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シーナの錬金レシピ  作者: 天ノ穂あかり
レシピ5
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サラダへの道

「誰だ」


 キョロキョロと畑を眺めつつ、ジョン・ディーノさんの家の玄関をノックした私は、全く別方向から聞こえた声にビクッと肩を震わせた。

 声のした方を見れば、誰も居ないと思っていた畑から一人の老人がスッと立ち上がる。

 真っ白な髪に真っ白な髪を蓄えたその老人は、小柄ながら農家らしくしっかりとした体躯と、こちらを窺う鋭い視線がまるで―――


 アルプスでヤギを飼って暮らしてそう。

 そんな風貌の老人だった。


「何しに来た」


 つい懐かしい気持ちになって見詰めていると、老人の声に更に警戒の色が滲み、私は慌てて挨拶をする。


「すみません。私はシーナと申します」


 私の後に続いて皆が名乗り終わっても、老人は自分から名乗ってはくれなかった。やっぱり少し気難しいのかもしれない。


「あの、貴方はジョン・ディーノさんでお間違い無いですか?」

 そう確認しても「ああ」と短い返事だけが返ってきた。

 それでもどんな野菜があるのかと心躍らせている私には、そんなことは気にもならない。


「是非こちらの農場を見学させて頂きたいのですが。あッ!一応こちら、マリア・フラメルさんからの紹介状です」


 これでも一応、社会人として長年勤めた経験がある。名刺を渡すかの如くマリアさんが書いてくれた紹介状を素早く差し出せば、少しだけ老人の警戒が緩む。


「マリア・・・ニコライの嫁か。オヌシも錬金術師のようだが、ワシのレシピを覚えても金にはならんぞ」


 この世界の錬金術師が主に錬成する魔法薬や魔道具は、希少性故にどれも高額で取引されている。それがその錬金術師にのみ錬成出来る代物となれば、更に高額で取引されるに違いない。

 だからこそ錬金術師達は自分だけのレシピを考案する事に躍起になるし、それを秘匿する。

 レシピは錬金術師の命。公にされ広く使われるレシピ以外は、知識豊富な錬金術師へ弟子入りして教えてもらうのが一般的なのだ。


 まぁ、私はフラメル氏のレシピをスマホで読み取ってしまったのだけど・・・きちんと了承を得ていなければ大問題になる所だったのだ。


 翻ってジョン・ディーノさんのレシピは恐らく農業に関する物が多いはず。一般的に求められるレシピとは異なるだろうけれど、その価値は高いと思うのに。

 それこそ、軽々しく教えてくださいなんて言え無いほどに。気になるけど。


「確かにレシピも凄く気になりますが、今回は珍しい野菜が沢山あると聞いたので、それらを分けて頂きたいと思って伺いました」

「野菜を?」

「はい!できれば果菜や葉茎野菜があれば嬉しいのですがッ」


 私の圧に、気難しいディーノさんの鋭い眼光がキョトンと丸く見開かれる。


「シーナ、少し落ち着ケ」


 その様子を見かねたコウガにポンッと肩を叩かれて、少し勢いが強過ぎたかもしれないと我に返ると、ディーノさんもそれを感じ取ったのか、詰めていた息を小さく吐き出すと、視線を私の後方へと向ける。

 

「果菜なら―――あぁ、丁度が戻って来たようだ」


 老人の視線を追って目を向けた先に、トコトコと歩いてくる可愛いサロペット姿の少しずんぐりとした人影があった。

 背はトルネと同じくらいで、緑がかった肌に大きな目と大きな鼻。


 ディーノさんの妖精(パートナー)はゴブリンなのね。


 前にカリバに現れた錬金術師もゴブリンを連れていたけれど、ディーノさんのパートナーのゴブリンの方が身体が大きい。

 それにサロペットの影響なのか、マスコットみたいで可愛らしい。

 パートナーとなる錬金術師の影響なのか、そもそも相性の合う者同士がパートナーになるからなのか、錬金術師と妖精は雰囲気が似るのかもしれない。

 あの時の横柄な錬金術師のパートナーは、こんなに可愛らしく無かったもの。

 そんな事を考えていた私は、ゴブリン君が持っている物に目を奪われる。


 ―――ッッ!!


 ゴブリン君が手に持っている籠の中身・・・もしかしてアレはッ!?。


「コイツはペポ。ワシのパートナーだ」


 ペポって、サパタ村のあのペポ?見た目も味もカボチャみたいな、あの?

 まさか・・・ゴブリン君のずんぐりした姿がペポに似てるから、とか?

 気になるけれど、今はそれよりも気になるモノがあるから、ツッコまないでおく。


「こんにちは。私はシーナっていいます。こっちはパートナーのフェリオ。よろしくね。それでその籠の中身って―――」


 だってペポ君の籠に入っているのは、真っ赤なパプリカ?と小振りな唐辛子。それに瓜っぽい野菜や、爆ぜてしまってはいるものの緑のトマトらしき野菜まである。

 

「デョンノ、ヤアイ。ウマ!」


 どうやらペポ君はあまり喋るのは得意では無いらしい。でも、言いたいことは何となく伝わるから大丈夫だろう。今のはディーノさんの野菜は美味しいぞって言ったんだよね?


「本当に美味しそうね。これは生で食べられるの?」


 久しくサラダを食べていないから、美味しいサラダが食べたい。そう思って問い掛けたのだけれど・・・。


「「エッ?」」


 ペポ君とディーノさんが揃ってギョッとした顔で声を上げる。


「え?」


 何か可笑しな事を言っただろうか?


「生で食べようなんて変わった嬢ちゃんだ。じゃが、コイツ等は生で食べるようにはできとらんぞ」


 え、どうして?野菜はサラダで食べるものでしょう?

 もしかして、この世界にはサラダという概念が・・・無いの!?

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