影憑という存在
「それじゃあ、スフォルツァさんとは数日前に初めて会ったのね?」
その後のジョージ君は、言葉の通り素直に全てを話してくれた。
バンプの中毒に関してはやはり司教の仕業だったようで、数年前から聖女が伝えたお茶だと言って、ジョージ君達に飲ませていた様だ。
それを聞いたジョージ君はかなりショックを受けたみたいだけれど、それよりも衝撃的な事実に、直ぐ様塗り潰されてしまったみたい。
「はい。司教様に伴われて教会へやった来たのが最初です」
「司教様が?」
「はい。王宮錬金術師をしていた素晴らしい方だと。でも、その・・・ある女が原因でパートナーの妖精を失ってしまったと、私達の前でさめざめと泣いたのです」
気まずそうにチラリと私を見る辺り、"ある女"は私の事なんだろうけど、彼女のパートナーであるサラマンダーのサラさんを影魔獣にしようとした挙げ句、必要ないと背を向けたのは誰でもないスフォルツァさん自身だ。
あんな事があっても、サラさんは妖精界へ帰るその時まで、スフォルツァさんの事を悪しざまに言ったりしなかった。
それなのに、サラさんの存在さえも利用しようだなんて・・・腹が立つ。
「それでコロッと騙されたのか?」
フェリオも腹が立ったのか、その言葉にトゲを感じる。
「面目次第も御座いません。ただ、今思うと、あの一時で何故あんなにも心惹かれてしまったのか・・・」
「魅了は対象者に好意や同情心があると掛かりやすいが・・・会った瞬間に掛けられる様なものじゃ無いはずだぞ。その時に薬か何か口にしなかったか?」
「いえ。ただその、とても甘い香りが・・・あの女から、とても甘い香りがしていました」
甘い香り。
確か、ヤランヤランがとても甘い香りがしたはず。香りが甘いから、危険な薬草だと周知されるまでは、子供が誤って口にして中毒になる事が多かったと本に書いてあった。
やっぱり、ヤランヤランの中毒の方はスフォルツァさんで間違い無さそう。
「ヤランヤランか」
「うん多分。でも、香りだけで中毒になるなんて、本には載ってなかったよね?」
「あぁ。あの女はもう錬金術師じゃないから、その辺は影憑の能力が絡んでそうだな」
「影憑ッ!!?」
フェリオの口から出た影憑というワードに、ジョージ君が驚きの声を上げる。
最近、嬉しくない事に影憑の存在が当たり前になってしまっていた私達とは違い、影憑を都市伝説的な存在として認識していたであろうジョージ君にとっては、それはそれは衝撃的な一言だろう。
「まッ・・・まさか影憑というのは・・・あの?本当に存在するのですか?」
恐る恐るといった感じで、真偽を確かめるジョージ君に、フェリオは容赦なく事実を告げる。
「存在するもなにも、カロリーナ・スフォルツァ。あの女が影憑だ。オレ達の目の前で影憑に変化したんだから、間違い無い」
「そんな・・・影憑とは人型の影魔獣ではないのですか?彼女は普通に会話し、見た目だって・・・」
世間では、影憑を人型の影魔獣とする考え方が一般的だ。つまり、見た目こそ人型だが魔獣と呼称される様に、理性ある生命体だとは認識されていない。
それが自分達と変わらない見た目と思考力を持ち、自由に行動し、剰え自身に影響を及ぼしていたのだ。
告げられた事実をジョージ君が受け入れられないのも無理はない。
「眼の色は?あの女の眼の色はどうたった?」
「眼?眼は・・・ッッ!!あか、でした。血のような、赤色でした・・・」
薬物中毒でジョージ君の判断力が鈍っていたとはいえ、今の今まであの特徴的な赤い眼に気が付かなかったのも、スフォルツァさんの魅了の所為だろうか?
「───待ってください。あの女が影憑だったとして、先程貴方は"変化した"と仰いましたか?それは・・・まさか」
「そのまさか、だ。あの女は元々普通の人間だった。眼の色も灰色で赤じゃない」
「そんな・・・人が、影憑になる?」
ジョージ君の顔面は蒼白で、余りのショックにガタガタと身体を震わせている。
それはそうだろう。一歩間違えば、自分も影憑になり得ると知ってしまったのだから。




