親と子の距離
「その黒い毛並み・・・コウガ、なのカ?」
走り寄ってきたグェイア総長は、5メートル程離れた所で急にピタリと立ち止まると、遠慮がちに尋ねる。
けれど、コウガはそれに答えず視線を逸らしたまま無反応だ。
本人が名乗り出ない以上、私が勝手に「はいそうです」と言うのも違う気がする。
でも、あんなに遠く離れていても矢を射るのを制止したということは、グェイア総長は遠目にもコウガが黒豹では無いと確信していて、更には驚愕の中に明らかな喜びと苦悩が混ざり合ったような、複雑な父親の表情を見てしまうと、このまま何も言わないでいるのも躊躇われた。
けれど、その沈黙は意外な所から破られることになる。
「シーナさん!?」
「姫!?」
影黒豹討伐に協力していたラインさんとナイルが合流したのだ。
「何故こんな森の奥に―――ッッ怪我をしたんですか!」
「黒豹にやられたの?」
ラインさんとナイルは近づいて来るなり、私の服に着いた血を見て顔を青くする。
「あッ!違うの、これは彼の血で。私はコウガが来てくれたから、怪我一つしてないよ」
「え、コウガの弟君の?大丈夫なの?」
「取り敢えず上級ポーションを飲ませたから、傷は塞がったんだけど、意識が無くて・・・」
「上級ポーションですか?いつの間に・・・いえ、それならば問題は無いでしょう。恐らく、治療の為に急激に体力を消耗したのでしょう」
なんて遣り取りをしていたら、グェイア総長がポツリと呟く。
「やはリ、コウガなのだナ・・・」
はッ!!しまった。普通にコウガの名前呼んでた。これじゃコウガの存在を肯定したも同然だ。
どうしよう。相変わらずコウガは我関せずって感じで、グェイア総長と向き合う気は無さそうだし、グェイア総長もコウガに話し掛けるのを躊躇っているのかなかなか次の言葉は出てこない。
「えっと・・・そう言えば、影黒豹の討伐は終わったんですか?」
「えぇ、こちらに逃げた3頭で討伐完了だそうです。後はミーミルの方が確認作業を行うそうですが、私達は終了です」
「そうなんですね。二人は大丈夫?怪我とか」
「僕達は大丈夫だよ。それに姫のポーションのお陰でみんな無事だったし」
「良かった。それならもう町に戻れる?彼は安静にした方が良さそうだし。あッ!それから魔石を―――」
回収しなければ、と言おうと思ったけれど、既に討伐隊の人が魔石回収してくれていた。
そうこうしているとグェイア総長が先程の項垂れた様子から一変した、ミーミル国総長の顔で私達に頭を下げる。
「―――討伐への協力、感謝すル。それと、倅を助けて貰った事モ、恩に着ル。町に戻り次第、正式に謝意を伝えさせて欲しい」
「分かりました。それでは町へ戻りましょう」
結局、その場でコウガとグェイア総長が言葉を交わす事は無く、森を後にする事となった。
もしもこのままこの国を去る事になったら・・・。
コウガは、家族から必要とされていないって言っていたけれど、グェイア総長の様子を見る限りそんな事は無いと思う。
二人の間の蟠りを詳しく聞いた訳じゃ無いから、こんな事を思うのは無責任かもしれない。でも、私はやっぱり二人にはちゃんと向き合って欲しい。
だって結局、この世に産まれ出た瞬間から、親と子には縁が結ばれている。どんなに気付かないふりをしたって、1ミリも気に掛けない事なんて出来ないんだ。
それに、親が居るってやっぱりちょっと羨ましい。そりゃ、良い親はかりじゃ無いって事は分かっている。それでも和解できるなら、それに越したことは無いと思うんだよね。
でも、二人の和解には大きな障害が残っているのも事実。呪いの魔道具の事と、今回コウザ達が明らかにコウガを狙っていた事。
この事を話さずに和解する事は出来ない。
最悪の場合、グェイア総長の家族は・・・。
なんて、私がいくら考えた所で親子の問題なのにね。
最近、両親の事を思い出すことが多かったから、余計に気になっちゃうんだろうな。
私はコウガの背に乗って、そんな事をモヤモヤと考えながら町へと戻った。
ちなみに、森の入口でコウガが脱ぎ捨てた服を回収する事だけは忘れなかったが。




