滲み出す影
「あの・・・どういう───」
突然の事に全く意味が分からず、椅子から立ち上がった状態で固まる私に、その老人は構う事無く連れてきた兵士へ指示を出す。
「拘束するのだッ!」
「えッッ⁉」
老人の号令と共に控えていた兵士達が私を取り囲む。
「一体なんなんですか?拘束ってどうして──」
「フンッ!下手な芝居をしおって」
老人は偉そうに腕を組んで私を睨み付けるばかりで、何故拘束されるのか、彼等が一体何者なのか、全く何の説明も無い。
そのまま拘束されそうになり、私は慌てて離されまいとフェリオを腕の中にきゅっと抱き込む。
「フェリオ、どうしよう。この人達何者?」
「多分、アメリア聖教会の奴等だ」
「教会がなんで私を拘束するのよ?」
「知らん。どうする、強行突破するか?」
何故かも分からず拘束されるなんて絶対にお断りだが、状況が全く分からない。
他の皆は?
今日は皆それぞれ別行動で、彼等の状況が分からない事には、下手に抵抗して事を荒立てるのも躊躇われた。
それに、ウールズ側の動向も気掛りだ。
もしこの拘束がヴァトナ族長も同意の上だとしたら、ここで逃げ出せば世界樹の治療はおろか、近付く事さえ出来なくなるかもしれない。
さっき老人は“聖女を騙る“不届き者と私に言った。でも私は自分から『聖女』を名乗った事は無いし、ましてや自分が『聖女』だなんて少しも思っていない。
だからきっと、ちゃんと話が出来れば誤解は解けるはず。
「うぅん。取り敢えず大人しくしてて」
「いいのか?」
「うん。あのお爺さん以外、そこまで手荒な事はしなさそうだから」
そう。私を取り囲む兵士達は、老人の様子とは少し感じが違う。
戸惑いを乗せた視線を向ければ、少し困った様にウッと喉を詰まらせ、気不味さを隠す様にそっぽを向く。
それに、拘束しろと老人が言っているにも係わらず、彼等は未だに私を取り囲むだけで手荒な真似はされていない。
まぁ威圧感はあるし、全員が全員そうとも言えなくて、一人二人は老人と同じように私を睨み付けているんだけどね。
それに、フェリオと一緒ならいざとなれば脱出は出来そうな気がするし。
「何をコソコソと喋っておる!お主等らも早くその娘を拘束せんか!」
なかなか動かない私と兵士達に焦れたのか、老人が捲し立てる。
「退け!俺がやる」
その声に反応して、老人と同じ目をした兵士の一人がズイッと前に出てきて私の腕を掴む。
「痛いッ!」
無遠慮に掴まれた腕が痛み、つい声を上げた私に、その兵士はソバカスの浮く無害そうな顔を不快そうに歪めた。
「ヘンッ!俺には媚を売っても効かないからな。お前がどれ程の悪女か、あの方が教えて下さったからな」
はぁ?あの方がどの方か知らないけど、初対面の人間に悪女とか言われたく無いんですけど?そっちそこ無害そうな顔して、害しか無いじゃない。この見た目詐欺!!
───シャッ!!
「痛ぇッ!!ッッこのクソ猫!!」
「きゃッ!ちょっとッ!?」
私の憤りを感じ取ったのか、フェリオの猫爪がその兵士の手の甲に赤い線をしっかりと刻む。
良い気味だと思ったけれど、激昂した兵士に腕の中に居たフェリオを強引に掴み上げられ、奪われまいと追い縋った拍子にドンッと突き飛ばされた。
「イッ・・・たぁ」
「シーナ!大丈夫かッ───うわッ!?」
「おいッ!手を上げるなんて・・・」
「構わぬッッ!いいから早く拘束するのだ!」
他の兵士達が、突き飛ばされ倒れた私を見かねて手を差し出してくれたけれど、それを老人の鋭い声が遮る。
私は私で、フェリオの叫び声が気になるのに、手を差し出してくれた兵士さんの陰になってしまってフェリオの様子が見えず、そちらに気が逸れていて手を取る事が出来なかった。
「ですが・・・」
「お主等も世界樹を見たじゃろう?この娘は聖女を騙り民を惑わせた。きっと聖女様がお怒りなのだ。その娘を庇えばお主も背信者となるぞ」
「それはッ・・・いえ。わかりました」
世界樹がどうとか、聖女がどうとか、なんだか重要な事を言ってる気がするけれど、今はフェリオが気になってそれ所じゃない。
「おお。妖精は籠に入ったか。ケットシーとは言え、錬金術師だからな。一緒にしておくと逃げ出さんとも限らん」
───なッ!?あれは・・・。
「フェリオッッ!!」
私がフェリオの姿を確認出来た時には、フェリオは見たことのある六角形の檻に押し込められ、ぐったり横たわっていた。
そして私は、強行突破してでも逃げ出さなかった自分の判断を後悔する。
だってアレは・・・。
見覚えのあるその禍々しい魔道具は、あの女が使った物と同じ。
まさか、さっき私を突き飛ばした兵士が言っていたあの方って───。




