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ルミニア様の手の者によって下宮、中宮の各所に事前に設置されてあった爆弾が、起動した。
王宮全体が揺れるほどの、爆発の連鎖。
爆発しなかった場所を見つけるのが難しいほどに、王宮の下宮から中宮にかけてに爆発の炎が咲く。
――今ので、どれだけの人が死んだのか。
考えたくもなかった。
私達は一気に下宮を抜け、そのまま中宮へと侵入した。
いくらか魔術師が出てくるが、その誰もが混乱している上、怪我を追っているような状態なので、撃退は難しくない。
そこから、反乱軍は手分けして残党を探す為に動き出した。
そんな時だった。
身体中を這いまわるような怖気。
私は、空に飛び上っていた。
だから、その光景がはっきりと見えた。
切断される。
まるでバターをナイフで裂くかのように、中宮が、そしてその中にいた反乱軍の人々が――魔力の長大な刃によって。
しかも一本や二本ではない。合わせて、三十もの鋭利な魔力刃が、辺り一帯を切り裂いていく。
その光景は、本当に、なにか悪い冗談のようだった。
けれど、間違いようもない現実であることを、一瞬で辺りに満ち溢れた血の臭いが教えていた。
「……っ!」
空中から落下しながら、腰の刀を掴み、魔力をかき集める。
「――――天地悉く、――――」
それは、言霊。
私が、あの人のような強さを、少しでも手に入れられたら、と。そんな、言葉。
「――――切り裂け!――――」
放つ。
抜き放った刀から、巨大な魔力刃が……あの複数の魔力刃が放たれた場所に向けて。
私の刃を迎え撃つように、三十の魔力刃が現れる。
でも、無駄だ。
そんな薄い刃で、私の刃は止められない――!
その想いに違うこともなく。
三十の刃は、私の刃に砕かれた。
そのまま、私の魔力刃が地面に巨大な溝を刻みこむ。
それを見届けて、私は地面に着地した。
――駄目だ。避けられた。
見えたのは、私の攻撃を寸のところで回避した二人の姿。
「――己と同じ魔術系統か……」
「あっさり負けてんじゃねえよ、てめぇはどこの雑魚だ!?」
その二人の姿は、すぐ近くにあった。
「……円卓賢人」
間違いない。
第六席トールレイス=シェクス=カリヴォス。
第七席ゲシュター=ゼヴン=ワータイム。
「己等が円卓賢人と分かっているのなら話は早い。侵入者、貴様の愚行もここで終わりだ」
第六席が、私を睨めつける。
そして、同時。
魔力刃が私に放たれた。
それを避ければ、そこにまた刃がせまり、それを避けてばまた――、
そんな風に、数え切れないほどの魔力刃が放たれた。
「先程の魔力刃、少し時間をかけなければ放てないと見える」
第六席の言葉に、舌打ちする。
その通りだ。
私は臣護さんのように、あれを一瞬で、なんて芸当はできない。
でも、それがどうした。
「――例えあれが使えなくても、私は負けない!」
刹那、私は第六席の背後で刀を構えていた。
「ふむ……しかし、届かぬな」
刀を振るう。
それを、第六席の魔力刃が受け止めた。
くっ……。
「おいおいおいおい、そっちばっかに気をとられていーんですかぁ?」
――!
咄嗟に、後ろに跳んでいた。
一拍子遅れて、私がいた場所に、大量の魔力弾が撃ち込まれた。
空を見上げれば、その魔力弾を放った張本人……第七席の姿が。
空を飛びながら、あれだけの攻撃を?
――出鱈目ね。
普通、空を跳びながら他の魔術なんて、制御が難しくて出来るわけないのに。
「呆けてんじゃねえぞ!」
第七席が空を舞う。
速い……!
翔けながら、第七席は魔力弾を放ってきた。
それらを刀で弾く。流石に、たかが魔力弾とはいえ、円卓賢人のものともなれば重みが違う。
と、背中に気配を感じて、右方向に身体を移動させた。
頬を掠めた魔力刃。
「今のを避けるか……」
危なかった。
避けるのが一瞬遅れていたら、首が落ちていた。
恐怖が、心臓を圧迫した。
「っ……ふ!」
第七席の放つ魔力弾をステップでかわしながら、第六席に刀を振るう。
しかし、魔力刃に弾かれた。
「無駄だ。先程の魔力刃ならまだしも、その程度では己の魔術は砕けん」
そして、追加で複数の魔力刃が私に放たれる。
後ろに跳んでそれを避けた。
「己とワータイムを相手に貴様一人ではどうにもなるまい。諦めろ」
「諦めろと言われて、諦めるほど物わかりはよくないの」
それに……諦めるには、まだまだ、全然早いわ。
「……っ!?」
直感か。
第六席が、足元を見た。
そこに、小さな赤い輝き。
その輝きが……炸裂した。
小さな火柱が、第六席のいた場所にたつ。
それを第六席はどうにか避けたが……それだけではない。
第二、第三の火柱が第六席を追うかのように乱立していく。
今しがたばらまいた小型の爆弾だ。
威力はそれほどではないが、しかしそれでも人の脚一本くらいなら簡単に奪える。
火柱と踊る第六席を追撃しようとして――空から放たれた魔力弾を避ける。
「なんだてめぇ随分楽しいことすんじゃねえか! なんだそれはよぉ!」
第七席が、表情を歪めながら私を見下ろしていた。
「っ……」
加速魔術で第七席に視界から一瞬外れる。
そこから、私も魔力弾を放った。
「豆鉄砲かっての!」
しかし、すぐに私の放った魔力弾に気付いた第七席が、それを魔力弾で迎撃する。
「そらそら、もっとあがいて見せろよぉ!」
「こ、の……!」
さらに連続して放たれる魔力弾。
そして……、
「これはまさか、アースの兵器か……ふん、穢れし道具を使うとはな」
魔力刃が第六席から放たれる。
っ……マズい。
流石に一対二は……!
魔力弾を弾きながら魔力刃を避ける。
「どうした、そのまんまじゃあとはやられるだけだぜえ?」
第七席の言葉に、歯噛みする。
その通りだ。
いくらなんでも、これは……っ!
「――ふん。情けない姿を晒しているではないか」
その時。
魔力弾が……魔力刃が……私のまわりに張られた魔力の結界に、弾かれた。
「……!?」
第六席と第七席の攻撃を、完全に防ぐ障壁。
そんなものをいとも簡単に張れる魔術師を、私は一人しか知らない。
顔を上げる。
そして、ゆっくりとこちらに歩いてくる、その姿を見つけた。
「一度私を下した身で、こんなところで膝を突く愚など許さぬぞ」
円卓賢人、第九席。
ガレオ。
ガレオ=ニーン=ヘロストラが、不敵な笑みを口元に浮かべ、立っていた。
何故ガレオを出した、作者。




