待ち時間の過ごし方
「―――という訳で、直ぐにウールズに向かうのが難しくなってしまいました」
次の朝、朝食を摂り終えた私達にラインさんが説明してくれたのは、アクアディア王国の貴族がウールズの使者に失礼を働き、暫くの間ウールズへの行き来が出来ない、というものだった。
詳細はやはり教えて貰えなかったけれど、昨夜グトルフォス侯爵と話していた内容とほぼ一緒だ。
「ソレは、何時マデ続くんダ?」
コウガが、少し不機嫌そうに聞く。
「今日も侯爵が交渉を行っていますが・・・少し時間が掛かるかもしれません」
ラインさんは疲れたように首を振る。
「だったら、ミーミルを経由するのは?」
すると今度はナイルそう提案する。
ミーミルって確か獣人の国だったっけ?
コウガの故郷がある国。
「もちろん、ミーミルを経由する方法も検討中です。ですが、それにはミーミルへ使者を送り、事情を説明して許可を得なければなりません」
「どっちにしろ、直ぐには動けないってことか」
「そうなります」
ラインさんとナイルがミーミルを経由する話をしている最中、小さく唸るような声が聞こえて視線を向ければ、コウガが眉間にシワを寄せて嫌そうな顔をしていた。
その顔を見て、そういえばコウガもあまり家には帰りたく無さそうだったなと思い出す。
でもコウガは、嫌そうな顔はしていてもそれ以上何かを言う訳では無かった。
だから、コウガの事情も知らない私がそれを言い出すのも違う気がして、今の段階では何も言わない事にした。
「ですので、申し訳ありませんが、皆さんには暫く王都に滞在して頂く事になります。この屋敷で自由に過ごして頂いて構いませんし、町へ行くのであれば、家令のグレイに言って頂ければ馬車を用意します」
「そっか。じゃあ折角だし、アクアディアの王都を満喫しようかな。ねぇ、姫。一緒に出掛けない」
ナイルの誘いがなくとも、思いがけずゆっくり王都を見て回る時間ができたなら、是非行きたい。
来るときに見た賑やかな大通りも、露天が立ち並んでいた広場も、王都の錬金術師のお店にも興味がある。
「確かに町は見て回りたいけど・・・」
知ってる?女の買い物って長いんだよ?
私が自由にお店を見て回ろうと思ったら、きっとナイルをアレコレと連れ回してしまうから少し気が引ける。
「大丈夫。姫は好きに買い物していいからね」
私の心を読んだように、ナイルはそう言って「ね?」とだめ押ししてくる。
「そうですね。何かあってはいけませんので、シーナさんは外出する際は必ず誰かと一緒に行って下さい。私は暫く王宮の方へ通う必要があるので、ご一緒出来ないのが残念ですが」
更にラインさんにまでそう念押しされて、私もそれなら・・・と頷いた。
いつもならここでコウガが「オレも行く」って言う所だけど、何処か上の空で何事か考え込んでいる様子だった。
「―――コウガ。コウガも一緒に王都巡りに行く?」
「・・・ン?あぁ・・・いや。オレは止めてオク」
それでも、とコウガを誘ってみたものの、答えはやっぱり否だった。
「コウガ、あの・・・うぅん、何でもない」
「ソウか。すまナイ、オレは部屋で寝ル」
やはり何事か考え込んでいる様子のコウガは気になるけれど、今は誰にも声を掛けられたくない、そんな雰囲気を感じて言葉を飲み込んだ。
「じゃあ、今日は僕と町歩きデートって事で良いかな?」
そのまま部屋を出たコウガの突き放すような態度に、事情があるんだろうと分かってはいても、少しだけ寂しいと感じて気落ちした私に、ナイルがそう言って笑顔を向けてくれた。
ナイルはこういう時、いつも雰囲気を軽くしてくれる。ちょっと軽過ぎると感じる事もあるけれど、それも彼なりの気遣いなのかもしれない。
「じゃあ、しっかり王都観光してこようね」
だからと言って『デート』という単語を肯定する気は無いけれど!
「うん。王都観光デートだね」
「ただの観光です!」
「えぇ~。まぁ、一緒に出掛けられるなら、ソレで良いよ。じゃあ支度してくるから、また後でね」
えぇ~とか言いながら折れてくれたかと思いきや、『結局、デートはデートだしね』と副音声が聞こえてきそうなウインクを一つ飛ばし、ナイルは部屋を出ていってしまった。
どうしよう、錬水を我慢する自信が・・・無い。
―――そこで、ラインさんから助け船が。
「シーナさん。本当であれば私が王都を案内したかったのですが・・・今日はグレイを供に連れていって下さい。彼は王都にとても詳しいですし、護衛も出来ますから」
「それは有難いですが、グレイさんの仕事に支障は有りませんか?」
「全く問題ありません。寧ろ、シーナさんが心配で私の仕事に支障が出そうなので、是非」
そこまで心配するだろうか?と思わなくも無いけれど、きっと口実なんだろうと思う事にした。
何より、笑顔のはずのラインさんから断れない圧を感じる気がするから・・・素直にグレイさんにお世話になっておいた方が良さそうだ。
「じゃあ・・・グレイさんにお世話になります」
「はい。王都を楽しんで来て下さいね」
でも、そう言ったラインさんの笑顔はとても晴れやかで、もしかしたら気のせいだった・・・の、かも?




