花蜜アイスティー
それから大通の店を窓越しに眺めながら、私達は広場を目指した。
その内、何件かは品物を見て回ったりもしたけれど、どうやらこの辺りは割りと富裕層向けのお店が多かったらしい。
グレイさんの勧めで入った服屋は完全なオーダーメイドでの予約注文制だった上に、見本に並んでいたのがパーティーに行けそうなドレスばかりで、私が普段着られそうな、形も値段も気軽な服では無かったし、宝石店なんて試着すら恐れ多くて断ってしまった。
流石、グトルフォス侯爵家のお勧め・・・。
それでも、綺麗なものを見て回るのはやっぱり楽しくて、こんな風にウインドウショッピングを楽しむのはこちらの世界に来て初めてだったから、ついついはしゃぎ過ぎてしまった。
「ふぅぅ。楽しかった」
広場のベンチに座り、一休み。
あっちこっちとフラフラお店を見ていたお陰で、思いのほか歩き回っていたみたい。
付き合わせる形になってしまった他の三人には、申し訳無かったかもしれない。
「ごめんなさい。色々と付き合わせてしまって」
ベンチに座ることもなく、美しい姿勢で私の少し後ろに控えていたグレイさんを振り返り頭を下げれば、グレイさんは疲れた様子も見せず笑顔を返してくれる。
「いえ。グトルフォス侯爵家には坊っちゃんしかおりませんでしたので、お嬢様のお供が出来て大変楽しゅう御座いました」
「本当ですか?」
「勿論で御座います。それに、シーナ様のような美しい女性をエスコートさせて頂くなど、身に余る光栄に御座いますよ」
「えっと・・・ありがとう御座います?」
「はい」
グレイさんがイケメン過ぎる!渋い色香がだだ漏れてます!!でも、"美しい"はお世辞が過ぎます。
なんて、グレイさんの神対応に感動していたら更なる神対応を見せる男達がいた。
「姫、喉渇いたでしょ?これどうぞ」
「これ、そこの店で売ってたんだ。美味そうだろ?」
ナイルは素焼きのカップを、フェリオは甘い香りのお菓子をそれぞれ私に差し出してくれる。
確かに、沢山歩いて喉が渇いていたし、小腹が空いた所に甘い香りを漂わせるお菓子はとても魅力的だ。
「ありがとう!!」
感謝を込めて満面の笑みで受け取ったそれらは、花の良い香りがした。
「これ、お花が入っているの?」
素焼きのカップの中には、薄茶色の液体にオレンジ色の花が浮いていてなんだか可愛らしい。それに、大きな葉の器に盛られた小さな丸いお菓子にもオレンジ色のソースとともに同じ花が飾られている。
「そうなんだ。こっちの花蜜アイスティーは、紅茶に甘い蜜の入った花を浸してあるんだって」
「こっちは、ちっちゃいパンに同じ花を煮詰めたシロップをかけてあるらしいぞ」
「へぇ、可愛いい・・・」
「でしょ?」
「うん。ありがとう、頂きます!」
まずはアイスティーを一口。
紅茶の風味に、ふわりと香るジャスミンの様な香りと、仄かに感じる林檎に似た爽やかな甘さが、渇いた喉を優しく潤してくれる。
アイスティーとは言っても氷は入っていないから、ちょっと生温いのが少しだけ残念だけど、これは・・・
「美味しい!!」
「うん、美味しいね。見た目も綺麗だから、姫にはピッタリだね」
「ナイル、ありがとう!」
いつもの軽口も聞き流せるくらい、このアイスティーは本当に美味しい。これはお菓子の方も期待出来そう、と考えていたらタイミング良くフェリオがお菓子を差し出してくれる。
「ホラ、こっちも早く食べてみろよ」
フェリオに促され、添えられた木製の小さな串に一口大の丸いお菓子を一つ取る。
口に入れると、アイスティーと同じくこちらも花の香りがフワリと香り、小麦粉と水を混ぜて焼いた様な、意外とモチモチした食感の生地に、先程とは違い煮詰めた濃厚な甘さの蜜が絡んでいて、なかなかどうして・・・
「こっちも美味しい!!」
「うん、美味いな」
ほぼ同時に叫んだ私とフェリオは、そのままもう一つ口に運ぶ。
「そちらは、最近ミーミルから入ってきたカモナジャンという植物の花で御座いますね。この辺りでも容易に栽培出来る上に、華やかな香りと豊富な蜜の甘さが人気で、今王都で流行っているのですよ」
「へぇ~・・・ングッ!?」
グレイさんの説明を聞きながら、更にもう一つ口に運んだフェリオが、苦しそうな呻きをあげる。
「え!?喉に詰まったの?ホラ、これ飲んでッ」
私が咄嗟に持っていたアイスティーをフェリオに渡せば、フェリオは慌ててそれを飲み干し、事なきを得る。
「もう。気を付けてよね」
空っぽになってしまったアイスティーを寂しく思いながら、それならばと私ももう一つお菓子を口に運ぶ。すると―――
「―――んんッ!?」
モチモチした生地のそれが、きゅっと喉に詰まったのだ。
「姫まで!?あぁほら、これ飲んで」
今度は、ナイルが持っていたアイスティーを私に渡してくれる。
それを受け取り、私もなんとか事なきを得た。
「シーナも人のこと言えないな」
「姫、大丈夫?気を付けてね?」
「・・・すみません」
本当に。人のこと言えない。
しかも、ナイルのアイスティー全部飲んじゃったし。
その空になったアイスティーのカップを見つめたナイルが、含みのある笑みを浮かべる。
「なんだか・・・三角関係みたい、だね?」
一瞬、何を言っているのか分からなかったけれど、色気を含んだウィンクとカップに注がれた視線で悟る。
今、フェリオが持っているのは、私が口を付けたカップで、私が今持っているのは、ナイルが口を付けたカップ・・・。
結果的に、私はフェリオとナイル、二人と間接キスをしたということ?
カァッと頬に血が上り、それと共に魔力が溢れるのを感じる。
ッダメ!ここではマズイッ!
―――――――――ザァァァァァァ・・・。
イソラの花が咲き誇る美しい広場は、王都の中心部であり、多くの人の憩いの場となっている。
その広場に突然降りだした雨は、都の人々を大層驚かせていた。
露店を広げた店主達は、まさか雨が降ってくるなんて思ってもみなかっただろう。なんとか商品が濡れないようにと悪戦苦闘している。
それでも、驚きや戸惑いは一瞬にして歓喜へと変わっていった。
「いやはや。噂には聞いておりましたが、聖女様の水浴びに遭遇出来るなど、この上ない光栄に御座いますね」
グレイさんは本当に嬉しそうだけど、ピンッと伸びたスーツが雨に濡れる様を見ると・・・申し訳ない気持ちで一杯です。




