森の氷華
冷たく冴え渡った美形の眼力は、余りに鋭い。
私が驚いて足を止めると、向こうもハッとしたように視線を逸らし、胸元から取り出した銀縁の眼鏡を掛ける。
もしかしたら目が悪いのだろうか?
だから睨んでいる様な顔になったとか?
「遠い所をようこそ。我がウールズは貴女方を歓迎しよう」
「有り難う御座います。私はアクアディア王国騎士団、第7隊隊長のラインヴァルト・リバー・グトルフォスと申します」
本来ならば隣国であるにも関わらず、遠い所という辺り、ウールズの族長様はなかなか良い性格してる。
でもまぁ、それに優雅な笑みで応えてみせるラインさんも同類かもしれないが。
「私はヴァトナ・グラシエ・ミーミルグス。このミョーサダールの族長をしている。それにしても、今回はアクアディア王国の使者と聞いていたのだが、私の記憶違いだったかな?」
確かに、ラインさんを含めたアクアディアの王国騎士の他に、獣人のコウガに鬼人のナイルまでいるのだから、奇怪しな一行に見えるだろう。
「あぁ。僕と虎君の事は気にしないで。僕達は姫の護衛で来ただけたから」
「姫?」
ちょっとナイルッ!初対面の人の前で姫とか呼ばないで!見てよ、ホラ。ウールズの族長様、すっごく怪訝な顔になってるじゃない。
「私から紹介させて頂きます。彼女は我がグトルフォス家の錬金術師でシーナ殿。それからそちらが彼女の護衛のナイル殿とコウガ殿です」
ラインさん、まともな紹介ありがとうございます。
「錬金術師のシーナとパートナーのフェリオです。よろしくお願いします」
「錬金術師殿、よく来てくれた。此方こそよろしく頼む」
私が挨拶をすれば、ヴァトナ様も挨拶を返してくれたけれど、その表情はどこか探るような色を帯びている。
それは私が錬金術師だからなのか、それとも『姫』と呼ばれていたからなのか・・・私がそう呼ばせてると思われてたらどうしよう。
まぁ、錬金術師というだけで歓迎はしてくれるみたいだから良かったけど。
今回私がアクアディア王国の使者に同行した理由は、表向きはマナポーションの提供の為となっている。
ウールズでは大量のマナポーションを必要としているけれど、エルフには錬金術師はいないから調達が難しいのだ。
「では皆様の部屋へご案内致します。お疲れでしょうから晩餐まではゆっくりお休みください」
一通り挨拶が終わった所でフォルニさんが案内してくれたのは、世界樹横に建てられた一際大きな建物だった。
内部も真っ白なその建物は、教会や神殿の様な神聖な雰囲気があり、その回廊を歩くヴァトナ様の後ろ姿はプラチナグリーンの髪も相まって神々しくすらある。
そうだ。今のうちに・・・。
最近、会う人はなるべく魔力の色を確認するようにしている。
影憑や影憑に影響を受けている人は、魔力が黒紫の魔力に浸食されている。でも眼の色を隠している所為で黒紫の魔力を見落としてしまう事が多く、それでは危機管理的に駄目だろうと最近身に染みて感じていたのだ。
私がもっと早くイジャランの黒紫の魔力に気が付いていれば、ミーミルでのあの騒動もいち早く察知できたかもしれないし、皆が危険な目に合う可能性も減っただろう。
今回は最初から確認しておかないとね。
という訳でこっそり眼の色を元に戻し、ヴァトナ様を視る。
ここに来るまでにフォルニさんや大樹守の兵士達の魔力も確認済みだが、大半は緑色の魔力で次いで黄色や白色の魔力が多かった。
その中でもフォルニさんは緑魔法が得意だと自分で言っていた通り、蔓草の様な魔力がハッキリと視て取れた。
だからヴァトナ様もきっと緑色の魔力だろう、そう思っていたのだけれど・・・
「───綺麗」
思わずそんな呟きが漏れるほど、ヴァトナ様の魔力は美しかった。
青く透明な魔力はキラキラと鋭利な輝きを放ち、雪の結晶にも似たそれは花の形をしていた。
彼の周りには、氷の華が咲き誇っていたのだ。
それに・・・あれもヴァトナ様の魔力、なの?
緑、黄、赤に茶、青いのまで。
彼の魔力の外側に漂うカラフルな魔力の塊。
それはまるで意思を持っているかの様に、彼と私の間をフワフワと楽しげに行き交っていた。




