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6-6

 ルミニア様の手の者によって下宮、中宮の各所に事前に設置されてあった爆弾が、起動した。


 王宮全体が揺れるほどの、爆発の連鎖。


 爆発しなかった場所を見つけるのが難しいほどに、王宮の下宮から中宮にかけてに爆発の炎が咲く。


 ――今ので、どれだけの人が死んだのか。


 考えたくもなかった。


 私達は一気に下宮を抜け、そのまま中宮へと侵入した。


 いくらか魔術師が出てくるが、その誰もが混乱している上、怪我を追っているような状態なので、撃退は難しくない。


 そこから、反乱軍は手分けして残党を探す為に動き出した。


 そんな時だった。




 身体中を這いまわるような怖気。




 私は、空に飛び上っていた。


 だから、その光景がはっきりと見えた。


 切断される。


 まるでバターをナイフで裂くかのように、中宮が、そしてその中にいた反乱軍の人々が――魔力の長大な刃によって。


 しかも一本や二本ではない。合わせて、三十もの鋭利な魔力刃が、辺り一帯を切り裂いていく。


 その光景は、本当に、なにか悪い冗談のようだった。


 けれど、間違いようもない現実であることを、一瞬で辺りに満ち溢れた血の臭いが教えていた。



「……っ!」



 空中から落下しながら、腰の刀を掴み、魔力をかき集める。



「――――天地悉く、――――」



 それは、言霊。


 私が、あの人のような強さを、少しでも手に入れられたら、と。そんな、言葉。



「――――切り裂け!――――」



 放つ。


 抜き放った刀から、巨大な魔力刃が……あの複数の魔力刃が放たれた場所に向けて。


 私の刃を迎え撃つように、三十の魔力刃が現れる。


 でも、無駄だ。


 そんな薄い刃で、私の刃は止められない――!


 その想いに違うこともなく。


 三十の刃は、私の刃に砕かれた。


 そのまま、私の魔力刃が地面に巨大な溝を刻みこむ。


 それを見届けて、私は地面に着地した。


 ――駄目だ。避けられた。


 見えたのは、私の攻撃を寸のところで回避した二人の姿。



「――己と同じ魔術系統か……」

「あっさり負けてんじゃねえよ、てめぇはどこの雑魚だ!?」



 その二人の姿は、すぐ近くにあった。



「……円卓賢人」



 間違いない。


 第六席トールレイス=シェクス=カリヴォス。


 第七席ゲシュター=ゼヴン=ワータイム。



「己等が円卓賢人と分かっているのなら話は早い。侵入者、貴様の愚行もここで終わりだ」



 第六席が、私を睨めつける。


 そして、同時。


 魔力刃が私に放たれた。


 それを避ければ、そこにまた刃がせまり、それを避けてばまた――、


 そんな風に、数え切れないほどの魔力刃が放たれた。



「先程の魔力刃、少し時間をかけなければ放てないと見える」



 第六席の言葉に、舌打ちする。


 その通りだ。


 私は臣護さんのように、あれを一瞬で、なんて芸当はできない。


 でも、それがどうした。



「――例えあれが使えなくても、私は負けない!」




 刹那、私は第六席の背後で刀を構えていた。



「ふむ……しかし、届かぬな」



 刀を振るう。


 それを、第六席の魔力刃が受け止めた。


 くっ……。



「おいおいおいおい、そっちばっかに気をとられていーんですかぁ?」



 ――!


 咄嗟に、後ろに跳んでいた。


 一拍子遅れて、私がいた場所に、大量の魔力弾が撃ち込まれた。


 空を見上げれば、その魔力弾を放った張本人……第七席の姿が。


 空を飛びながら、あれだけの攻撃を?


 ――出鱈目ね。


 普通、空を跳びながら他の魔術なんて、制御が難しくて出来るわけないのに。



「呆けてんじゃねえぞ!」



 第七席が空を舞う。


 速い……!


 翔けながら、第七席は魔力弾を放ってきた。


 それらを刀で弾く。流石に、たかが魔力弾とはいえ、円卓賢人のものともなれば重みが違う。


 と、背中に気配を感じて、右方向に身体を移動させた。


 頬を掠めた魔力刃。



「今のを避けるか……」



 危なかった。


 避けるのが一瞬遅れていたら、首が落ちていた。


 恐怖が、心臓を圧迫した。



「っ……ふ!」



 第七席の放つ魔力弾をステップでかわしながら、第六席に刀を振るう。


 しかし、魔力刃に弾かれた。



「無駄だ。先程の魔力刃ならまだしも、その程度では己の魔術は砕けん」



 そして、追加で複数の魔力刃が私に放たれる。


 後ろに跳んでそれを避けた。



「己とワータイムを相手に貴様一人ではどうにもなるまい。諦めろ」

「諦めろと言われて、諦めるほど物わかりはよくないの」



 それに……諦めるには、まだまだ、全然早いわ。



「……っ!?」



 直感か。


 第六席が、足元を見た。


 そこに、小さな赤い輝き。


 その輝きが……炸裂した。


 小さな火柱が、第六席のいた場所にたつ。


 それを第六席はどうにか避けたが……それだけではない。


 第二、第三の火柱が第六席を追うかのように乱立していく。


 今しがたばらまいた小型の爆弾だ。


 威力はそれほどではないが、しかしそれでも人の脚一本くらいなら簡単に奪える。


 火柱と踊る第六席を追撃しようとして――空から放たれた魔力弾を避ける。



「なんだてめぇ随分楽しいことすんじゃねえか! なんだそれはよぉ!」



 第七席が、表情を歪めながら私を見下ろしていた。



「っ……」



 加速魔術で第七席に視界から一瞬外れる。


 そこから、私も魔力弾を放った。



「豆鉄砲かっての!」



 しかし、すぐに私の放った魔力弾に気付いた第七席が、それを魔力弾で迎撃する。



「そらそら、もっとあがいて見せろよぉ!」

「こ、の……!」



 さらに連続して放たれる魔力弾。


 そして……、



「これはまさか、アースの兵器か……ふん、穢れし道具を使うとはな」



 魔力刃が第六席から放たれる。


 っ……マズい。


 流石に一対二は……!


 魔力弾を弾きながら魔力刃を避ける。



「どうした、そのまんまじゃあとはやられるだけだぜえ?」



 第七席の言葉に、歯噛みする。


 その通りだ。


 いくらなんでも、これは……っ!





「――ふん。情けない姿を晒しているではないか」





 その時。


 魔力弾が……魔力刃が……私のまわりに張られた魔力の結界に、弾かれた。



「……!?」



 第六席と第七席の攻撃を、完全に防ぐ障壁。


 そんなものをいとも簡単に張れる魔術師を、私は一人しか知らない。


 顔を上げる。


 そして、ゆっくりとこちらに歩いてくる、その姿を見つけた。



「一度私を下した身で、こんなところで膝を突く愚など許さぬぞ」



 円卓賢人、第九席。


 ガレオ。


 ガレオ=ニーン=ヘロストラが、不敵な笑みを口元に浮かべ、立っていた。



何故ガレオを出した、作者。

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