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6-8



 振り下ろされる瓦礫の巨槌を避ける。


 厄介だな……。


 空高くにいる第四席を見上げ、奥歯をきつく噛み締める。


 円卓賢人第四席。


 ちょっと、舐めていたかもしれない……。


 解放魔術による魔術無力化。


 それを、過信し過ぎたかな……。


 ――いけないな、これじゃあ。


 こんなんじゃ、魔術を盲信している古き魔術師となにも変わらない。


 まったく、私も、少し気が抜けていた。


 例えどれだけ優れた力があっても、敗北はすぐ隣にある。そんなの、ずっと前から知っていたのに。


 そして敗北とは、人としての尊厳を失うことであり、時には命それ自体を失うことでもある。


 腑抜けだなあ、私。


 ちょっと気を引き締める。


 そして――新しく振り下ろされる瓦礫を見つめた。


 とりあえず、第四席をどうにか空から引き摺り落とさないと駄目だね。


 その為には……。


 考えながら、収束魔術で魔力を集め、それを開放魔術で爆発させることで瓦礫を砕く。



「やりますねえ! でしたら、これはどうですかあ!?」



 第四席が掌握している瓦礫に一割ほど――およそ二十ほどの瓦礫が動く。


 それらが第四席を中心に、円を描くように浮かび上がった。



「上手く避けてみてくださいねえ!」



 次の瞬間。


 円の中から、次々に瓦礫が私へと射出された。


 ――……。



 懐から、少し歪な球状のものを取り出す。


 確か……手榴弾、と言ったろうか。


 それが今、僕の手の中に二つ。


 そのピンを歯で噛んで引き抜いて、そのまま左右にそれぞれ投げる。


 僕が身体の周りに障壁を張ったところで、手榴弾が爆発。


 激しい衝撃と共に、炎が溢れだす。


 障壁が軋んだ。


 っ……十全ではないとはいえ、僕の障壁をこの距離でここまで圧迫するなんて……どれほど強力なのだろう。


 改めてアースの技術力の高さを思い知る。


 さて……と。


 爆煙が晴れていく。


 これだけの爆発だ。


 第五席も、なにかしらの反応を――。



「っ……!」



 背後に気配を感じて、慌てて飛び退く。


 遅れて、そこに第五席が現れ、魔力を纏わせた拳を振り下ろした。


 さらに、避けたところに二人の第五席が襲いかかって来る。


 その二人をインドラの雷で貫き、消滅させる。


 やっぱり幻影……。


 本当に、どうすればいいのだろう。


 重力魔術で魔力の自由はかなり削られた。幻影魔術で、惑わされている。


 せめてどちらか一つでも欠ければ……。


 そう思うが、どうしようもない。


 ……いや。


 本当にそうか?


 これまでの考え方なら――古い魔術師としてなら、確かに、今の僕に出来ることはない。


 けれど僕は……新しい時代の魔術師。


 ならば……相応の考え方をすべきなのではないのか?


 そしてその考えとは――……。



「……」



 そうだ。


 どうせ、魔術をほとんど封じられたような状態。


 だったらいっそ……残りの余裕も消してしまって構わない。


 その考えを、即座に行動に移す。


 集中する。


 襲いかかって来る第五席の幻影の攻撃を回避しながら、静かに心を落ちつける。


 大丈夫。


 普通なら、こんなこと、出来るわけがない。


 でも僕には……僕だからこそ、やれる。


 何故なら僕は……。



「第五席……貴方の魔術を、奪う!」



 特化などしない、汎用の魔術師であるのだから――!


 ならば、行使して見せよう。


 このくらい出来なくては、僕はこの先に歩み出すことなんて出来ないから!




 ――重力が、増加した。




 ただしそれは、僕のではない。


 僕を除いて、辺り一帯の重力が増加したのだ。


 重力魔術。


 咄嗟に真似て使ってみたが……どうやら、上手く発動したらしい。


 けれど第五席のそれと比べようもない、貧弱なもの。


 それでも、十分。


 重力魔術をはねのけるには、魔力を纏うしかない。そしてそれは、魔力の自由を奪う。


 少なくともこれで、第五席に枷を嵌めることくらいは出来た筈……!


