入都
王都の玄関口である大きな門には、多くの馬車や旅人達が列を成していた。
その光景ですら、今まで寄った町との違いを感じさせる。
でも何よりも目を奪われるのは、王都が背負う大きな山脈。
神の肘掛山。その姿は雄大の一言だった。
王都の手前の町で見たその姿は、雨の少ないこの世界では遮る雲や霞も無く、高く聳える山の頂までもがはっきりと見てとれたが、ここまで近付いてしまうと・・・もはや壁。
天まで聳える巨大な壁にしか見えない。
あの山に聖女アメリアの神殿があるかと思うと・・・よく建てたよね、ほんと。
そんな事を考えながら行列の待ち時間を潰そうとしていた私は、グングンと近付く王都を囲む塀にその視線を遮られ、自分の乗った馬車が行列を通り過ぎスルスルと王都の門に近付いている事に気が付いた。
「あれ?並ばなくていいの?」
どうやら、多くの人が並んでいる入口とは別の門へ向かっているらしい。
「こっちの入口は主に貴族達が使う門なんだよ」
私の疑問に答えてくれたのは、ベクィナスさんだった。
「VIP専用って事ですか?」
「びっぷ?」
私の言葉に、ルパちゃんがコテンと首を傾げる。
「あ、えぇと・・・重要な人が使う門で、一般の人は使えないって事、ですか?」
「うん。まぁ、そんな感じかな」
思わず元の世界の単語が飛び出してしまった。でもそうか・・・だからこの馬車にしたのかな?
実は、私達は手前の町で馬車を乗り換えている。割と良い馬車から、グトルフォス家の家紋が付いた凄く良い馬車に。しかも御者付きで二台。
だから、私と同じ馬車にベクィナスさんとルパちゃん、それとラインさんの4人が乗り、続く後ろの馬車にコウガとナイル。更に前後には二人づつ護衛の騎士までもが付き従っている。
ラインさんは貴族だからこれが普通なのかもしれないけれど、根っからの庶民の私には、豪華過ぎて落ち着かない。
「仰々しくなってしまって申し訳ありません。今回は正門での検査をあまり受けたく無かったものですから」
「??検査?」
「はい。正門では王都へ入る際に荷物や来都理由等を開示しなければなりません」
荷物検査と入国審査みたいなものかな?
「その検査を受けたく無かったって事ですか?」
「そうです。今回は・・・」
そこでラインさんの視線がベクィナスさんへと向けられ、それを受けたベクィナスさんは申し訳無さそうに眉を下げた。
「私達がいるからね。国でクーデターが起こったばかりだから、あまり歓迎されないだろうね」
「そんな・・・」
ベクィナスさん達はクーデターによって国を追われたと聞いた。情勢が不安定な国の人間を受け入れるのは、危険と判断される可能性があるって事だろうか。
ラインさんは「申し訳ありません」とベクィナスさんに頭を下げると、今度は私の方へ視線を向けて更にこう付け足した。
「それに錬金術師は希少な人材ですから、正門でシーナさんが錬金術師だと分かれば、目を付けられるかもしれません」
まさか自分も理由の一端を担っていたとは。
「目を付けられる?誰にですか?」
「専属の錬金術師を欲しがっている貴族や、王宮の錬金術師長辺りですね。シーナさんは我が家の錬金術師として登録されていますから、下手な貴族に手出しはさせませんが、抑えきれない家も幾つか存在しますから」
確かに・・・ラインさんの家は侯爵家だから、同じ侯爵家やその上の公爵家とか、王家とか?
いくらラインさんの家が宰相を勤めているとしても、王家からの命令には逆らえないだろうし。
あれ?でも王様は臥せっているんだっけ?
まぁ、とにかくそんな事になったらラインさんの家にも迷惑を掛けてしまうし、スエー子爵みたいな人にまた押し掛けられるのは御免被りたい。
「確かに。そういうのに巻き込まれるのは嫌ですね」
「そう、ですよね。既に一番厄介な問題に巻き込んでしまっているのですが・・・」
「え?」
ラインさんが珍しく自嘲気味な表情で何事か呟くけれど、感情を圧し殺した低く掠れたその声の全てを聞き取る事は出来なかった。
「いえ、なんでもありません。ただ・・・何があろうとシーナさんの事は私が守りますから」
「ッッあ、りがとう、ございます」
―――――危うく、王都に来てすぐに雨を降らせる所だった。
ラインさんの真剣な表情に、反射的にドキッとしてしまったけれど、その真剣過ぎる表情に不安が過り、雨を降らす事は無かったけれど。
ラインさんの言葉の中で聞き取れた「厄介な問題」という単語が気になるものの、いつの間にか王都の門を通り抜け、パッと明るくなった馬車の中では既に聞ける雰囲気では無くなっていた。
「わぁぁ、見て、見て!姉さま、おっきな町!」
ルパちゃんも居るし、後でゆっくり聞いてみよう。それに初めての王都だ。不安は一旦忘れて、先ずは王都を堪能しなければ!
外に目を向ければ、そこには背負った山脈に映える白い壁とオレンジの屋根が美しい建物が整然と並び、広い石畳の通りでは何台もの馬車が行き交っている。
その通り沿いはお店が多いのか、鉄製の可愛らしい看板が吊り下がり、多くの人々が買い物を楽しんでいる姿も見てとれる。
その様子だけでも、私の心を浮き立たせるには十分だった。




