旅疲れ、気疲れ
「はぁぁぁ~・・・疲れたぁ」
案内されたのは外壁と同じ白い壁に、蔓で組んだ可愛らしいテーブルや椅子という、少しちぐはぐな印象の部屋。
でも、壁面に彫られた世界樹と思しきレリーフと相まって、これはこれで異国のリゾートっぽい雰囲気かもしれない。
まぁ、異国なんだけど。いや、異世界か。
最近、自分が異世界にいるという事を忘れそうになる。
元の世界を忘れた訳では無いけれど、今の世界が何て言うか・・・しっくり、そうしっくり来るのだ。
馴染んだってこと、なんだろうか?
「大丈夫か?」
ソファに倒れ込んだままボーッとそんな事を考えていたら、心配そうなフェリオが肘置きの上から私を覗き込む様にコテンと首を傾げている。
「なにそれ、可愛い」
「はぁ?」
「んーん、何でも無い」
「・・・疲れたか」
「ちょっとねぇ。なんか緊張しちゃって」
出会い頭に睨まれた?のもそうだけど、エルフの族長様はちょっと怖そうな感じ。
そりゃ国の代表ならそのくらいでないと駄目なんだろうけど、綺麗過ぎる上にニコリともしないんだもん。
夢を見て、勢いでここまで来ちゃって、いざ目的地に着いてしまうと、さてどうやって話を切り出すべきか・・・。
勿論、道中で何も考えなかった訳じゃないけれど、『夢で見た』なんて荒唐無稽な話、どうやって切り出せば良いのか全然思い浮かばないんだよね。
ここまで来て、と自分でも思わなくも無いけど、はっきりと「こうしよう!」って所まで考えが纏まって無いから、余計に族長様の事が怖く感じたのかも。
「シーナが緊張するなんて珍しいな」
「珍しいって。普段全然緊張してないみたいじゃん」
「してないだろ?」
「してるし!案外人見知りなんだから」
「いやいや。どこの人見知りがホイホイと信者を増やしてくんだよ」
「信者って何の話?」
「アレだよ、アレ。大樹守の兵士達」
「あの人達は客人として、丁寧に対応してくれただけでしょ」
「そうかぁ?明らかにシーナの周りをウロチョロしてただろ」
「ウロチョロって。私が錬金術師な上に弱そうだったから護衛の都合上そうなっただけじゃない?」
道中確かに私の周りには沢山の兵士達がいたけれど、あのメンバーの中でどう見ても一番弱そうな私の警護を厚くしてくれたのだろう。それにこの世界の錬金術師の希少性を考えれば不自然でも無いんじゃないかな。
「エルフってのは基本的にプライドが高い。だから錬金術師とも折り合いが悪い。だから錬金術師ってのは理由にならないどころかマイナス要素だ」
「えッそうなの?」
「あぁ。錬金術師は傲慢で、森を荒らすからな」
「はぁぁぁ・・・錬金術師って、本当にどこに行っても嫌われ者なのね」
私が深い溜め息を吐くと、フェリオはハハハと乾いた笑い声を上げて苦笑する。
「ん?じゃあ私は?」
「だからソコなんだよ。シーナは誰に対してもニコニコ笑い掛けるし、基本は低姿勢だろ?それに森の木々や植物を無闇に傷付けたりしない」
「そりゃあ、わざわざ迎えに来てくれた人達に友好的に接するのは当然でしょう。それに自然を大切にするのは当たり前だし」
元の世界でも、この世界でも、森は減少傾向にある。
自然を大切に。森を守ろう。そんな価値観が染み付いている身としては、逆になんで森を傷付ける必要があるのか理解出来ない。
それに、錬金術に使う素材の大半は森に生えているんだから、恩恵を得る為にも保護するのが普通でしょ?
「いやホント。シーナみたいな錬金術師ばっかりなら良かったんだけどなぁ」
じゃあ何?元の評価が低いから、普通に対応してても好感度が上がりやすいってこと?
それって・・・なんか嬉しくないかも。いや、嫌われるよりは断然良いんだろうけど。
「その性格に加えてその容姿、しかも聖女。まぁ、落ちるよなぁ」
「え?何て?」
「んん~?いやぁ、何でもない」
「何よ」
「いやいや。ホラ、あんまりゆっくりしてると夕食の時間になるぞ。緊張は解れたか?」
「ハッ、そうだった!あぁぁどうしよう。会談は明日だけど、夕食の席で来訪の理由聞かれたら何て答えよう」
結局考えは纏まらないまま、頭を悩ませて続けた私は、夕食の時間には更にぐったりと疲れて果てていた。




