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短編

桜吹雪の交差点で

作者: kayako
掲載日:2021/12/01

 

 私と彼女は、いつも一緒だった。

 雨の日も風の日も、食べる時も寝る時も、私たちはずっと一緒だった。

 いつも清潔な制服に身を包んでいた彼女。その首筋から漂う、レモンの香り。

 私はその匂いが大好きだった。


 だけど別れは、ある風の強い春の日、突然に訪れた。

 桜吹雪の舞う交差点で――

 ふとした拍子に、私の手はするりと彼女から離れてしまい。

 友達とのお喋りに夢中だった彼女はそれに気づかず、行ってしまった。

 ただ一人、桜の花弁が舞い散る道へ、置いてきぼりにされた私。

 しばらくして、酷く慌てた様子の彼女が、私を探しにきたけれど――

 私の姿は桜の中に紛れてしまい、ついに彼女は私を見つけられなかった。


 泣きながら寂しげに去っていくその背中を見つめながら、思った――

 やっぱり貴方は、私のこと、すごく大切だったんだね。

 でも、ごめんね。

 こうなったら私はもう、幽霊みたいなものだから。



 そして春は過ぎ、雨の季節になった。

 私は雨に濡れながら、ずっと彼女を待っていたけれど。

 彼女は何度も、私を探しにきたけれど。

 結局二人は会えないままで――



 ある朝。

 待ち続ける私をじっと見つめていたのは、ポニーテールの女の子。小学生になったばかりだろうか。

 雨に打たれ続けている私にそっと触れながら、彼女は声を上げた。



「ねぇママー、シュシュが落ちてるよ?」

「駄目よ、触っちゃ。汚いでしょ?」

「ううん、汚れてるけど、洗ったらきっとすごくキレイな桜色になるよ?

 ねぇママ、これ、あたしのシュシュにしてもいい?」

「ダーメ。そんな泥だらけの……」

「お願い。お手伝い、ちゃんとするからー!!」



 こうして私は、今度はクッキーの匂いのする少女の髪に、結わえられることになった。

 一度持ち主の髪から抜け落ちたら、それが私たちの最期。そう思っていたのに。



 次の年。

 桜の舞い散る交差点で――

 新しい青いシュシュをつけてスーツを着た彼女と、私は再会した。

 少女のポニーテールを飾る私を見て、彼女は少しびっくりして振り返った。

 レモンとクッキーの香りが交わり、私をふわりと包む。

 驚愕の表情が、次第に穏やかな笑顔に変化していく。


 ――似合ってるよ。その青。


 微笑みながら交差点の向こうへ去っていく彼女に、私もまた、微笑んだ。





数年間の生を共にしたシュシュをこの間失くしたばかりなので、その悲しみを形にしたいと思ったらこうなりました。

1000文字以内は困難を極めましたが、それ以上にキーワードが至難の業でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 美しいお話でした! ジーンとしました!
2021/12/05 16:54 退会済み
管理
[良い点] そうきましたか〜!! すごいです₍₍٩(*ˊᵕˋ*)۶⁾⁾ 私もこれ!というシュシュがあって、他のだとしっくりこないんですよね(*´-`) だからすごく共感し感動しました〜!!
2021/12/03 22:32 退会済み
管理
[良い点]  ほんとにレモンとクッキーの香りがただよってきそうな 清々しさを感じる作品でした。 [一言]  はじめは、何か動物かな? と思いましたが、シュシュだったとは。 (*^^*)
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