続・サラダへの道
「えっと、これとか生で食べません?」
私は諦めきれず、赤いパプリカに似た野菜を手に取る。
「そいつは赤ピッパーだ。そんなもん辛すぎて生で食べたら腹痛めるわい」
これはトウガラシみたいなモノだったのね。じゃあ、町で売ってる香辛料はこれを乾燥させたものなのかな?
でもそれじゃサラダには入れられないか・・・。こんなに大きくてハリがあって肉厚なのに。
「じゃあ、こっちの緑のも辛いんですか?」
今度は小振りでこれぞ唐辛子といった見た目のものを手に取る。
「いや、そっちに辛味はないぞい。ただ苦味が強くて身が固いでな、それも生では無理じゃろな」
こっちの方がピーマンに近いのね。でも、確かに小振りで身は薄いし、触って分かる程に固い。確かにこれもサラダ向きでは無さそうだ。
「じゃあ・・・これはどうですか?まだ青いですけど、もう少し熟せば生でも食べられそうじゃないですか?」
私は諦めきれず、まだ青いトマトに似た実を指差せば、ディーノさんが残念そうに首を振る。
「そいつはバンカっていってな、最近神掛山で見つかったんじゃが、なかなか育てるのが難しいんじゃ。ホレ、そうやって熟す前にすぐ爆ぜてしまう」
このトマトみたいなのはバンカって名前なのね。でも確か、トマトが爆ぜてしまうのは水のあげ過ぎが原因だった様な・・・でもこの世界で水のあげ過ぎなんてきっと無いだろうし―――。
「・・・爆ぜるのに水分は関係無い?でもそれなら―――」
「オヌシ、何か心当たりがありそうじゃな?」
何気なく口をついた呟きに、ディーノさんの目が光る。
「いえ、以前似たような野菜を育てていた事があったので。とは言っても自家用の畑でほんの少しですが」
私の住んでいた所は、一家に一面は畑があるのが当たり前の山の中だった。
出荷するほどは作っていなかったけれど、自分の家で食べる分くらいは作っていたから、トマトやキュウリ、ナスなんかは毎年苗を植えたものだ。
とはいえ、本職の農家さんと違って「上手く実ったら食べる」くらいの感覚だったし、私は水をあげるくらいで殆どの世話は祖父がしていたから、専門的な知識は無い。
「似たような野菜を育てた経験があるなら、ちょっと畑を見てくれんか」
けれど、ガシッと私の腕を掴み、目を爛々と輝かせたディーノさんを前に、私は否と言えなかった。
その姿に最初の気難しさは微塵も感じられず、寧ろ話し相手を見つけた近所のおじいちゃんみたいだったから。
元々畑を見てみたかったのもあって、止めに入ろうとする面々に軽く手を振って大丈夫だと伝えれば、ディーノさんが振り返ってペポ君を呼ぶ。
「ペポ!そこにいるこのムスメの連れに茶でも出しといてくれ。すまんなオヌシ等、このムスメ借りてくぞい」
ルパちゃんとベグィナスさんに続き、ラインさんとナイルは苦笑しながらも、素直にペポ君に着いて行った。ラインさんもディーノさんに危険が無いと判断したんだろう。
コウガは途中まで私達に着いて来ていたかと思えば、畑の脇にある大きな木の上に落ち着いたようだ。多分、昼寝兼私の護衛といった所か。
「ほれ、あの辺りがバンカの畝じゃ」
木の上で昼寝って気持ち良さそうなどと考えていた私は、そこに広がる光景が予想と大きく違う事に驚く。
川から引いているであろう水路が、細く長く耕された畑に沿って流れ、そこからスプリンクラーの様に畑に向かって水が勢い良く放水されているのだ。
凄い。自動で水が撒かれてる。
「凄いですね。あれは魔道具ですか?」
「そうじゃ。ニコライの最高傑作じゃわい」
そう言って満足そうに目を細めるディーノさんは、視線を落として寂しげに呟いた。
「まったく、誰がこの魔道具の手入れをするんじゃ。老いぼれより先に逝ってしまうとは、困ったヤツじゃよ」
「魔道具の手入れなら、きっと大丈夫ですよ。フラメル氏には、彼の仕事を間近で見ていた優秀な錬金術師の子供が二人も居ますから」
「錬金術師?そうか・・・あの小僧、妖精と会えたのか」
ディーノさんはどうやら、トルネの事を知っているみたいだ。懐かしむ様に顎髭を撫でたディーノさんは、今日一番の穏やかな笑顔を見せてくれた。
「ならば、ニコライの子供達の為にも、旨い野菜を用意しておかんとな。さぁどうじゃ。何か気付いた事はあるかの?」
より一層やる気に満ちたディーノさんの期待の眼差しに、私も少しでも期待に添えるようにと気合いを入れ直す。
改めて畑を良く見れば、バンカの畝は一番川に近い畝に植えられていて、沢山の水を浴びている。
これだとやはり水のやり過ぎが原因かもしれない。
「そうですね・・・私が育てていた野菜は、雨が続いてしまうと、水分を吸いすぎて爆ぜてしまっていました。なので、何本か川から遠い畝に植え替えて様子をみるのはどうでしょう?」
「やはり水のやり過ぎか・・・」
ディーノさんも少なからず心当たりがあったらしい。
「このバンカは神山で見つかったと言ったじゃろ。この苗を提供してもらうのに、貴重な苗じゃから水をしっかりやって絶対に枯らすなと言われてのう。仕方無くその通りにしておったんじゃ」
神山は神聖視されているから、そこから植物を持ち出すにも色々と厄介なのかもしれない。
それを乗り越えて、こうして新しい植物を育てようとするディーノさんの熱意には頭が下がる思いだ。お陰で私はトマト(に似た野菜)にありつけるんだから。
「なかなか面倒なんですね」
「そうじゃろう?じゃが、オヌシが言う様に何本か畝を移す分には問題無かろう。これから植え替えをして、成長促進ポーションを与えれば明日には収穫できるかもしれん。今日は家に泊まって行くんじゃろ?」
いつの間にかお泊まりが決定している!?
まぁ、今日は野宿の予定だったからそれはありがたいけれど、それよりも何よりも気になる単語が聞こえたような・・・。
成長促進ポーション。軽々しくレシピを聞くのはマナー違反。でも、でも・・・それ、凄く気になります!!




