7-24
葬列車の上部に備え付けられた大口径の高射砲から撃ち出される、戦車すら貫き壊す弾丸が巨人の胴体に命中する。
その衝撃で、軽く巨人がよろめいた。
……よろめいただけか。
いや。私の攻撃ではよろめきすらしなかったのだ。
それに比べれば十分すぎるほどに効果を示している。
どうやら魔力防御に優れていても、物理防御はそれほどではないらしい。
訂正。
それほど、というわけでもないか。
なにせあの弾丸で痣の一つも出来ないのだ。
物理防御もかなり高いが、しかし魔力防御ほどではない。こう表現するのが最も正確だろう。
視界の端、葬列車の窓から何かが空高く放り上げられる。
それを私は、魔力の流れを作って引き寄せた。
手に掴んで、それが何なのか確認する。
これは……イヤホンタイプの通信機か。
耳につける。
『聞こえる?』
通信機越しの雀芽の声。
それほど時間が立っていないのに……なんだか、彼女の声を久しく聞いたように感じた。
いろいろあったからだろうか。
「ええ」
『援護するわ。ま、私達がどれほどの手助けになるかは知らないけれど』
とんでもない。
「とても心強いわ」
『そう言ってもらえると、助かるわね』
巨人が、じろりと葬列車を睨む。
その顔面に向けて、魔力の雷撃を放つ。
やはり届きはしないが……気を引くことは出来る。
巨人の眼が私をとらえた。
『ねえ、リリシア』
「なに?」
『……佳耶には、もう会ったのでしょう?』
「――」
一瞬息が止まった。
唐突な問いかけに、驚いてしまった。
「ええ」
頷く。
『……大丈夫?』
「心配してくれるのは嬉しいけれど、大丈夫よ」
巨人の手に、魔力が集まる。
ふと思いつく。
巨人は強力な魔力の層を身に纏っている為、攻撃は通らない?
だが、ああして集めている途中の魔力に対しては?
もしかしたら……。
考えて、魔力で作った巨大な柱を落とす。
すると、集まった魔力が乱れ、霧散する。
想った通りだ。
集められている魔力は、流石にこちらの魔術を無力化するほど馬鹿げた質量ではない。
……とりあえず、これで巨人の攻撃を防ぐことはできる、か。
『本当に大丈夫?』
通信機越しだというのに、こちらの心を見透かしたかのような雀芽の声。
……まったく。
「正直に言えば、まあ……多少は取り乱しているわ」
『多少?』
「……かなりよ」
通信機に、微かに『どうして尋問になってるんだ?』という隼斗の声が混じった。
同意見だ。どうして私が尋問されなくてはならないのだろうか。
しかも、こんな時に。
『言っておくけれどね、リリシア。貴方――』
「落ちないわよ」
雀芽の言葉を先取りして答える。
そうしながら、魔力を集めようとしている巨人の行動を阻害していく。
いい加減煩わしくなったのか。
その手がこちらに伸びてくる。
だが、動きは緩慢だ。
難なくそれを避ける。と、更に第二、第三、第四の手が次々に伸びてくる。
それらを避け切って、再び最初の手が伸びてくる。
これは……面倒ね。
腕が四本というのは、動きが緩慢とはいえ、意外と厄介だ。
避けながら、会話を続ける。
「私が落ちたら、佳耶が悲しむ。彼女にそんな思いはさせたくないし、なにより……ここで終わったら、もう二度と佳耶に触れられない。そんなのは、ごめんよ」
『そう。そこまで分かっているなら、もう何も言わないわ』
「そうして。私も、いつまでもお喋りを続けられるような余裕はないから」
『……頑張って』
「ええ」
『隼斗も、頑張れ、だって』
「ええ」
それで、通信を終える。
意識を、手に握りしめる刀の刃に集中させる。
「――天地悉く、――」
巨人の伸ばしてくる腕の一本に、狙いを定める。
そして……振るう。
「――切り裂け!――」
魔力刃が、巨人の纏う魔力層にぶつかった。
その層に負けて魔力刃が消える……その刹那。
微かに生まれた魔力層の歪みに、魔力の弾丸をありったけ叩きこむ。
こじ開けるイメージ。
けれど……私の魔力を押し出して、魔力層は元通りになってしまう。
なら……狙う場所を変えましょうか。
比較的、脆そうな場所。
加速魔術で、急降下する。
巨人の腕をすり抜けて、その足元……ムカデのような下半身の足元に移動する。
そこに、何本もの足が生えている。
それぞれは細く、見かけからはとても丈夫には見えない。
試しに、炎で足を包んでみる。
炎はあっというまに散り散りになり消滅したが……魔力層の厚みが明らかに上半身のそれより薄くなっているのが確認できた。
これなら、いける。
「――天地悉く、――」
このまま足元から、崩す……!
「――切り裂け!――」
魔力刃がムカデの足に飛び……そして、それを一気に六本、切り落とした。
よし。
これなら、いける……。
すると、私の脇を風を裂いて過ぎるものがあった。
それはムカデの足を一本、引き千切っていく。
葬列車の砲だ。
……これ、私に当たったらどうするつもりなのだろう。
いや、まあ隼斗の腕ならそんなミスはしないのだろうけれど。
一応、気は張っておこう。
流石に、ミンチになんてなりたくはないし。
刀に魔力を込める。
この調子で、さっさと片をつけてしまおう。




