成長促進ポーション
成長促進ポーションのレシピが気になりながらも、その後はディーノさんと共にバンカの移植を手伝うことになり、結局様子を見に来た皆も一緒に夕方まで農作業に勤しんだ。
「みてみて!どろんこ!!」
最終的に泥遊びになっていたルパちゃんは、全身泥まみれになって嬉しそうだ。
・・・うん。子供らしくて可愛いと思う反面、その泥汚れをどうしようか、という懸念が・・・。
「おや、確かに泥だらけだね」
「パパもだよ!」
「あぁッ!僕もだ!」
ベグィナスさんとナイルがルパちゃんの泥を払い落とそうとして、自分達も泥で汚れていることに気付いて慌てている。
よく見れば、皆それなりに泥だらけだ。
まぁ、農作業に慣れているディーノさんは殆ど汚れていないし、私は泉の洗礼の効果のお陰で、服についた汚れも払い落とせば綺麗になる。とはいえ手や足に着いた汚れは洗い流した方が良さそうだけど。
するとディーノさんが少し呆れた様に畑に流れる水路の先を指差した。
「オヌシ等、水路の先に水浴び場がある。泥を落とすついでに水浴びでもしてくるといい」
「はーい!」
「では、お言葉に甘えて」
初夏の陽気に畑仕事をした面々は、ディーノさんの言葉に嬉しそうに従い、水浴び場へと足を向けた。
私も行こうと足を一歩踏み出し、そこでディーノさんが黄色の液体が入った瓶を取り出したのを見て足を止める。
「それが成長促進ポーションですか?」
レシピを聞かなければ大丈夫だよね?と好奇心に負けてディーノさんに駆け寄れば、ディーノさんも特に嫌がる素振りもなく私にその瓶を手渡してくれた。
「そうじゃ。これを作物に撒くと倍の早さで野菜が育つんじゃ」
倍の早さ!
「凄いですね!二十日大根なら十日で収穫出来るって事ですもんね」
「二十日大根?」
しまった。つい元の世界の野菜の名前を。
見知らぬ野菜の名前にディーノさんが食い付いてしまった。
「いや、えっと・・・例えです。例え」
「なんじゃ、例えか。それにしてもオヌシ、このポーションが気になるのか?」
「それはッ・・・気になるに決まってるじゃないですか。だって野菜が倍の早さで育つんですよ?凄いですよ!」
「そうじゃろう、そうじゃろう。都の錬金術師には全く相手にされんかったが、分かるヤツには分かるもんじゃ」
ディーノさんも錬金術師としては色々と苦労があったのだろう。自分のレシピが褒められた事が嬉しいみたい。
でも、どうして他の錬金術師達はこの画期的なポーションに興味がないんだろう。
疑問が顔に出ていたのか、ディーノさんはどこか諦めたように笑って、その理由を教えてくれた。
「このポーションは売れんのじゃよ」
「えッ!?こんなに良いものがですか?作物が早く育てば食料難にもなりませんし、水だって少なくて済むじゃないですか」
水不足に悩むこの世界で水が大量に必要な農業をするには、このポーションはとても重宝されるんじゃないの?
「農家はポーションなんぞ買わん。そんな金無いからのう。そして錬金術師は売れんもんは作らん。そういうもんじゃ」
「こんなに良いものなのに・・・」
「それにな、このポーションの素材はちと手間が掛かる上に、錬成に必要な魔力も多い。魔力の少ないワシには、作れても1日に精々この瓶3本が限度じゃ」
手間が掛かる上に必要な魔力が多いんじゃ、確かに営利目的の錬金術師達は作りたがらないだろう。
「こんなに良いものなのに!!」
グヌヌッと黄色の液体を凝視する私に、ディーノさんは少し照れたように髭を撫でると、私の手から瓶を取り上げてバンカの畝へと撒きながら、視線を落としたままで言う。
「そんなに気に入ったのなら後でレシピを教えてやるわい。じゃからオヌシも水浴びしてくるといい」
―――レシピを教えてくれる?
ぶっきらぼうな言い方だったけれど、確かにそう聞こえた。
「いいんですか?」
恐る恐る聞き返してみれば、ディーノさんは髭を撫でる手を早める。
「いいと言っておる。ホラ、さっさと行け」
突き放すような、不機嫌そうな声とは裏腹に細められたディーノさんの目に、私も自然と笑みが溢れる。
「はい!ありがとうございます。行ってきます!」
深々と頭を下げて、水浴び場へ向かう。スキップしたいくらいだけど、うっかり畑の作物を踏んでしまいそうだから我慢する。
「良かったな、シーナ。これで新鮮な野菜を作り放題だ」
私の肩で一連のやり取りを見ていたフェリオも、満足そうに頷いている。
「本当に。そうだ!これから行く先で色んな野菜の苗や種を探してみよう。成長促進ポーションがあれば、少しくらい気候が合わなくても育てられるだろうし」
「いいな、それ。そしたらまた新しい料理を作るんだろう?」
「もちろん。それにバンカが私の知ってる野菜と同じなら、それだけでも料理の幅がずっと広がるんだから」
あぁ、トマト!
美味しい上に健康にも良くて彩りまで豊かになる、まさに万能野菜!
サラダはもちろん、スープやソースに炒め物、出汁だって取れちゃうんだから。
「へぇ~。楽しみだな♪」
「うん。すっごく楽しみ♪」
私はトマト料理に思いを馳せながら完全に油断した状態で、ウキウキと水浴び場に向かった。




