第五話
胸がドキドキ言っている。
「うわ、びっくりしたー……」
「…………」
シャロンは無言だった。
ただただ僕の方を見つめている。
何と言えばいいんだろう、こういうとき。
混乱していく頭の中で紡ぎだした言葉を一言にする。
「今日、図書館休みなんだってね」
玄関の方を見ながら僕は笑う。
ごまかし笑いだ。
ずっとこうやって僕に今日もを持ってくれる事を望んでいたはずなのに。
いざそうされると戸惑ってしまって。
「……それ」
「ん?
何?」
そして更に驚く。
まさか話しかけてくるなんて思ってもみなかったから。
声が裏返ってしまった。
恥ずかしさに頬が熱くなるのを感じながらも返事を返す。
「私が前に読んでいた本」
「え、ああぁ、うん。
何をそんなに一生懸命に読んでいるんだろう、って思って。
図書館で借りたんだ」
この本は世界中に伝わる口伝を集め、何やら兵器の図面やらなんやら色々と乗った本だ。
自分が聞いたことのない単語が大量に出てくる。
「難しくて全然進まないんだけどね……」
僕は苦笑した。
正直、浮かれていた。
まさか本当に話しかけられるなんて思わなかった。
「なんでそんなことするの?」
「君に興味があるから」
僕は即答した。
だけど浮かれていた僕はようやく彼女の硬い声に気が付いた。
微妙に顔もしかめているように思える。
「それはただの好奇心だわ」
「……え?」
「あなたが私に興味を持ったのはあなたの周囲に今まで私のようなタイプの人間がいなかったから。
迷惑なの。
これ以上つきまとうのはやめて」
そう一気に捲し立てられた。
自分の中に詰まっている心臓が一瞬で冷凍されたように。
肺が、固まってしまったように息が急にできなくなった。
「付きまとってなんか……」
「違うっていうの?
毎回人が本を読んでいるのに邪魔してくるくせに。
私があなたに何かした?
何か言いたいことでもあるの?」
茶色のシャロンの瞳に反抗の色が灯っている。
「僕は、君の……君の邪魔をしたかったんじゃない……」
絞り出す。
言葉を紡いでいく。
心の中にある自分の気持ちを拾い集め彼女へと突き付ける。
「僕は君が――」
「好奇心は好意とは違うものだわ」
ぴしゃりと、絶対の否定が付きつけられた。
シャロンの黒髪が夏の風に揺れている。
ショートの紙は彼女に本当に似合っていると思う。
あぁ……。
真正面からその彼女の瞳と姿に射抜かれた僕は息を漏らした。
「綺麗だなぁ……」
「…………私の話聞いてた?」
「聞いてた。
だけど、綺麗だなぁ……」
「……あのね。
あなた少し自分がやっていることを――」
そういってくるシャロンの言葉。
僕ははっきりと覚えている。
だけど……思い出せない。
変な話だよね。
※
「我が忠実なる部下――セズク・KT・ナスカルークよ?」
その声に僕ははっとした。
目の前には一人の最終兵器が倒れている。
追い詰められた顔をしているのは波音。
いや、シャロン?
――波音か。
「てめぇ……やっぱり……!」
怒ってるよね、そりゃあ。
僕は君からしたらきっと裏切り者のように映っているんだろうから。
波音は僕に銃を突き付け、引き金を引いた。
やれやれ、まだ覚醒してないとはいえうかつな兵器ちゃんだ。
僕は弾を右手の指で掴み、左手は刃に変えていた。
一瞬で波音の拳銃を切断し、左手の中に収める。
「こんな危なっかしいものを僕に向けないでほしいな、波音?」
波音の目の前で手を開いてみせる。
当然最高の笑顔で。
信じられない、という表情は彼女とそっくりだ。
「まさか、波音忘れてたわけじゃないよね?
僕が最終兵器としてつくられた出来損ないだってこと」
極上の笑顔を突き付けられた波音は僕から目を逸らすと男に向かって話しかけていく。
リモコンは一体なんなのか、とか。
くだらないくだらない。
面白くもない事ばかりを。
男――僕の上司もよくまぁ律儀に答えるもんだ。
よくやるよ全く。
「セズク、レルバルを始末しろ」
――何を言っているんだ?
そんなこと出来る訳ないじゃないか。
「それは……できません」
上司は憤怒の表情で僕を見てきた。
その瞳に美しさはない。
ただただ、醜い。
豚のように、下劣で、クズ。
「もう一度言う。
セズク、レルバルを始末しろ」
「残念ですが少佐。
僕はその命令には従うわけには参りません」
その言葉は上司を激高させるのに十分だったんだろう。
あいつは事もあろうか波音を蹴飛ばしやがった。
ああ、やってはいけないことを軽くする人間って……哀れだと僕は思う。
「情でも移ったのか、セズクよ。
お前がやらないなら……」
そういいながら上司は波音の頭に銃を突きつける。
はぁ……。
思わず出そうになったため息を堪える。
波音の怯えた表情もかわいい。
シャロンもきっとこんな顔をするんだろう。
結局見たことなんてなかったけど。
「私がやる」
……シャロンを助けるためなら僕は世界だって敵に回せる。
今まで属してきた組織を裏切るなんてたやすい事。
前へ一歩、踏み出す。
足のバネを使い一気に上司に近づくとその首を切断した。
左手の上にのったままの上司の首に軽く謝罪をする。
「ごめんなさい」
と。
盛大な赤い噴水が一拍置いて高く伸びる。
「ふん」
頬っぺたについた血液は汚らしいもの。
だけど自分が殺した人間の味は覚えておかないと。
ぺろっ、と指に取り舐める。
……まずい。
「ひっ!?」
兵士達の方へ上司の首を放り投げ、リモコンを死体から奪い取る。
そしてリモコンに銃を突き付け何発も放った。
もう、戻れない。
シャロン、今度こそ僕は君を守ってみせるからね。
This story continues.
もうやだぁー昔書いたの読み返すのすっごい恥ずかしい。
そして辛い。
でも書きますとも。
楽しいからね、書くのね。
仕方ないですね。
ではでは!




