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84.白身魚のトマト煮込み


 離宮にやってきた、クロナの妹であるレレナ。

 一通りの挨拶を終えた後、私は自室で、レレナ受け入れに関する書類に目を通していた。


「レレナ、クロナによく似てるわね……」

 

 私が初対面で、懐かしさを覚えたのもそのせいだ。

 レレナの髪と瞳の色はクロナと同じ。顔立ちも似通っていた。

 

 クロナとの違いは、少しだけ目元が垂れているかな?

 というくらいで、あと数年して第二次成長期を迎えたら、クロナとそっくりの顔になりそうだ。


 ……ただし、そっくりなのは顔だけ。

 マイペースなクロナとは違い、レレナは真面目で、礼儀正しい性格のようだった。


「……レレナの境遇では、子供らしく無邪気なままではいられなかったのかもね……」

「幼い身で両親を失い、姉のクロナとも離れてしまいましたからね」


 私の呟きに、控えていたルシアンが目を細めた。

 

 ルシアンは、身寄りのない孤児院の出身だ。

 両親を亡くしたレレナの境遇に、思うところがあるようだった。


「ルシアン、手が空いている時にでも、レレナの様子を観察してもらえないかしら?

 あの子、知り合い一人いないこの離宮に引きとられて心細いでしょうしね……」

「承知いたしました。お嬢様の離宮で彼女の涙が落ちないよう、気を配りたいと思います」

「助かるわ」


 ……本当は、私がレレナのケアも出来たらよいのだけど。

 残念ながら、レレナは私に対して、一歩引いてしまっているのだ。

 無暗に私が前に出ると、レレナには負担になるかもしれなかった。


「……私も。やれることはやるつもりよ」

 

 書類仕事を終えた私は、着替えて部屋を出ることにする。

 行き先は、通い慣れた厨房。


「ジルバートさん、厨房の一角をお借りしますね?」

「はい! 頼まれていた食材は並べてありますので、自由にお使いください」


 ジルバートさんが、かまどの正面に陣取ったまま答えた。

 時間はまもなく夕刻。

 夕食の準備に、厨房が慌ただしくなる時間だった。


「レレナが喜んでくれるといいのだけど……」


 用意された食材を確認しつつ呟く。

 今から作る料理は、レレナの訪れを歓迎するための料理だ。


 予定ではレレナは、明日この離宮に到着するはずだった。

 彼女を歓迎する料理も、本来は明日の夜に出される予定で、だからこそ私も、今日はのん気に狼と戯れていたわけだけど……。


 予定はあくまで予定だ。

 交通機関が発達していないこの世界では、予定通りにいかないことは珍しくない。

 分刻みのスケジューリングが当たり前の日本の交通機関とは、事情がまるで異なるのだった。


 予定は繰り上がったが、幸運なことに歓迎用の料理の食材は今日届いていたので、手の空いている私が作ることにする。


「料理の主役は、この川魚ね」


 手早く包丁を入れ、骨と内臓を取り除いていく。

 魚の処理は前世で行っていたし、この離宮に来てからも練習しているのでバッチリだ。

 皮を残したまま、5cmほどの長さに身を切っていく。

 

 使っている川魚は白身魚。

 レレナの好物だと、以前クロナが話していた。

 二人の故郷は川が近く、平民でも新鮮な魚を食べられる土地だったようだ。

 

「油を引いて、にんにくを入れて白身魚を入れて、と……」


 じゅわりと香り立つにんにく。

 白身魚を皮目から入れ焼き目をつけると、オリーブオイルとワインで味付けをしていく。

 じゅうじゅうと鳴る白身魚を焦がさないよう軽く炒め、薄切りにした玉ねぎと、潰したトマトの水煮。そして数種類のハーブを加えて蓋をする。


 そのまま数分間煮込み、蓋をずらして様子を見る。

 アルコールが飛んでいるのを確認し、塩で味を調えたら完成だ。


「白身魚のトマト煮込み、完成……!!」


 ほわりと立ち上がる湯気はトマトの香り。

 煮込まれたトマトが白身魚に絡み、つやつやとした赤色に光っている。

 

 一切れ味見すると、ふわりとした身がほぐれた。

 トマトのうま味が染み込んだ白身魚は、歯を立てると柔らかにほどけていく。

 身と汁をのみ込むと、ハーブの香りとトマトの酸味が通り抜けた。


「うん、美味しい。これなら楽しんでもらえるかしら……?」


 白身魚のトマトの煮込みは前世で作ったこともあったけど、こちらの川魚に合わせて、細かい味付けやハーブの種類は調整してある。

 今日のため、何回か試作を重ねたこの料理、レレナに気に入ってもらえるだろうか?


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 再開されてるのに気づくのが遅くなりました。 嬉しいです! あと、私も白身魚は好きです!(聞かれてない)
[良い点]  「白身魚のトマトの煮込み」  さっぱりして美味しそうですね。 [気になる点]  チャオチュールの再現はやはり無理?
[一言] 本当に美味しそうですね。 レレナが気に入ってくれるといいのですが……。
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