窓から再会
この世界に来るまでは、他人と一定の距離を取って暮らしていた。
本当に気が許せるのは祖父だけで、その祖父も一人で神社を取り仕切っていた事もあり、自分が16歳の頃には"頼る"という選択肢は既に無かったと思う。
だから、私は一人でも生きていける人間なんだと、勘違いしていたのだ。
祖父との二人暮らしにしても、私は自立していて、寧ろ祖父の生活の世話をしているんだ、なんて傲っていた。
唯一気の許せる祖父の存在そのものが私の支えになっていたのに、それに気が付かなかっただけ。
そうして、気が付いた。私は決して一人で生きていける人間じゃ無い。
だからこうして一人になると、不安で仕方ないんだ。
でも、不安で不安で堪らなくて、そんな弱い自分を自覚して腹立たしいのに、心のどこかで頼れる人が居る事が嬉しくもある。
きっと頼っても、支えてくれると信じられるから。
この世界に来るまでは、そんな風に思える人が居なかったから。
閉じ込められ出来る事の無い私は、思い掛けず自分を見つめ直す事になってしまった。
とは言え、支えてくれる人がいるからといって、頼ってばかりは居られない。
それではいつか、また頼っている事を当たり前として忘れてしまうから。
よし!まずは、自分の状況を確認しなきゃ。
私は改めて閉じ込められた部屋を見渡す。
扉には・・・勿論外側から鍵が掛かっていて開かない。
窓は・・・開けられはすれど、鉄格子が嵌まっているから、ここからの脱出は無理そう。何より、この部屋は二階にあって窓の側に丁度いい高さの木も無く、ロープでも無い限り降りられないだろう。
取り敢えず・・・窓から大声で助けを呼んでみる?
そう思って窓を空け周りの様子を窺ってみるけれど、眼下には白い石畳、視線の先には広がる森、森、森。
うん。世界樹は・・・窓に寄って覗き込めば、なんとか見え・・・た!
とまぁ、分かったのはこのくらい───。
ッ!?───ベシッッッ!
特に収穫も無く、肩を落として窓を閉めようとしたその矢先、窓の外からヒューンッと何かが飛び込んで、私の顔面に直撃する。
「ッッイッタァ!?なに?」
咄嗟に受け止めたそれは───
こッこれは!?まさかッッ!!
「私のス マ ホ ー!!!!」
私の手の中に在ったのは、正しく私のスマートフォン。
ハッ!コレは、失くしても手元に戻ってくる機能。
ちゃんと効果あったぁぁ。
錬成してから失くしたことが無かったから、この機能が正確に発動するのかちょっと不安だったんだよね。
一度実験しようとして、部屋に置いたままにしてみたけれど何も起こらなかったし。
まぁ、持たずに出掛ける勇気が無くて、同じ敷地内での実験だったのが原因かもだけど。
それか、私が"失くした"とか"盗られた"って認識した時に発動するのかもしれない。
何はともあれ、スマホという戦力を得た。これがあると無いとじゃ、選べる手段が変わってくるもの。
極端な話をすれば、魔法の矢を使って壁に穴を空けて逃げる事も可能。
狭い部屋だと破片とか色々危険な上に、フェリオが捕まって離れ離れの今の状況では使えない手段ではあるけれど。
でも、これで少しは状況の把握が出来るというもの。
まずは、皆の安否確認からだ。
ヒトヨミの鏡の機能で撮し取った彼等のステータスを見れば、身体的に無事かどうかだけは分かる。
未だに人のステータスを見るのは抵抗があるけれど、背に腹は代えられない
えっと、皆のステータスは───
良かった。状態異常とかにはなってない。
でも、総じて体力と魔力が少し減ってる?
普通に生活しているだけにしては減少していて、かといって弱っているという程でも無い。
命の危険がある様な事態にはなっていない様だけど、一安心とまでは言えない。
うぅ~ん。どいうい状況?
まぁでも、急激に減ってるとかでは無いみたいだし、今の所は命の危険は無い、かな?
微妙な結果にモヤモヤとしたものを感じながらも、結局それ以上の事が分かる訳でも無い以上、今の段階ではそう納得するしかない。
それから次は・・・世界樹の異変。
どうしてあんな風になったのか分かれば、私も解放されるかもしれない。
私は窓からスマホを持った手を伸ばし、世界樹がしっかりと写るように写真を撮る。
こうすれば世界樹の状態が分かるはず───
───ガチャッ。
ッッッ!?
撮し取った世界樹のデータを確認しようと、スマホを見ようとしたその時、部屋の鍵が開けられる音がして、私は慌ててスマホをポケットへと隠した。
入ってきたのは、私を捕らえたエルフの老人と三人の兵士。中には見た目詐欺のソバカス兵士もいる。
「むッ?何をしておる」
「おい錬金術師!窓なんて開けて、助けを呼ぼうなんて思うなよ」
入ってきて早々、怒鳴るソバカス兵士にムッとしたものの、今はそれよりも気になる事がある。
「フェリオは、私のパートナーの妖精はどこ!?」
「そう慌てんでも、ちゃんと連れてきておるわ」
そう言ったエルフの老人の後ろに控えていた別の兵士が、フェリオが捕らえられている檻をこれ見よがしに掲げて見せる。
「可哀相に。このままでは消えてしまうかもしれんな」
「・・・脅してるんですか?」
「いやなに。お主が我々の言うことに素直に応えれば、この妖精を籠から出してやらん事も無い」
ハッキリと脅し掛けてきたこの老人、教会の人間って事は一応聖職者の括りなのよね?とてもそうとは思えないけど。
「分かりました。私も自分の状況をちゃんと把握したいですし、お話を伺います」




