原因不明
「ハリルさん、こんにちは!」
雑貨屋の入口で足踏みしてしまったけれど、気を取り直して元気良く店内へと入れば、何故だか半眼のハリルさんがこちらを見ていた。
「やっぱりシーナちゃんだったか。まったく・・・あんまりあの人に関わらない方がいいぞ?」
「あの人って、スフォルツァさんの事ですか?そう言えば、あのゲゲッじゃなかった、ゲルルフって人が怒鳴りながら出て来ましたけど、ハリルさんこそ大丈夫ですか?」
関わるも何も、私とスフォルツァさんが顔を会わせたのは今回で三回目。それほど接点もないから、そうそう出会う事もない。
けれど雑貨屋を営んでいるハリルさんは、向こうからやって来れば嫌でも関わらなきゃいけないんだから、そっちの方が心配だと思うんだけど。
「あぁ。魔結晶を出せと言われたんだがな、在庫が無いんで断ったら、嘘をつくなと難癖を付けられたんだ」
「魔結晶ですか?」
「なんでも、拐われた女の子達を治してくれるんだと」
「えッ!?無事に目を覚ましたんじゃ無いんですか?」
拐われた女の子達は皆、記憶は無いものの外傷もなく、無事目を覚ましたと聞いていたのに、違うんだろうか?
「それが・・・目を覚ましたは良いが、どの子もみんなボーッとしてて、心此処に在らずって感じで、生気が感じられ無いそうだ。一言も喋らなくなっちまった子もいるらしい」
「一言も・・・」
まさかそんな事になっていたなんて。
身近にはまだ拐われた子が居なかったから、怖いと思いながらも、無事見付かったなら良かった、程度にしか考えていなかった。
誘拐中の事は覚えていないとしても、もしかしたら心に大きな傷を負っているのかも。精神的なものだとすれば、魔法薬でもどうにもならない領域だけど・・・。
「あの女はそれを治せると言ったのか?」
私の中の疑問をフェリオがそのまま口にする。
そう。もしスフォルツァさんが今回の事象に有用なレシピを持っているなら、そのレシピを教えて貰えば私も役に立てるかもしれない。
「いや。あの人は、その薬を作る研究の為に、魔結晶を寄越せと言ったんだ」
「なぁんだ。じゃあ作り方を知ってる訳じゃないんだ」
ナイルがガッカリ、と溜め息を吐く。私も、詰めていた息をハァと吐き出してしまう。
期待した分だけガッカリしてしまうのは、仕方の無い事でしょう?
「あの人は前から魔結晶を買い漁ってたからな。その研究だって本当がどうか分かったもんじゃない」
「そうなんですか・・・」
確かに、スフォルツァさんが町の、庶民の女の子の為に薬の研究をするっていうのは、どうにもピンと来ない。まぁ、私の偏見に満ちた意見ではあるけれど。
「結局、女の子達を治す薬は無いってこと?」
眉を下げ、心配そうな面持ちのナイルがそう呟く。ルパちゃんを思えば、気が気では無いのだろう。
――――――でも、そうか。
精神的なものは治せないって思い込んでいたけれど、もしそこに別の原因があるなら?
それに、魔法の薬なら・・・精神にだって作用するかもしれない。
自分が錬金術師だと、何故忘れていたんだろう。
・・・薬が無いなら、作ればいい。たとえ嘘だったとしても、スフォルツァさんの言葉は間違いじゃない。
もし、錬金術で助ける事が出来るなら・・・私も何かしたい。うぅん。何かしなきゃいけなかったんだ。
「私が創る!成功するかどうかは分からないけど、やってみる価値はあると思うの」
「――――――ッ!?」
「シーナならそう言うと思った」
私の急な宣言に、ハリルさんもナイルも目を丸くするけれど、フェリオだけはククッと喉を鳴らして楽しげだ。
「でも、そんな都合のいい薬、本当に作れるのかい?」
ハリルさんはそう言いながらも、どこか期待するように目を輝かせ、
「姫なら出来そうな気はするけど・・・危険な事だけはしないでね?」
ナイルは少し困った様な顔で、それでも止めろとは言わない。
「出来る出来ないは、やってみなきゃ分からないけど・・・取り敢えずいい素材が無いか探してみます。あッ!でも森に行こうとは言わないから安心して」
一応、安心させるように付け足すと、当たり前だ!とみんなに怒られてしまった。安心して貰おうと思ったのに、何故?
「まったく・・・シーナちゃん、本当に気を付けるんだよ?事件の事もそうだけど、あの錬金術師様はどうにもシーナちゃんを目の敵にしている節があるからな」
「あの女の人、錬金術師だったんだ。通りであの態度・・・あッ、いや、姫は違うよ?でも、確かに妙に突っ掛かって来たよね。何かあったの?」
どうやら鬼人族の間でも、錬金術師は性格に難があるという認識は同じらしい。
寧ろ、そのお陰で私が凄くいい人に思われがちだから、得と言えば得なんだけど。
「スフォルツァさんとは、この町に来てすぐにちょっとトラブルがあって。でも、そんなたいした事じゃ無かったんだよ?あぁでも、ラインさんとナガルジュナに行ったのを知ってたみたいだから、それが気に入らないのかも」
改めて考えてみれば、どうしてスフォルツァさんはあんな風に私に敵意を向けてくるんだろう。やっぱりラインさんが好きだから?それとも、庶民が貴族と親しくしているのが気に入らないから?
「まぁ、姫は可愛いから、羨ましくなっちゃうのかもね」
「錬金術師としても、シーナちゃんの方が腕が良いってもっぱらの噂だしな」
「連れてる男も、イイ男ばっかりだしな!」
他の二人の意見は全くアテにならないのでスルーさせて貰うとして・・・思いがけず、ハリルさんから錬金術師としての町の評価を聞けて、なんだか少し照れてしまう。
「まぁなんにせよ、シーナちゃんは気を付けるように!この兄ちゃんでもいいし、コウガの奴でもいいから、とにかくどっちか一人でもちゃんと連れて歩くんだぞ?そうすれば変な男も寄って来ないだろうしな」
ラペルとルパちゃんが心配な今、私に人を割くのはどうかと思うんだけど・・・と、心の中で思っていたら「わかったな!?」と、ハリルさんに睨まれてしまったので、仕方無く「分かりました」と頷いておく。
「大丈夫ですよ。僕が姫を一人になんてしないので」
渋々頷いた私に、今度はナイルが有無を言わさぬ笑顔でそう宣言する。
本当に、どうにも子供扱いというか、過保護というか・・・やっぱり年齢公開すべき?
とは言え、年齢公開は結構な勇気が要るもので・・・今は話題を逸らして逃げるに限る。
「そうだ!ハリルさんにお土産があったんです。このお菓子なんですけど・・・」
ここぞとばかりに取り出した、蔦豆とペポのオツマミは、見事にその役割を果たしてくれた。
ハリルさんは一口食べてとても気に入ってくれて、話題も逸れたし、蔦豆も取り寄せてくれる事になったので、私としては万々歳だ。
そうして上機嫌なハリルさんに見送られ、私は無事?雑貨屋を後にすることが出来たのだった。