 しかし、僕が思った以上に、これによる効果は大きかったらしい。


 虚空から、新しく第五席が姿を現した。


 直感的に、理解する。


 あれは――きっと本物だ。



「……よもや、我が魔術を貴様が使えるとはな。自らの身を隠す魔術を使う余裕がなくなってしまった」



 驚いたことに、彼が本物であることを、他でもない第五席自身が認めた。


 余裕がないなどと言いながら、それでもまだ余裕のつもりなのだろうか。


 ……だとしたら、舐められたものだ。



「姿を見せた貴方なら、怖くはない」



 身構える。


 と、第五席が片方の眉を吊り上げた。



「怖くはない……か。ふむ。ならば、これではどうだ?」



 第五席の姿が、揺らぐ。


 そしてその揺らぎの中から、第五席が現れる。さらに揺らぎの中から二人、三人、四人と……次々に第五席が現れた。


 どうやら、姿を消すことはできなくなっても、姿を増やすことはまだまだ出来るらしい。


 最終的に、現れた第五席は、三十人ほど。


 本物と偽物が入り混じってしまっている。



『まだまだ、我が本領はここからだぞ。第十席』



 三十以上の声が重なる。


 そして、第五席達が僕の周りに展開し……襲いかかってきた。


 僕はそれを、冷静に見ていた。


 小さく、苦笑する。



「本領、ですか……すみませんが、第五席」



 そして、駆けた。


 左後方、そこにいる第五席の一人に。


 彼が、表情を微かに歪める。



「っ、何故――」

「言った筈です」



 第五席の言葉に、こちらの言葉をかぶせる。




「もう貴方など、怖くはない。舐めないでくださいよ、第五席」




 至近。


 僕は、インドラを構え……そして、放った。


 威力は、人一人くらいなら簡単に気絶させられる程度のもの。


 第五席には、避けられない。



「ぐ……ぁっ!」



 雷が貫通する。


 今度は、その姿が溶けることはない。



「第五席。貴方の敗因を教えてあげましょうか」



 倒れゆく第五席に言う。



「幻影の貴方は……少し、小奇麗すぎました。見分けるのは、さほど難しいことではないですよ」



 先程投げた、手榴弾。


 あの爆発で、第五席の身体にはところどころ、うっすらと煤がついていた。本当に、目を凝らしてやっと見える程度のものだけれど。


 それを、第五席は幻影に反映し損ねた。多分、彼自身、煤が自らについていることに気付いていなかったのだろう。



「貴方は自分の幻影を信用しすぎた。それが、敗因です」



 落ちてくる瓦礫に、左手を突き出す。


 左腕につけた手甲から、先端に小さな杭がついたワイヤーが射出され、それが瓦礫に巻き付く。


 そのまま、ワイヤーを巻き上げる勢いと自分の脚力を合わせて、跳び上がる。


 くるりと視界が一回転して、私は落ちてくる瓦礫の上にたっていた。


 ワイヤーを巻き戻すことはせず、それを切り離して破棄する。


 そして、瓦礫を蹴った。少し脚にかかる負担が大きいけれど、今はそんなものを気にしている場合ではない。


 瓦礫から跳んで――次の瓦礫に着地。


 さらにそこから、次の瓦礫へ。


 瓦礫が落下してくるより早く、私は瓦礫の間を跳び、空へと昇って行った。



「っ――馬鹿げてますねえ……!」



 第四席が、その表情を、初めて変えた。


 ずっとその顔に浮かんでいた笑みが、引き攣る。


 それ以上近づかせるつもりはないのか、第四席が残りの瓦礫を一気に私に放ってきた。


 私なんて簡単にミンチにされる大質量が迫る。


 でも――気づいているかな、第四席。


 ――私と貴方の距離は、既に三十メートルを切っているんだよ?


 魔術が、消滅する。


 ぐらりと、私と第四席の身体が足場を失う。



「っ……」



 第四席が動揺を見せる。


 どうやら、彼女は飛行魔術は習得していないらしい。



「残念だったね。終わりだよ」

「っ……まだ、まだですよぉ!」

「――!」



 魔力が、集まる。


 私の解放魔術を抑え込むように、大量の魔力が渦を巻く。


 これを、私は知っていた。


 ……私の解放魔術を上回る魔力掌握。


 お兄ちゃんがやって見せた、魔力無力化を破る力技。


 それを、第四席がやっていた。


 お兄ちゃんほどではないにしろ、途轍もない魔力掌握の量と範囲。


 っ……。



「これで、潰れてくださいねえ!」



 集められた魔力は、それほど多くない。


 だから操れる瓦礫はたった一つ。


 それでも、それで十分だった。


 それだけあれば、私なんて簡単に殺せる。



「そぉら!」



 瓦礫が私に投げられる。


 私は、解放魔術を使っているせいで他の魔術は使えない。



「これで終わってくださいよぉ!」

「――……で?」



 第四席の言葉に、私は疑問の声を返していた。



「へ……?」



 第四席の間抜けな声。


 彼女が信じられないような目で見るのは、今私に投げつけられた瓦礫。


 それが、私にぶつかる前に……爆散していた。


 私がナイフを瓦礫に投擲したのだ。


 あのナイフは、刃物であると同時に、それ自体が一つの爆弾でもある。


 あのくらいの瓦礫ならば、その爆発で簡単に砕けるのだ。



「もうこれ以上、手はないよね?」



 問うが、第四席は答えない。


 答える余裕を与えるつもりもなかった、



「それじゃあね」



 インドラから、雷撃が放たれる。


 それが、第四席を貫いた。


 ちょっと出力高めだけど……まあ死にはしないでしょ。


 私ってば甘いなあ。でもまあ、お兄ちゃんの好感度を妹としてここで稼いでおくのも悪くはないよね。うん、きっとここで殺さないっていうのは好印象のはずだ。


 音もなく気絶した第四席と私が落下していく。


 ……って、どうしよ。


 このまま落下したら普通に死ぬんじゃない?


 ……やばい。後のことまったく考えてなかった。


 地面がすぐそこに迫っていた。


 不思議と、焦りはない。


 だって……いるし。



「……なにをやっているんですか、貴方は」



 呆れたような声。


 と同時、身体がふわりと浮遊感に包まれる。


 実際に身体の落下速度が劇的に減少していた。


 見れば、第四席も同じくゆっくりと地面におりていく。



「僕がいなかったらどうするつもりだったんですか」



 そのまま地面に着地。


 目の前に、シオンが呆れ顔で立っていた。



「大丈夫だよ」



 だって、



「シオン、ちゃんといるし」

「……まったく」



 と、まあとりあえず……。


 シオンも第五席に勝ったみたいだし……これで、円卓賢人二人撃破、と。


 


もう少し引き伸ばしてもよかったかもなあ。

次はリリーのターン。

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