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74.食えない話を終わらして


「…………と、言うわけで。無事にケイト様とシエナ様の姉妹喧嘩には決着がついたようですわ」


 マニラの日から3日後。

 私は陛下に招かれ、ことのあらましを説明していた。


 陛下にはケイト様の離宮に、監視の役割を持った使用人を派遣してもらっている。

 立派な関係者の一人ということで、塩釜焼きに対する招待客の反応、シャンデリアの件などを私の口からも報告していた。


「マニラの日、色々と騒がしかったですが、結果的にシエナ様の鼻を明かし、ケイト様は一回り成長されたようでしたわ」

「あぁ。そのようだな。一時はどうなるかと思っていたが、おまえの協力もあり、姉妹喧嘩は拡大することなく収束したようだ。今回の一件、塩釜焼きもシャンデリアの件も、筋書きを書いたのはおまえだろう? 見事なものだったな」

「…………ありがたいお言葉です」


 礼をする。

 褒められて嬉しいが、しかし私は、陛下に全てを伝えてはいなかった。

 

 ケイト様が次期お妃を目指すのを一旦諦めたこと。

 その選択を、父親であるガロン様が認めたこと。

 

 この二点について、本人ではない私が陛下に告げてもよいか判断しかねたため、陛下の様子をうかがっていた。

 陛下はおおむね満足されているようだけど、陛下の方も、私に告げていないことがあるはずだった。


「陛下、私の考え違いでしたらすみませんが………」

「何だ? 言ってみろ?」

「シャンデリアが壊された時、陛下のよこしていただいた監視の人間は、実行犯が誰だかわからないと言っていましたが…………本当は、誰が下手人だったか、そして下手人とシエナ様のつながりも、掴んでいたのではないのでしょうか?」

 

 それはちょっとした引っ掛かりだった。

 料理への嫌がらせを避けるため、シャンデリアのある部屋の警備を、手薄に見せかけたのは本当だ。

 

 だがそれは、あくまでわざと作った弱点でしかない。

 警備を緩めたように見せかけつつ、それとなく監視を頼んでいたのだが、実行犯が誰だかはわからないままだった。


 万全な監視ではないので、それは仕方のないことかもしれないけど………。

 全く犯人の目星もつかないのは、少しおかしいのではと思っていたのだ。


「陛下は、下手人が誰かわかった上で、あえて泳がせていたのではないでしょうか? 私とケイト様がシャンデリアの破壊にめげず挽回し、上手くマニラの日を回せればそれで良し。もし、私とケイト様が失敗し、シエナ様がお妃候補になっていた場合は、シャンデリアを破壊した下手人との関わりをつきつけ、優位に立とうとしていたのではないでしょうか?」


 推測に推測を重ねた考えを述べると、陛下が静かな瞳で見返してくる。


「………シエナを追い詰める手札を持ちながら傍観していた私を、おまえは軽蔑するか?」

「………いいえ。陛下の立場を考えれば、当然の選択だと思います」


 私だって、陛下に全てを明かしているわけではないのだ。

 それに、陛下の選択は、私を認めてくれていたが故のものかもしれなかった。


「陛下が動かなかったこと、私は感謝しています。もし、事前にシエナ様を告発されていたら、その余波でマニラの日の食事会も流れ、試行錯誤を重ねた塩釜焼きも、ガロン様たちに召し上がっていただけなかったかもしれませんもの」

「……………それは結果論だ」

「そうかもしれません。ですが、陛下がその選択をしてくれたのは私と、そして塩釜焼きに期待してくださっていたからでもあるのでしょう?」


 陛下に、塩釜焼きを試食していただいた時のことを思い出す。

 毒見のために外部の塩は割られていたが、それでも、皿の上に散らばる塩の塊は印象的だったはずだ。 塩の塊を木づちで叩き割る食べ方を評価してくれたし、試食もしてくれている。


 好物の豚肉を具材にしていたおかげか、陛下はおいしそうに食べてくれていた。

 だからこそ、陛下も塩釜焼きを認め、シエナ様への対応を私達に任せてくれたのだと思いたかった。


「確かに、陛下がシエナ様を告発されてたら、もっと早く姉妹喧嘩は終わっていたかもしれません。ですがその場合、ケイト様がお父様に認められることもなく、ケイト様とナタリー様の関係の距離が縮まることも無かったはずです。陛下はそこまで考えて、あえて手を出さずにいてくださったのでしょう?」

「…………そういうことかもしれないな」


 否定も肯定もしない陛下はくせ者というか、いわゆる食えないお方なのかもしれない。

 折を見て陛下のおわす本城に招かれるようになったとはいえ、私と陛下は形だけの夫婦だ。

 お互い、腹を割って話せないのは当然なのだけど…………。


 うん、まぁ、それは一旦置いとくとして。

 私は今日ここに来たメインの目的を持ち出すことにした。

 先にケイト様の話をしていたのも、ややこしい話を終わらせてから、食事に入ってもらいたかったからだったりする。


「陛下、お話を聞かせていただき、ありがとうございます。そろそろ夕飯に良い時間になってきましたし、お食事を献上してもよろしいでしょうか?」

「あぁ、そうだな。今日は何を持ってきたのだ? 随分と大きな皿のようだが………」


 陛下の視線が、私の背後に控えるルシアンへと向けられる。

 ルシアンが持つ盆は、覆い付きの大きなものだった。


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