぐ。
「見られても減るもんじゃないし……殿方にむしろ、見せるものなのに」
彼女はそう小声で囁き、笑みを溢した。
「えっ、なんて?」
とんでもないことを、何気なく言う。
……わかってやってるのか? アカリの奴。
この状況に穏やかならぬ雰囲気を感じる。
彼女たちの視線がやたらと気になっていた。
ヤバイ… ヤバイ… ヤバイ…
スゴイ…
ニラマレテマスケドモ……。
心の中で言葉が”カタカナ”になるぐらい動揺し、じっとりと汗が滲む。
『お花畑フェスティバル』が『地獄のカーニバル 』へと。
その瞬間から変貌を遂げていく。
姉妹に睨まれ、目の焦点をぐるぐる回しながら、そのまま勧められたソファに腰を下ろした。
どこに目を向けたらいい、と床に目を落とす。
ただならぬ緊張感が部屋に漂う中ーーアカリは何気ない仕草で、キッチンへ向かい言の葉を投げた。
「私、熱いのが、好みですわ」




