幼馴染み
「――――――メイリン?」
コウガに抱き付いた女の子をそのままに、コウガがその名前を呼ぶ。
「そうヨ!スッゴく心配したんだかラ!でも、生きてて良かっタ。会いたかったッ」
三人掛けのソファの両端で、抱き合う男女と、それを傍観する私。非常に居心地が悪い上に、なんだかモヤモヤする。
感動の再開を邪魔したくは無いけれど、この距離でやるのは止めて欲しい。
ここはやっぱり、そーっと立ち去るべきだろうか?でも、この距離で気付かれない様に立ち去るのは至難の技。
だって、相手は気配に敏感なコウガだ。
――――――ググッ。
ソファから腰を浮かせた僅かな音にも、ほら・・・
「シーナ」
ピクッと素早く反応したコウガは、メイリンと呼ばれた彼女を押し戻し、私の手首を掴んで引き止める。
「すまなイ、驚かせタ」
「うぅん。それは全然大丈夫」
ただ・・・振り返ったメイリンさんの視線が鋭いと思うのは、私の気のせいでしょうか?
「ヤダ、人が居たノ?ねぇ、コウガ。この人誰?」
私の存在に今気が付きました、みたいな顔をしているけれど、部屋に入って来た時に一瞬目が合いましたよね?
「シーナ、コイツはメイリン。母方の従姉妹ダ。メイリン、シーナは俺の恩人ダ」
「コウガに従姉妹がいたんだ。初めまして、シーナといいます」
コウガは、ミーミルに戻る理由は無いと、親族に情は無いと言っていたけれど、こんな風に心配してくれる人がいたんだ。
そのことにホッとして嬉しく思う反面、少しの不安が過る。
「ふぅーん、恩人ねェ。ワタシはメイリンヨ。ネェ、そんな事より今までどこに居たノ?」
そんな事って。誰って聞いたのはそっちでしょうに。まぁ、行方不明だった従兄弟に久しぶりに会えたと思えば、そんな事かもしれないけど。
「シーナと居タ」
メイリンさんの態度にも思う所はあるけれど、コウガのその返事もどうなの!?
「この人とって、どういう事ヨ!」
ほら!明らかに説明不足じゃない。
「あ、えっと・・・コウガは境界の森から、アクアディア王国の私が居た町の近くの森へ出て―――」
「境界の森!?それでアクアディア王国の人達と一緒に帰って来たのネ。それなら、どうしてこんなトコロにいるノ?まだお父様に会って無いんでしょウ?」
「会う気はナイ」
「どうしテ!獣型になれなくてモ、コウガはグルバトンさんの子で間違い無いんだかラ、堂々としてればイイのヨ」
あれ?メイリンさんはコウガが獣型になれ事を知らないの?
でも、考えている事は私とほぼ同じで、コウガとお父さんを会わせたいみたい。
やっぱり、コウガの身近に居た人も、二人の関係を気に掛けていたのね・・・なんてほっこりしていたら、まさかの衝撃発言が飛び出した。
「それにワタシと結婚すればグルバトンさんだって喜んでくれるワ」
え?結婚?コウガが?この子と?
「そのつもりはナイ。俺はシーナの側に居ると決めタ」
いやいや、それじゃまるで私と結婚するみたいに聞こえちゃうよ!?コウガは呪いの魔道具の事で私に恩を感じて、私を守ろうとしてくれてるだけなんだから、もっとちゃんと説明しないと。
「なッ!?このヒト、錬金術師でショ。まさかコウガ、この人に脅されてんじゃないでしょうネ!」
錬金術師ってどれだけ印象悪いの!!
「いえ、私は脅してなんて―――」
「アタナには聞いてないノ!コウガ、どうなノ?」
「シーナは俺の恩人だと言ったはずダ。これ以上侮辱する事は許さなイ」
私の言葉を遮ってコウガに詰め寄るメイリンさんに、コウガが厳しい口調で答える。
「ッッ!?・・・分かったワ。今日は帰ル」
コウガに咎められたメイリンさんは、キッと私を睨み付けると、そのまま足早に部屋を出ていってしまった。
これぞまさに、嵐が去ったといった感じ。
「シーナ、すまなかっタ。アイツは気が短くテ思い込みが激しい所があるんダ」
「うん、そんな感じ」
コウガはそう言うけれど、本気で怒っている訳じゃ無い事は、その表情を見れば分かる。だから私もコウガの言葉を苦笑しながら肯定する。
「まぁ、錬金術師の印象が悪いのはどこでも同じだし、警戒されるのも仕方無いのかも。彼女、コウガの事が本当に心配なんだと思う」
それだけじゃない。彼女はコウガの事が好きなんだろう。初めて会った私でも、あの短い時間でそうと分かる程に。
「まぁ、心配は掛けたかもナ。この町で母と俺を気に掛けてたのは、リィリン伯母と娘のメイリンくらいだかラ」
「お母さんと伯母さんは仲が良かったんだ」
「あぁ。だから、昔よく二人で俺とメイリンを結婚させようって話してタ。アイツもそれを鵜呑みにしてたみたいだナ」
「そうなんだ」
でも、きっとそれだけじゃ無いよね。
「でもそれは昔の話ダ。メイリンは妹みたいなモノだし、今の俺にはシーナが居ル」
ジッと私を見詰めるコウガの視線が、何時もより熱を帯びている気がして、息を飲む。
駄目。待って。コウガは私に恩を返す為に私を守ろうとしてくれてて、それ以上の感情は無いはずで・・・
「え?」
そこで私は気付いてしまった。
コウガの腕に嵌められた、私が着けているのと同じデザインのバングル。そのバングルの中央に飾られた宝石の色が、淡いグレーに染まっている事に。
それは、誓いの輪という魔道具。ミーミルでは番の腕輪と呼ばれるそれは、思いが深まる程に中央の石が着けている本人の瞳の色に染まっていくという代物。
最初に嵌めた時は、無色透明だったはずなのに・・・。
それって、コウガが私の事を?
――――――バシャァァァァ
考えた瞬間、キュウッと心臓が締め付けられ、私は我慢する事も、空へ逸らす事も出来ず・・・久しぶりに部屋を水浸しにしていた。




