影の痕跡
「お世話になりました」
「イヤイヤ、こっちの方が世話になってしまったヨ。本当にありがとうネ」
「そうだヨ。君達が居なけれバ、この町は大変な事になっていただろうからネ」
「ホントだヨ」
見送りに来てくれた族長様方に挨拶をすると、レッキス様とテンジン翁の言葉に皆一様にウンウンと頷いている。
今回の一件は一応の決着が着いたとはいえ、なかなか衝撃が大きかったのだろう。
結局、黒豹の出没はバンリー家とその錬金術師が起こした事件だったらしい。
錬金術師の部屋から特定の魔獣を呼び寄せる魔法薬と魔石が発見され、バンリー家からは、今回の騒動で自家の価値を高め地位を磐石にし、最終的にバンリー家を頂点とした王国を築く計画が記された手紙等が発見されたという。
まさか黒豹の出没がクーデターによるものだったなんて、思いもよらなかった。
その結果、バンリー家と計画に加担した複数の家が処罰を免れないだろうとの事。
因みに、イジャランからグェイア総長に計画が露呈する事を恐れていたのか、彼女はクーデター計画を知らなかったようだ。
それでも犯した罪は重く、牢獄送りが既に決まっている。
そしてコウザは、まだ成人前である事と更正の余地があるとして観察処分になっている。
この更正の余地に関しては、私が深く関わっているのだが・・・。
バンリー家の錬金術師の部屋に魔石があった事で、今回の事件に影憑が絡んでいる可能性が浮上した為、グェイア総長とテンジン翁、それからレッキス様にのみ私の本当の眼の色について打ち明け、事件に関わった人達の魔力を視る事になったのだ。
その結果、殆どの人達が黒紫の魔力に浸食されていた。特にイジャランは青く染まった石を持ち、魔力の半分程が浸食されていたのだ。
幸い、魂源まで浸食さた人はおらず、マメナポーションで回復できた。
まぁ、それでも尚態度が変わらなかったイジャランは更正の余地無しとされた訳だけど、コウザに関してはマメナポーションを飲む前から素直に供述したこと、イジャランに洗脳に近い教育を受けていた事もあり、今回の処分となったようだ。
ただ、バンリー家の錬金術師に関しては・・・逃亡した、という事になっている。
グェイア総長達がバンリー家に突入した際、錬金術師の部屋には逃走用と思われる大きな荷物が残されていたが、本人の姿は無かったという。
けれど、その錬金術師がいつも身に付けていた宝飾品と胸元が引き裂かれた衣服一式が、まるで中の人だけを抜き取ったようにその場に残っていたらしい。
それを聞いた私はサパタ村のナミブーの最後を思い出し、ゾワリと身体を震わせた。
確証は無い。でも、状況があまりにも似すぎている。
おそらく、この事件にあの影憑が関与しているのは間違い無い。
その為、ラインさんとグェイア総長が話し合い、今後は国を越えて影憑に対応していく事が決まった。
「今回の事、感謝してもしきれなイ。我々は必ず恩を返すと約束しよウ。困った事があればいつでも言ってくレ」
「ありがとうございます、グェイア総長」
「礼を言うのは此方ダ。それに私はもう総長では無いヨ」
そう。グェイア総長は妻であるイジャランと息子コウザが犯した過ちの責任を取って総長を辞任した。本当は族長も辞するつもりだったみたいだけど、他の族長様方に強く引き留められ思い直したようだ。
だから今はグェイア総長では無く、グェイア様。そしてレッキス様が総長に就任し、レッキス総長になった。
「恩を返す為にも、またいつでも訪ねておくレ」
少々自虐的なグェイア様の言葉になんと返そうか悩んでいると、テンジン翁が場の空気を和ませてくれた。
「ありがとうございます。もしかしたら帰りも此方から迂回させて貰う事になるかもしれませんし・・・」
「キュキュッ。此方としては嬉しいけどネ。そうならない事を祈っておくヨ」
エルフの国ウールズとの関係改善が上手く行けば、ウールズとアクアディアの国境を通れるけれど、今回は関係改善を目的とした訪問じゃ無い上に、無理なお願いをしに行く訳で・・・正直難しいかもしれない。
「役に立つかは分からないガ、我々の連名で紹介状を書いておいタ。ウールズの代表に渡すといイ」
そんな不安を察したレッキス様から有難い書状を受け取り、いよいよ出発の時。
「気を付けロ」
「あぁ」
言葉少ない親子の会話も、流れる雰囲気は柔らかい。
なんだか良い雰囲気だけど少ししんみりしちゃうな・・・なんて、センチメンタルな気分に浸って馬車に乗り込んだ私に、最後にメイリンが良く通る声で見送りの言葉を投げる。
「シーナ!!ありがとう、この下着すっごく良いワ!絶対にまた遊びに来るのヨ!!」
下着って。
純血獣人用の下着を作ってあげて、それを凄く気に入ってくれたのは嬉しいけど、最後に大声で下着って!!




