77.両手にピザ。傍らにモフ
更新が日をまたいでしまいすみません。
22時ごろ投稿しようと思ったものの、どうも小説家になろうの書き込みページが重くなっていたらしく
わが家の貧弱回線とぽんこつパソコンではページが開けませんでした………。
「レティーシア様! そちらの鍋は煮えましたか?」
「もう少しです。終わり次第、サンドイッチの盛り付けに回りますわ」
鍋から顔を横に向け、私はジルバートさんへと返答した。
周囲の喧騒に負けないよう、声量は大きめだ。
昼前の厨房は、それはもう喧騒を極めていた。
原因は今日、離宮周りの工事が終わるため。
大工さん達への労いと打ち上げを兼ね、ささやかな食事会を開くことになったのだ。
「野菜スープはこれで完成、っと」
出来上がりを確かめ、素早く次の料理へと移る。
めまぐるしくも、充実した忙しさだ。
とにかく今日は料理人の人手が足りないため、私も協力することになったのだった。
祖国ではありえない振る舞いだが、離宮の使用人達は私の料理好きを良く知っているため、趣味の一環として受け入れられているようだった。
「レティーシア様、悪いのですが手が空きましたら、外の様子を見てきてもらえますでしょうか?」
「分かりました。行ってきますね」
サンドイッチを並べ終え厨房を出て、離宮の外へと向かった。
今日の工事完成の食事会は、屋外で行うことになっている。
大工さん達の数が多く室内では手狭だというのもあるが、一番の理由はやはり、
「………うん! 我ながら見事な改造っぷりよね!!」
離宮の周囲を軽く見渡す。
私の目に映るのは、劇的改造なビフォーアフターだった。
森の中に埋もれる様にして佇んでいた、静かな離宮がなんということでしょうか!!
2階建ての建物の前には今、空に鳴き声をあげる、堂々たるグリフォンの雄姿があった。
「ぎゅあっ‼」
私の姿を見て、グリフォンのフォンが翼を軽くはためかせた。
美しく陽光を弾く毛並み、名馬のごとき悠然たる佇まい。
その背後には木を組みあげた小屋、フォンのための寝床が建てられていた。
シンプルな作りだが、だからこそ周囲の景色に溶け込み、フォンの姿を引き立てているようだ。
番犬ならぬ番グリフォンの小屋が、正面横に構えられた私の離宮。
横へと回ると、周囲を覆う木立が開け、走り回る犬達が目に入る。
「わうっ‼ わうわうわうっ!!」
一足先に完成したドッグランを早速利用しているのは、伴獣のグルルだ。
垂れ下がった大きな耳を跳ねさせながら、小型犬とのびのびと戯れている。
大工さん達により整えられた地面は走りやすく、芝が綺麗に植えられていた。
「いっちゃんにも、感謝しないとね」
芝を整えるのに、庭師猫の力を使い協力してくれたいっちゃん。
苺の季節が終わり、力を持て余していたせいか、食事の提供と引き換えに助力してくれていた。
苺に目が無いいっちゃんだけど、どうやら最近はサンドイッチなど、新規開拓も目論んでいるらしい。
元々が、苺料理が食べたいという一念で私の元へやってきたいっちゃんなので、グルメ探求には抜かりないようだった。
そんないっちゃんのために、森の中に作られた苺畑へと小道が整備されている。
畑用の土地も広めに拓いてもらっているので、上手くいけば来年の春には、今年以上の苺祭りが開催されるはずだ。
「レティーシア様!! 丁度良いところです!! もうすぐ出来上がりますよ!!」
「ありがとう!! 今行くわ!!」
呼び声の方角からは、こんがりと焼き上がったピザの匂いが漂ってくる。
離宮の裏庭部分に鎮座する、どっしりとした石窯だ。
庭に石窯を構え、焼き立てのピザを頬張る。
前世の雑誌やテレビで見ていた、憧れのスローライフの実現だ。
調理効率だけで言えば、厨房で全て作った方が早いのだろうけど、そこはいわゆるロマン枠。
私も魔術で石窯作りに協力しつつ、ちょっとした贅沢を実現したのだった。
「ピザ、どんな感じかしら?」
漂う香ばしい匂いを吸い込みながら、石窯を覗き込む料理人へと声をかける。
「大成功です!! 何度か試作を重ねたおかげで上手くいったようです」
石窯から、丁度ピザを取り出すところだったようだ。
石窯へと向かい忙しそうな料理人に代わり、ピザを傍らのテーブルに置き、食べやすいよう切れ込みを入れていく。
初夏の陽光を浴び、ピザの表面がきらりと輝いた。
今が旬のトマトを使ったおかげで、つやつやとした赤色が目に眩しい。
生地はふちの部分がもっちりとした、弾力のあるナポリ風。
焼き色のついたチーズと、トマトの赤に映えるバジルが乗っかっている。
トッピングはピザごとに少しずつ変えてあり、ソーセージをスライスしたもの、鶏肉を使用したもの、香辛料を利かせピリ辛に仕上げたものなどが、どんどんと運ばれてきている。
せっせせっせと切れ目を入れ、ルシアンと共に食事会のテーブルへと運んでいく。
「レティーシア様、皿を貸してくだせぇ。運ぶのを手伝いますよ」
「ありがとうございます。頼みますね」
手伝いを申し出てくれた大工の一人へと、ピザが乗った皿を手渡した。
この工事期間の間に、大工さん達ともだいぶ仲良くなっている。
サンドイッチを出して感想を聞きに行ったり、魔術で工事に協力していたおかげで、会話する機会も多かったからだった。
だが、そんな彼らとも、今日ここでお別れだ。
少し寂しいが、彼らには彼らの、向かうべき次の仕事がある。
一区切りをつけ、彼らに感謝を伝え送り出すための、今日の食事会なのだった。
「レティーシア様の麗しい姿が拝めなくなるなんて、俺は明日からどうやって生きてけばいいんでしょうか?」
芝居がかった仕草で、ハンスさんが話しかけてくる。
私の横を、歩調を合わせ歩き出したハンスさんだったけど、
「おっ⁉ ぐー様ですか? ぐー様も、この匂いに釣られてやってきたんでしょうか?」
姿を現したぐー様に、瞳を輝かせていた。
軽い女好きのハンスさんだけど、ぐー様を前にした時は、純粋な少年のような顔をしている。
「ぐぅぅぅぅっ」
『尊敬のまなざしは悪くないが、それはそれとしてそこをどけ』
とでも言いたげな鳴き声とともに、私とハンスさんの間に割り込んでくるぐー様。
「どうしたの、ぐー様? そんなにピザが気になるの?」
私のすぐ横を歩くぐー様に声をかけつつ、少し残念に思う。
私の両手には、ピザが載った皿がある。
すぐそばにぐー様がいるのに、毛皮を撫でられないのだった。
両手に美味しいピザ。傍らには打ち解けてきたぐー様。
もふもふとお料理、どちらもとても魅力的だが、一度に堪能することは出来ないという、贅沢な悩みなのだった。
本日youtubeにて、本作の朗読劇が視聴できるようになりました。
レティーシアの外向きの顔といちごの歌のギャップなど、声優様の演技が光ってます!
このページ下部にyoutubeへのリンクが貼ってあるので、お楽しみいただけたら幸いです。




