素材屋
「さて、最初はどこを見るの?」
ナイルの手を借りて馬車を降り、私はぐるりと辺りを見回す。
王都を見て回りたいとは思っていたけれど、突然時間が出来たからなんの予備知識も無くて、これといって見たい所が決まっていないのだ。
「えっと・・・錬金術師のお店は見てみたいと思ったんだけど」
どうしましょう?とグレイさんを見れば、心得たとばかりに軽く会釈を返してくれる。
「それでしたら、このまま大通りを見ながら広場まで行き、その先の錬金工房へ向かうのが宜しいかと存じます」
流石、グトルフォス侯爵家の家令。言葉にせずとも最適な答えが返って来た。
「じゃあ、早く行こう!ホラ、あの店とかどうだ?」
そしてフェリオは、店先に鳥の足の束?をぶら下げた明らかに怪しい店を指差す。
うん。妖精云々は建前で、絶対自分が楽しむ為に人間の姿になったよね。
「気にはなるけど、怪し過ぎて入るの勇気いるかも・・・」
よく見れば、店の前に置かれた樽からは鹿の角の様なモノが何本も突き出ているし。
「あちらは薬や錬金術に使われる素材を扱う店で御座いますな」
すると、グレイさんがその店について教えてくれた。
―――なんだ、素材屋さんだったのね。
「姫は自分で素材を調達する方が多いから、馴染みがないのかもしれないね」
「確かに。それに、カリバでは素材や薬草もハリルさんの雑貨店で売ってて、専門店なんて無かったから」
「な?気になるだろ?きっと見たこと無い素材が沢山あるぞ」
見た目で躊躇したけれど、そう言われると気になってくる。錬金術のスキルアップにも繋がるかもしれないしね。
「そうだね。じゃあ、まずはあのお店から行ってみようか?」
そうして入店した素材屋の店内は、やっぱり怪しげなモノで溢れていた。
普通に見たことのある薬草もあるけれど、何かの毛束や毛皮、牙や角、瓶詰めに書かれた文字は・・・猪油。椿油とかじゃなく、猪油?
一体何に使うのか想像出来ないものばかりだ。
「姫、何か欲しいものある?」
「うーん、そうだなぁ」
お店に入ってしまった手前、何も買わずに出るのも気が引ける・・・けど、使い途がはっきりしないものを買うのもちょっと、と思って商品を眺めていると、如何にも高価な物が陳列されていそうなガラスケースの前で、フェリオが「ん?」と足を止めた。
「珍しいな、妖精花があるぞ」
「妖精花?へぇ、初めて見たよ」
「そうなんだ。やっぱり珍しいモノなの?」
「そりゃあね。見てごらんよ、この値段」
そう言ってナイルが指差した値札には、なんと金貨30枚の表示が。花弁一枚がおよそ30万・・・。
そんな高価なモノを結構気軽に使ってましたが?
あまりの高値に愕然する私とは違い、フェリオはガラスケースを横目に呆れたと言わんばかりに肩を竦めた。
「こんな萎れた花弁一枚じゃ、大して役に立たないだろうに。こんなの買うヤツいるのか?」
萎れててこの値段!?ていうか、高額商品をこんなのとか言わないように!店主がこっちを睨んでるから。
「お客様、そちらの妖精花にご興味が?」
ホラ!こっちに来ちゃったじゃない。
笑顔の裏に「素見なら帰れッ!」て言葉が見え隠れしてて、小心者な私は思わず「すみませんッ買います!」と叫んでしまいそう。
「いや~、妖精花って綺麗なんだねぇ。僕は実物を初めて見たよ。流石、王都の素材屋は品揃えが違うよね」
「―――おお!そうですか。そうでしょうとも!妖精花はなかなか入荷しないレア物ですから、見られるだけでも幸運というものですよ」
私がヒヤヒヤしていると、ナイルが気さくで好意的な態度で店主の警戒心を難なく解いていた。
ナイルはこういうの得意だよね、ほんと。
それに比べて、フェリオはその辺りのデリケートな問題に無頓着というか・・・まぁ、妖精に人間の微妙なやり取りを求めるのも酷な話、なのか?
ジトッとフェリオに視線を向けるけれど、案の定フェリオは悪びれた様子もなく、既に別の物に興味を引かれているようだった。
そんな二人を見ていると、人の反応をいちいち気にするだけ損なのかも、と思えてきた。
すると、警戒心と緊張で凝り固まっていた思考も緩んだのか、怪しいとしか思えなかったモノがちゃんと素材として認識出来るようになり・・・結果、色々と買ってしまいました。
カリバでは手に入らなかった、エッグマッシュを始めとするキノコ類、それからルイーヴァさんから貰った青銀の弓に使われていた黄金馬の尾の毛束に、透殻虫の脱殻。
特にこの透殻虫の脱殻はヤシガニを大きくした様な生物の脱殻で、透明な殻の質感がプラスチックに似ているから、色々と創れそう。
まぁ、使い途が無かったらルイーヴァさんとテオドゥロさんへのお土産にすればいいしね。
そうして、入店する前には思いもしなかった程の収穫を得て、私達は素材屋さんを後にしたのだった。




