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49.離宮改造計画


 エドガーの思い出話を聞いた私。

 ほのぼのとしつつ、ナタリー様とのお茶会の予定を相談してみることにした。


「今度、ナタリー様をこの離宮にお招きして、二人でお茶会をしたいと思うの。テーブルを前庭に広げて、狼達を眺めながらお茶を飲みたいんだけど、大丈夫かしら?」

「な、ナタリー様と?」


 エドガーの尻尾が力を失い、犬耳がぺたりと伏せられる。

 ナタリー様の実家は獣人への当たりがキツイので有名だから、歓迎できないのかもしれない。


「ナタリー様ご自身は獣人に悪感情は無いし、犬や狼も好きだとおっしゃっていたけど、難しいかしら?」

「も、問題ありません!! ただ、その…………僕がその場にいては、見苦しいさまを晒してしまうかもしれません…………」


 顔をうつむけるエドガー。

 ここのところ私とは普通に話せていたけど、初対面時の彼はそれはもう動揺し不審な様子だった。

 馴染みの無い相手―――――――特に人間が、エドガーは苦手なのかもしれない。


 獣人と人間の確執を思えば自然なことだ。

 むしろこの短期間で、人間である私に心を開いてくれたのが珍しいことかもしれない。

 スリッカーブラシの功績は偉大なようである。


「できれば、僕以外の狼番が狼の散歩を担当する日に、お茶会の予定を組んでもらえませんか?」

「えぇ、わかったわ。それにもし当日、狼達の体調が悪かったりしたら、無理に散歩させなくても大丈夫だから、狼番の皆さんと狼たちに無理のない範囲で、協力をお願いしてもらえる?」

「もちろんです! 狼を愛でてもらえるなら、僕たち狼番も世話のしがいがありますからね」

「ありがとう。ナタリー様は動物に慣れていないから、まず距離をとって狼を眺めさせてもらう予定よ」


 ナタリー様、もふもふ愛はかなりのものだけど、生きた動物と触れ合った経験は乏しいらしい。

 当然ペットを飼った経験は無く、馬以外に動物に触れた経験も無いと聞いていた。


 一昨日、トラ猫に話しかけていたのも、実はかなり珍しいことらしい。

 私との対面が近づき、固くなっていたところで、庭を横切るトラ猫の姿を偶然目にしたのだ。


 高まる緊張に耐えかね、侍女たちの目を盗んでもふもふ成分を補給しにいったナタリー様。

 トラ猫に近寄り、でも近付き過ぎては逃げられてしまうかと思い、触ることはできなかったらしい。

 撫でる代わりに、人間相手には零せない弱音を吐き出していたところだったのだ。


 そんなナタリー様を、いきなり狼に触れさせるのはためらわれた。

 狼たちはよく躾けられているけど、鋭い爪と牙の持ち主で、大型犬並みに大きい体だ。

 もふもふ好きのナタリー様も、狼と対面したら怖がるかもしれないし、狼は人の感情に敏感だ。

 

 万が一の事態を避けるためにも、ナタリー様が狼に触れるのは様子を見てからの方がいい。

 まずは小柄で大人しい、撫でやすい動物から慣れてもらうつもりだ。

 

 撫でさせてもらう動物の候補を考えつつ、やってきた狼をもふった後、私はエドガー達と別れ、離宮の中へと戻った。

 出迎えてくれた執事のボーガンさんに、一つ提案をしてみることにする。


「この離宮に、私たちの伴獣を連れてこないか、ですか?」

「はい。獣人の方が住み込みで仕事をする際は、自らの伴獣と共に住まうことがあると聞いています」


 この離宮に住み込みで働く獣人は13名。

 彼らには定期的に丸一日休みを与え、家で待つ伴獣の元へと帰らせている。

 いわば、もふもふ休暇のようなものだった。

 

 伴獣の性格にもよるが、多くの伴獣は、主である獣人の近くで過ごすことを望んでいる。

 獣人の多い住み込みの職場では、伴獣の同伴が認められていることも多いと聞いていた。

 この離宮の場合は私が人間で、しかも異国の出身ということで、獣人達も伴獣を連れてくることは控えていたようである。


「伴獣の中には、見知らぬ場所に拒絶感の大きい子もいると聞いています。なので無理強いはしませんが、伴獣と主である獣人の方が望むなら、この離宮に連れてきてもらっても大丈夫です」


 私としては、ぜひ連れてきて欲しいというのが本音だ。

 主の近くにいた方が伴獣は安心することが多いだろうし、私も色んなもふもふを見れて眼福。

 特に犬牙族の伴獣は、立ち耳に垂れ耳、茶色にグレーに白、大型犬に小型犬、甘えん坊に勇敢と、様々な種類や性格がいるようで、楽しみにしていたのである。

 

「ありがたいお言葉です、レティーシア様。他の獣人たちも、きっと喜ぶかと思います」

「良かったわ。ただ、一つ頼みたいことがあるのだけど、いいかしら?」

「何でしょうか?」

「今度、ナタリー様がお茶会にいらっしゃった時、人見知りしない伴獣を撫でさせて欲しいのだけど、可能かしら?」

「えぇ、大丈夫です。私の伴獣でよろしければ、レティーシア様達に撫でてもらえたら光栄です」

「ありがとうございます。さっそく、次のボーガンさんの休暇にでも伴獣を家から連れてきて、離宮に慣れさせてもらえますか?」

「わかりました。私の仕事中は、どこに伴獣を控えさせておきましょうか?」

「離宮の裏手に犬舎を作るつもりよ。それに運動場も、できたら作りたいと思っているの」


 イメージとしては、日本にあるドッグラン。

 伴獣たちには、広々とした場でのびのびと過ごしてもらいたかった。

 このためにも私は、陛下から離宮周辺の改造許可をいただいている。

 許可を手に入れた以上、遠慮するつもりは無いのだった。


「運動場を? そこまでしていただくのは、さすがに申し訳ないかと思います…………」

「気にしないで。私がやりたくてやることだもの。ただ、作る以上は、伴獣の主であるボーガンさん達にも、どんな運動場を作ったら伴獣が喜ぶか教えて欲しいんです」

「私どもの声を汲んでいただけるのは嬉しいのですが…………伴獣には大型のものもいます。そういった個体が利用できる運動場となると、結構な広さが必要で、森を切り拓かねばなりません。工期や費用も、かなり嵩んでしまうのではないでしょうか?」

「大丈夫よ。木こり役は、私がこなすつもりだもの」

「レティーシア様が?」

「私には魔術があります。魔術の勘を鈍らせないためにも、離宮周辺の改造計画に活用しておきたいんですの」


 使わない道具は錆びるもの。

 近頃はもっぱら整錬の呪文しか唱えていなかったが、魔術の活用方法については色々と考察していた。

 せっかく潤沢な魔力があるのだから、もふもふ関連で出し惜しみはしないつもりなのである。


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