サパタ村の奇跡
「それにしても、シーナちゃんが錬金術師様だったとはなぁ」
食料を分配したり、ナイルにお願いして洞窟を塞いだり・・・朝日が射していたはずのサパタ村は、いつの間にか真上から太陽に照らされる時間となっていた。
結局ナミブーについてはラインさん達によって捕らえられ、フェノキー領内の騎士団へ引き渡された事になり、影憑の事はほんの一部の人達にしか知らされなかったようだ。
「妖精なんてはじめて見た・・・ネコみたい」
最初、フェリオの事を本当に猫だと思っていたエリーちゃんが、妖精の証しとも言える虹色の羽を不思議そうに眺めながら呟く。
「近くの街には居ないんですか?」
「居るかもしんねぇけど、会ったこたねぇな。こんな田舎じゃ、錬金術師様に会う機会なんて一生に一度有るか無いかってもんだ」
ナガルジュナでも錬金術師が居るって話は聞かなかったし・・・。カリバには錬金術師が私も含めて4人も居るから忘れていたけれど、錬金術師って本当に希少なんだな、と改めて知る。
「シーナ、様?」
その所為でトリアちゃんが妙に畏まった態度で私を呼ぶものだから・・・最初のツンツンした態度も相まって、可愛くて仕方がない。
「様とか付けなくていいよ。トリアちゃん達にはお世話になったし、それに・・・私はちょっと運が良かっただけで、もともと偉くも何とも無いんだから」
「そう、なの?」
「そうよ。だからそんな他人行儀な呼び方されたら、寂しくなっちゃうなぁ」
「ッッ!じゃあ、仲良くしてくれる?」
「もちろん。もう仲良しでしょう?」
「うん!」
そんな会話をしながらも、私はヨイショッと腰を上げる。
ラインさん達の支度も整い、そろそろカリバに向けて出発する時間だから。
寂しそうな顔のエリーちゃんやトリアちゃんに離れがたく思ってしまうけれど、二人を見ているとそれ以上に、トルネとラペルに会いたい気持ちが募ってしまう。
「じゃあ、私達はそろそろ行くね」
「・・・うん。また会える?」
「また遊びにくるよ。その時は友達を二人連れてくるからね」
「アタシッ大きくなったら、カリバに働きに出る!」
「エリーも!エリーもそうする!」
トリアちゃんの爆弾発言にエリーちゃんまで乗っかって、ショックを隠しきれないゴビさんの表情についつい吹き出してしまった。
お父さん置き去り宣言はちょっと可哀想だけど、この仲良し親子なら家族で移住もあるかもしれない。
「そしたら、それまではみんなで遊びに来てね」
「うん!わかった」
「みんなで行くね!」
「うん。じゃあ・・・また」
そう言って最後にゴビさんと握手を交わし、二人をぎゅっと抱き締めて、笑顔で手を振る。
今にも泣き出してしまいそうなエリーちゃんに、ジンとしてくる目頭を誤魔化しながら馬車に乗り込めば、ルパちゃんが腕を広げて待ち構えていて、“それはズルい”と内心思いながらも、その小さな腕に甘えてしまった。
何故馬車にルパちゃんが居るかと言えば・・・私と一緒に行くと言って聞かないナイルを説得してもらおうと相談した結果、それならば自分達もカリバへ移れば良いと、一緒に行くことを快諾してしまったベグィナスさん親子が、ラインさんに馬車に乗せて貰えるよう交渉した結果だ。
だから今現在、この馬車には私とフェリオ、それにコウガ、あとナイルとベグィナスさん親子が乗っている。
ちなみに、サパタ村で報告組と護衛組に別れたラインさん率いる騎士達は、各自騎馬での移動となっている。
「ルパは本当にシーナちゃんが好きだね」
抱き合う?私とルパちゃんをニコニコと穏やかな笑顔で見守っているのは、他でも無いベグィナスさん。
「うん。姉様大好きよ。だから、お願い」
“お願い”と視線を向けられたのは私。
「うん?どうしたの?」
すると、ルパちゃんはウルウルとした可愛らしい眼で私を見上げ、「これ」と、ルパちゃんが余りに喜んでいて、外すタイミングを逃してしまっていたナイルのアンクレットを指差す。
後でこっそり外して返そうと思ってたんだけど・・・。
「ずっと着けてて欲しいの。はずさないで、お願い!」
――――――そう来たか~・・・。
ルパちゃんくらいの年頃なら、格好いい親戚の叔父さんがいたら「私、叔父さんのお嫁さんになる!」とか言いそうなものなのに。
何故か猛烈に私とくっつけようとしているんだよね。
「でも、これはナイルの大切なものでしょう?演技の為に着けただけなんだから、返さないと」
こっそり返せないなら、しっかり説明して返すしかない。
「演技なんて酷いなぁ。僕は本気だよ?」
けれど伏兵は当たり前のように側に居た。
本気と言いながら軽い口調でニッコリ笑うのは、言わずもがな・・・ナイルだ。
「いや、でも・・・」
事故みたいなものとはいえ、私は既にコウガの誓いの輪を着けている身だ。それなのに他の人の誓いの輪を受け取っていい筈がない。
「シーナにはもうオレのがある。一つで十分ダ」
私の心を読んだかのように、コウガが私の腕のバングルに触れる。
うぅッ。それはそれで恥ずかしいけど、コウガの言い分は尤もだ。ナイルのを着け続けるなら、コウガのは外さなきゃいけない・・・。
あれ?でも、誓いの輪って二つ同時に身に付けられるものなの?
やっぱりコレ、誓いの輪なんかじゃ無くて普通のアンクレットなんじゃ?
「姫は良いんだよ。だって姫は特別でしょ?旦那の五人や十人当たり前―――」
「いや。ありえないから」
即答。
いやいや、旦那が五人、十人ってどんなハーレムだ。
「まぁ、シーナだからな。そのくらいは覚悟しとかないと、旦那なんて務まらないぞ」
ちょっとそこ!
私が即否定したのに、どうしてコウガはフェリオの言葉に「ソウなのか」とか神妙な面持ちで唸ってるの?
「でも、僕は本当に本気だよ?もう誓っちゃったしね」
パチンッとウインクをしながら、自分のおでこをトントンッと指先で示すナイルに、昨夜のデコちゅーを思い出してしまった私は、思わず赤面して自分の額を手で隠してしまう。
すると、その様子を見ていたコウガが、何を思ったのか急に私を後ろから抱き寄せて・・・。
――――――ちゅうッと。
首筋に唇を押し当てて、軽く吸・・・。
ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
―――――ザァァァァァ・・・。
「ククッ・・・今日はサパタ村によく雨が降るな~。いや、奇跡だなぁ」
狭い馬車の中。フェリオの笑いを含んだわざとらしい声と、きゃあ!というどこか楽しげなルパちゃんの歓声。伸びてくるナイルの腕と、それを叩き落とすコウガの手・・・。
え?何このカオス。
もう・・・早くカリバに帰りたい!
こうして有耶無耶に終わってしまった結果・・・私の足首には、いつの間にか外れなくなってしまったアンクレットが残る事になるのだけれど・・・そんな先の事を考える余裕は、今のカオスな私には無かったりする。




