完・サラダへの道
そうして私はマナポーションを飲むフリをしながら、バンカを始め畑にある野菜に次々と品種改良を施していった。
まずはキュウリ。これはサラダに欠かせない。味噌があるからそのまま食べても美味しそう。
それからピーマンにパプリカ、トウガラシ。この世界のトウガラシは大振りで肉厚だったから、乾燥しやすい元の世界のトウガラシを作ったら、ディーノさんに思いのほか喜んで貰えた。
そして、ここからが凄い。
畑の脇に、小さなタンポポに似た黄色い花を見つけたのだ。
その植物に良く似た、元の世界のノゲシと呼ばれる雑草は、実はレタスの仲間だったりする。
コレを見付けた私は、狂喜乱舞した。そして、その知識を持っていた自分を褒めた。
だって、サラダにレタスは欠かせない。
トマトとキュウリとレタス。サラダにとってこの三種類は三種の神器といっても過言では無い。
「サラダ~サラダ~、山盛りサラダ~」
「おい。シーナ」
フンフフ~ンと鼻唄を歌いながら、次のターゲットを探していると、それまで付き合ってくれていたフェリオの猫パンチがプニッと私の頬に炸裂する。
「流石にやり過ぎだ」
「え?」
はたと気付けば、心なしかグッタリとしたフェリオと、遠巻きに此方を窺うディーノさんの姿。
どちらも先刻まで目新しい野菜に歓声を上げていたはずなのに。
「最後の方、ポーション飲むの忘れてたぞ。それに、こうも続けてじゃオレだって疲れるっての」
どうやら品種改良に夢中になり過ぎていたらしい。確かに、何時もよりもちょっと、いや・・・かなり魔力を使った感はある。
またフェリオに無理をさせてしまったようだ。
「ごめん。つい楽しくて」
「みたいだな。まぁでも、美味いもん作ってくれたら許してやってもいいぞ」
「うん。それは期待してて」
「よし!でもまずは、あの爺さんをどう誤魔化すか、だな」
フェリオに言われてそ~っとディーノさん元へと戻れば、何故かディーノさんは祈りを捧げる様に両手を合わせていた。
「あの、ディーノさん?すみません。ちょっと好きにやり過ぎちゃいました、よね?」
好きにやってみるがいいとは言われたけれど、もしかしたらディーノさんの想定以上に好き勝手やり過ぎてしまったかもしれない。
自分の畑に元雑草を植えられて怒っているのかも。
「オヌシ・・・いや、あなた様はもしや聖女様なのでは・・・」
けれどディーノさんから返ってきたのは、不満や怒りではなく、畏まった態度と言葉だった。
まさか聖女だと思われるなんて。どうしてそうなった!?
「せッ・・・聖女様だなんてッ!滅相も無いです。私は人よりちょっと魔力が多いだけの至って普通の錬金術師です」
「しかし、聖女様が素晴らしい錬金術の才と、豊富な魔力を持つのは有名な話でございます」
え?そうなの?有名な話なの?
確認するようにラインさんに視線を送れば、ただ静かに頷かれた。あぁ、そうなんだ。
「でも、私は聖女様なんて大層な者では―――」
―――その後、何とかディーノさんに畏まった態度を止めて貰えたけれど、聖女じゃないって分かって貰うのは・・・うん、諦めた。
兎に角、今は念願のサラダだ。
いつの間にか陽は高く昇り、昼御飯には丁度いい時間帯。
採れたて新鮮な野菜を使った山盛りサラダを堪能しなければ。
決して自分が「聖女」であると認めた訳では無い。ただ、サラダを優先しただけなのだ。
レタスを千切り、薄く斜めに切ったキュウリと櫛切りにしたトマトを添え、彩りにパプリカ、それから炒り卵と塩漬け肉。
ドレッシングの代わりに、レモンに似た果実の果汁と塩を少し。
それからキュウリに味噌を添え、ピーマンは肉詰めに。
「はぁ・・・野菜がこんなに。幸せ」
「楽しそうですね。確かにこれ程新鮮な野菜を食べる機会はそうありませんし、生で食べられるというのは興味深いです」
良く晴れた青空の下に準備された開放的な食卓。そこに並んだ料理の数々に幸せの溜め息を漏らせば、ラインさんもまた嬉しそう食卓を眺めている。
「これは、このまま食べるのですか?」
そんなラインさんが指差したのは、半分に切って四つ割りにしたキュウリのスティック。
「はい。これにこの味噌を少しつけて―――」
私はキュウリスティックを一本取り、味噌を少し乗せてラインさんの口元へ運ぶ。
「食べてみてください」
「えッ!?」
突然キュウリを目の前に差し出されたラインさんは、未知なる野菜に躊躇ったのかほんの少し身体を仰け反らせる。
でも、私はキュウリの素晴らしさを伝えたい一心で、更にラインさんに詰め寄って、あ~と自分の口を開けて見せる。
すると、つられたラインさんの口が躊躇いがちに開き、そこへキュウリを押し込むと、カリッと半分程がラインさんの口の中へ消えた。
「――――――とても美味しい、です」
「とても美味しい」と高評価を貰い満足した私は、そこで漸くラインさんの顔が赤い事に気が付いた。
「シーナ。今の、新婚夫婦みたいだな」
何故?と思った所でニヤニヤしたフェリオにそう指摘されて、私は一瞬で理解した。
今・・・世間一般では「あ~ん」と呼ばれるあの行為をしてしまったという事を。
「えあッ!?そんなつもりはッ―――ラインさん、ごめんなさい、その、無理矢理食べさせたみたいで。あの、これは、その・・・残りは自分で食べますから!」
手に残った残りの半分を慌てて口に放り込み、味も分からないまま咀嚼する。
「―――あッ、今のってラインの食べかけ」
―――ッッ!?そうだった!!
――――――ザバァァァ。
トドメと言わんばかりのフェリオの一言に、私の心臓と魔力がドクンッと爆ぜる。それでも咄嗟にサラダを守ろうとした結果、私の後方に小さくない水溜まりが出来てしまった。
せめてもの救いはディーノさんは家の中に居て、この光景を見られていない事くらいだろうか。
「うぅ・・・」
恥ずかしい。全てが恥ずかしい。そして気まずい。
ラインさんはラインさんで、隠すように顔を手で覆ったままだし、フェリオはニヤニヤしっぱなしだし。
そんな居たたまれない空気を変えてくれたのは、いつの間にかヒカリゴケ採取から戻って来ていたルパちゃんの歓声だった。
「うわ~キレ~イ!」
「本当だ。色鮮やかだね」
「姫、これ何?これも食べられるの?」
「―――水溜マリ?」
ルパちゃんとベグィナスさんは、生野菜特有の豊かな彩りに心惹かれたようだ。
ナイルはレタスが気になるのか、玉状のレタスの葉をペラっと捲って観察している。
そしてコウガは・・・目敏く水溜まりを発見してこちらに視線を向けてくる。
けれど、その視線は全力でスルーさせて頂きます!
「じゃッ・・・じゃあ、みんな帰って来た事だし、食事にしよっか」
ディーノさんも呼んで、皆で食卓を囲む。
未だに心臓は落ち着かないけれど、こんな時こそサラダを食べてクールダウンしなければ。
ふぅ、と呼吸を整えサラダを取り分ける。サクッとレタスをフォークで突き刺し口へ運べば、シャキシャキと軽快な歯ごたえと瑞々しい僅かな苦味。
―――コレよ、コレ。コレなのよ!
私、頑張って良かった。
ちょっと色々やらかしちゃったけど、これで全部帳消し!だよね?




