4人目
「ふぅ。世界樹、ちょっと大き過ぎ・・・今どの辺?」
「ちょっと休憩しようか」
「じゃあオレがどの辺りまで歩いたか、上から見てきてやるよ」
ナイルと共に、世界樹の裏側を目指して歩き出したは良いものの、世界樹が大き過ぎてなかなか裏側まで辿り着かない。
いや、そもそも正面の水路が見えなくなった辺りから景色が変わらないから、自分達が今世界樹のどの辺に居るのかすら分からない、が正解だろうか。
こうして歩いていると、定期的に石のベンチが配置されているのは、やっぱり休憩用なんだろうか?
出発してから幾つ目かのベンチに有り難く腰を下ろし、そんな事を考える。
今でこそ立ち入りが制限されているけれど、昔はこの辺りも人々の憩いの場になっていたのかもしれない。
フェリオを追って見上げた先には、幾重にも重なった枝の隙間から太陽の光がキラキラと射していて、綺麗だなぁと思う反面、葉が繁っていれば夏の日差しや雨も気にせず、ゆっくりと散歩できるのに、とも思う。
「綺麗だなぁ・・・」
「え?」
隣からポソリと呟かれた言葉に反射的にそちらに視線を向けると、ナイルの濃いオレンジの瞳と視線がぶつかる。
まさかこちらを見ているとは思って無くて、その視線に、その表情にドキドキしてしまう。
だって・・・頬杖を突いて微笑んでいるのは何時もの事なのに、今日はなんだか何時も以上に艶めいているというか、色気が漏れてるというか・・・。
「そッそうだよね。世界樹の隙間から射し込む木漏れ日、綺麗だよねッ!でッでもでも、やっぱり葉っぱが繁ってたらもっと綺麗だと思うんだ」
その視線になんだか居た堪れないような、ソワソワした気分にさせられた私は、サッと視線を上へと戻し、努めて普段通りの口調を意識したつもりがどうにも早口になっていた。
「うん。木漏れ日の下の姫も、葉の陰が落ちた姫も、どっちも綺麗だろうね」
そんな私の苦労を知ってか知らずか、ナイルはそう言うとクスクスと笑う。
コレはアレだ。私また揶揄われてる。
「もう!揶揄うのは止め───」
いつもなら、揶揄わないでと少し怒った素振りをすれば、ナイルは笑ってごめんって言ってくれて、それで終わりになるはずだった。
なのに、少し睨み付けてやろうと振り向いた私の視界は、間近に迫った煌めくサンストーンの瞳でいっぱいになる。
───チュッ。
軽く唇に触れたのは、ナイルの唇で───
え?・・・え?
今のって・・・キス?
「フフッ。姫、可愛い」
更に両頬にもチュッ、チュッとキスを落とされ、停止していた思考を半ば無理矢理揺さぶられた私は、顔に血が上るのと同時に、魔力がゴポポッと溢れてくるのを、諦めに似た感情と共に受け入れる事しか出来なかった。
だってこんなの、堪えるなんて無理ッ。
───ザバァァァァァァァァァ
溢れ出た大量の魔力が大きな水球となって弾け、辺り一面を水浸しにする。
にも関わらず、ナイルはいつの間にか取り出した耐水性のコートで自分と私が濡れるのを防いでいる辺り、確信犯にも程がある。
「ナイルッ!今、今のって・・・」
駄目だ。どうしてキスなんてって聞こうとすると、その光景や感触を鮮明に思い出してしまって、また水ザバァしそう。
そんな私を、ナイルが普段見せない不安気な表情で覗き込んで来る。
「嫌だった?」
「嫌じゃ無いけどッ」
ハッ!?思わず素直に答えてしまった。
いやいや。確かに嫌じゃ無いけど、そうじゃなくて。いやいやいや、嫌じゃないって何!?何言ってるの私。イヤイヤイヤ。
「フフッ。嫌じゃ無いんだ。嬉しいな」
「ッてそうじゃなくて、急にあんな事するからびっくりして・・・」
「うん、ごめんね。でも、騎士くんに虎くん、それに弟くんも。僕だけまだだったから。これ以上先を越される前にと思ってね」
たッ確かに、1カウントずつはしてるかもしれないけどッ!でも、ラインさんのは人工呼吸だったし。
「先越されるって・・・他にこんな事する人いないからッ!」
「えぇ~そうかなぁ?まぁ、それならそれが一番だけど、とにかく旦那候補四号として存在感は出しとかないとね・・・妖精くんも族長さんも候補っぽいしね」
「え?」
最後の辺りは何と言ったのか聞き取れなかったけれど、それにしても旦那候補の存在感って、そんな所で張り合わないで欲しい。
存在感というなら、キラキラしたものが常にしっかり放出されてますから!
今だって木漏れ日を浴びた銀の髪がキラキラ輝いてるし、少し垂れ気味の目元はあからさまに色気を放っているし、いつも微笑みを浮かべてる口元だってしっとり柔らかくて・・・って、うわぁッッ!?今の無し!
うっかり再び錬水の衝動に襲われそうになった私は、慌ててブンブンと首を降る。
「フフッ。今日の所は取り敢えずは成功、かな?それに世界樹の治療を手伝うって言ったでしょ?」
そう言ったナイルの視線の先には、さっきの錬水で発生した大量の水が流れ込んだ水路。
随分と盛大に溢れた水は、確かに世界樹にも大量に注がれた事だろう。
そうだ。私が創り出した水が世界樹を救えるかどうか、その検証は確かに必要だ。
だから、さっきのキスはその検証の為だったんだ。
そうだ、そうだ。だから今はそっちに集中しなきゃね。うん、そうだ、そうだ。
未だ動揺が治まらない私は、何とか平静を装おうと、世界樹に思考を集中しようとする。
「おぉ~!また随分派手にやったな」
そんな私の頭上から、戻って来たフェリオが感心したような声を上げる。
うぅ。お願いだから話を蒸し返さないで。




