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疾風のカノン  作者: ひで
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第4話 魔の森

 村の門の前に村長を始めとした村の面々が集まっている。

 見送られているのはセフィーナ率いる冒険者たちだ。

 その中には、何処か興奮を隠せないカノンの姿もあった。


「では、行ってまいります」


 セフィーナが、代表して村人たちに頭を下げる。


「よろしくお願いしますじゃ。カノン、お前もなるべくご迷惑をかけないようにな」


「わかってるよ、村長」


 その軽い返事に、村長は渋い顔をする。


「大丈夫ですよ。強い魔物の方は私が担当しますので、危険は少ないと思います」


 セフィーナが柔らかな笑顔で答えた。

 それを聞き、村長は再度セフィーナに一礼をする。


「よろしく頼みましたぞ!」


 こうして、村人たちの見送りを受け、冒険者たちは森の奥へと入っていった。






「くそっ! ちょこまかと!」


 その魔物はカノンの剣を素早くかわす。


 カノンが相手にしている魔物はホーンラビット、俗にいう一角ウサギだ。

 見た目は白くてかわいらしい兎なのだが、頭に生えたドリル状の角を武器にして獲物に襲い掛かる好戦的な魔物だ。

 ただし、あまり強くはないので、冒険初心者向けの魔物と言われている。



 目の前のホーンラビットは一旦飛び上がリ体制を整え、再びジャンプして頭の角をカノンに突き刺さんとばかりに特攻してくる。


「おっと……」


 危なげなくそれを躱し、再び距離をとるカノン。


「はあっ!」


 カノンの剣がホーンラビットに突き刺さる。

 動かなくなったのを確認し、カノンは剣を引いた。

 

「よくやったわ。素材ははあなたの戦利品よ。剥ぎ取り方法を教えてあげるわ」


 剥ぎ取りの出来によって買い取り価格も上下するため、冒険者には必須のスキルだ。

 セフィーナの言葉に従い、カノンは素材の剥ぎ取りを行う。

 しかし、何といっても初めての作業、皮などに少し傷がついてしまった。


「初めてにしては上出来よ。回数をこなせば上手くなるわ」


 セフィーナは不満げな顔のカノンに慰めの言葉をかけた。




 魔物の素材はそれぞれが袋にまとめて運んでいる。

 現在、その袋がほぼ満杯に近い状態になっているのを見てセフィーナが呟く。


「しかし、思ってた以上に魔物が多いわね。まだ弱い魔物だから良いけど……」


「本当はもっと少ないんですか?」


「ええ。でも誤差の範囲よ、心配しなくて良いわ」


「わかりました」


 その後、頻繁に遭遇する魔物をセフィーナたちが八割、カノン二割の割合で受け持つ。

 カノンも徐々に慣れたのか、それとも弱い魔物だからなのか、それほど苦労すること無く倒していった。


「カノンくん。慣れたころが一番怖いのよ。油断だけはしないでね」


「はい、わかり――」


 その返事が終わらぬうちに、遠くから魔物の遠吠えらしきものが二人の耳に届く。

 セフィーナは魔物の気配を探る。


「さあ、来るわよ!」


「はい!」


 次の瞬間、セフィーナ目掛けて影が飛びかかる。


「やあっ!」


 横なぎ一閃、飛びかかる影は見事に一刀両断され、そのまま地面へと落下する。


「グルルルルルッ……」


 二人の視界にのそりのそりと現れる狼たち。

 二メートルほどの体長、手には鋭い爪、上あごの二本の牙は異様に発達している。

 サーベルウルフ、そう呼ばれる魔物は、値踏みするような目をカノンたちに向ける。

 サーベルウルフ――体長は二メートルほどで手には鋭い爪、上あごの二本の牙は異様に発達している。

 その口から流れ出る涎は二人を餌として認識している証である。

 数にして十頭、合計二十個の目がセフィーナたちを睨みつける。


 (……少しまずいわね)


 セフィーナは心の中で呟く。

 しかし、表情にはおくびにも出さない。


「カノンくん、あまり接近せず牽制、無理して倒さなくてもいいわ。こちらを片づけたらフォローに入るから」


 カノンは無言で頷く。

 その返事を確認したセフィーナたち冒険者一行は、それぞれ正面のサーベルウルフに対して斬りかかる。

 

「グルルル……ガアアアッ」


 そのうちの一匹がカノンへと襲い掛かる。

 カノンはそれを難なく避けるが、続けざまに二匹目が襲い掛かる。


 (くっ! 二匹目もこっちに……)


 不格好ながらも二撃目の回避に成功する。

 しかし、息つく暇も与えぬように一匹目が再度攻撃してくる。


 牙と長剣がぶつかり合う音が響く。

 サーベルウルフの襲い掛かる勢いに押され少しよろめくカノン。

 その背後から、もう一匹のサーベルウルフが襲い掛かる。


「カノン! 危ない!!」


 その声により間一髪、回避に成功する。

 

 (――助かった……、が、この声は……)


 カノンは声のした方向に目線を向ける。

 そこにはいる筈の無いミリアの姿が……。


 それに気が付いたのはカノンだけではなかった。

 サーベルウルフ二匹も新たな獲物としてミリアを認識する。


「ガアアアッ!」


 一匹が大きな口を開けミリアに襲い掛かる。

 その迫力に竦んでしまったようで、ミリアは動けない。


「ミリア!!」


 間に合う筈がない。

 頭の中で分かっていたが、動かずにはいられなかった。

 何としても助けたかった。

 カノンは全力でミリアの元へダッシュする。


 その時、カノンの両足から青白い渦が発生する。

 間に合わないと思われていたミリアの元へ、サーベルウルフよりも速く辿り着く。

 ミリアを抱きかかえることに成功したカノンは、そのままの勢いでサーベルウルフの攻撃を回避した。


「何だ!? 僕は間に合ったのか……」


 腕の中にミリアを抱え、カノンは一人呟く。

 カノンが巻き起こした事象を、カノン自身が信じられずにいた。

 その瞬間、カノンとミリアを包むように赤い光が輝く。


「うわっ! 何だ!!」


 幾何学的な模様が二人を中心として地面に発現する。


「カノンくん! 魔力を抑えて!!」


 セフィーナの声がカノンに届く。

 しかし、カノンには何のことを言っているのか、何をすれば良いのかがわからない。


「くっ! あれは魔法陣。カノンくんの魔力に反応してしまっているわ! こんな所にあるなんて!」


 その赤い紋章は眩いばかりに光り、その光はその場にいるすべての生物の目を眩ます。

 一瞬のうちにその光は収束し、その時には既に紋章は跡形もなく消えていた。


 そして、その中心にいたはずのカノンとミリアの姿も――。





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