取り付く島
「シーナさん?」
唐突に声を上げた私に心配そうに声を掛けるラインさんと、対照的に目をスッと細めるて値踏みするように私を見詰めるヴァトナ族長。
「ほう。貴女が世界樹を復活させられると?」
ヴァトナ族長の言葉にはどこか呆れたような響きがあって、明らかに期待して無さそう。
そりゃいくら錬金術師とは言え、ウールズの人達がずっと解決に至れなかった問題を、ぽっと出の小娘が解決できるなんて思わないよね。いや、見た目ほど小娘でも無いけどさ。
「分かりませんが、錬金術師として何か出来る事があると思います」
流石にここで「水を出せます!」って宣言する訳にはいかないから、自信過剰な錬金術師みたいになってしまったけれど、まずは賢者の柩の貸出を約束してもらう事が重要だ。
「錬金術師として、か」
どこか含みのある言い方をしたヴァトナ族長に、少し引っ掛けるものを感じたけれど、それもきっと錬金術師の悪い印象の所為だろう。
「はい。なので、もし私が賢者の柩を使わなくても良いくらい世界樹を治せたら、貸し出して貰えませんか」
私が失敗したらアクアディアの王様達を助けることが出来なくなってしまうかもと思うと、責任の重さに逃げ出したい衝動に駆られるし、ヴァトナ族長の鋭い視線を受ければ身体が強張る。
それでも、これ以外皆の願いを叶える方法はきっと無い。
「まぁ、良いだろう。何も出来なかったとしても此方に損の無い話だからな」
ヴァトナ族長が意外にも快く受け入れてくれた事に、私は驚きを隠せなかった。
だって、これだけ錬金術師が良く思われていない世界だ。世界樹に害を及ぼす可能性だって考えられるはず。
その証拠に、フィヤトラーラ様は少し不安そうな顔をされてるし。
だからこそ、私がもし世界樹の状態をこれ以上悪化させた場合、私に何らかの責が問われる事になるだろう。
提案を受け入れて貰えたのは良かったけれど、微笑を浮かべたヴァトナ族長は何を考えているか分からなくて、ちょっと不安になる。
「願い出る立場で申し訳ありませんが、私から一つ宜しいですか」
そんな私の不安を察知してか、ラインさんが一度制止するように声を上げた。
「なんだ?」
「こちらにいるシーナさんはとても優れた錬金術師です。ですが、もし世界樹になんの変化も無かった場合、もしくは治療の過程として世界樹に障りが出た場合、その責任は私が取る事を了承して下さい」
「ラインさんッ!?」
それって、私が世界樹を治療出来なければラインさんが処罰されるって事でしょう。
そんなの駄目に決まってる。
「良いだろう。貴公は我々になんの対価も払えないのだから、その位は当然ともいえるな」
「なッ!?ちょっと待ってください!」
当然と言わんばかりにラインさんの提案を受け入れたヴァトナ族長に、身を乗り出して抗議しようとした私の手を、ラインさんの手がキュッと優しく包み込む。
「シーナさん。今回の交渉において私はヴァトナ族長の言う通り、彼を説得するだけの提案を出せませんでした。なので今回も貴女に頼る事になってしまい、不甲斐ないばかりです」
「そんな事ありません!」
「では、少し言い方を変えますね。私にとって王宮で眠るあの人達はとても大切な人達です。なので彼等を助けられるかもしれない時に、自分だけ何も出来ず、なんの責も無い立場で居ることが、我慢ならないのです」
「それは・・・」
自分の大切な人を助けたいのに、もし一人だけ蚊帳の外に置かれたら、私も無力な自分に自己嫌悪するだろうし、寂しいと感じるかもしれない。
「そういう事なら・・・分かりました」
「ありがとうございます」
うぅ。でも、ラインさんの命(そこまで誰も言ってない)が掛かってるんだから、絶対に失敗出来ない。責任が重大過ぎです。
「話は纏まったようだな」
「あッ───はい。大丈夫です」
私達の話し合いを静かに待っていてくれたヴァトナ族長の声が、その場を区切る。
根気よく待ってくれる辺り、ヴァトナ族長って案外心が広いのかもしれない。
「それで、具体的にはどうやって世界樹を治療する気だ」
「一つ、試してみたい事があります。ですがその前に、世界樹が枯れている原因が分かっていれば教えて頂けますか?水不足が原因だと思っていたんですけど、魔道具を使っているとなると別の問題もあるのでしょうか」
水不足以外に原因があるとすれば、私が水をいくら創り出した所で世界樹を治す事は出来ない。
例えば病害虫の所為であれば原因を取り除かなきゃならないし、環境の変化なんかも原因かもしれない。
それに言い方は悪いけど、賢者の柩を使い人一人を犠牲にして維持されているんだ。特別な何かが必要なんだとしたら・・・。
「世界樹が枯れる原因はただ一つ。世界樹の根本から湧き出る水が減少した為だ。だが、この水は只の水ではない。神掛山の地下から流れる水脈から湧出するこの水には、大量の魔力が含まれている」
「だから前に言っただろ、魔力を多く含む水が大量に必要って」
それまで黙っていたフェリオが、ここに来て突然口を開く。
「妖精殿の言う通りだ。水と魔力、この二つが確保できれば世界樹は回復するだろうと言われている」
ヴァトナ族長も訳知り顔で頷いているけれど・・・え?本当にそれだけ?
「じゃあ、賢者の柩はどのように使われているんですか?」
「賢者の柩は・・・魔力を補う為に使われている。今まで、我々は湧き出た水を世界樹から森、森から世界樹へと循環させ、循環させる事で減少した魔力を賢者の柩の力で補うことで、世界樹が枯れる速度を遅らせてきた」
「じゃあ、魔力を多く含む水が継続的に供給出来れば───」
「あぁ。だが、それが難しい」
───うぅん。私なら、出来るかもしれない。
でも、その為にはずっと世界樹の元で水を創り続ける事になる。それだと私はカリバへ、私の帰りを待っていてくれる人達の所へ帰れなくなってしまう。
その問題さえクリアできれば───。




