〉トルネ~育つ初恋~
南の森に影魔獣がでた。
ねぇちゃんが拐われたかもしれない、こんな時に。
でも子供のオレじゃ、ねぇちゃんを探しに行くことはできないし、影魔獣と戦う事だってできない。すごく悔しいけど、今のオレじゃ役立たずだってちゃんと分かってる。
だからオレは、オレのできることをしなきゃいけないんだ。
家に帰ると、母さんは少しだけホッとした顔をしてオレをギュッと抱き締めてくれて、オレがポーションを作りたいって言ったら少し考え込んで、「あの人の子だものね」って困ったように、でも嬉しそうに笑ってくれた。
「いよいよ危ないと思ったら、すぐに避難するからね。分かった?」
オレにそう約束させた母さんは、ラペルと避難の準備を始めて、オレは工房でポーションを作り始める。
けど、いざ錬成しようとすると、いつもと違う町の音が気になった。
バタバタと走る靴音や、ガラガラと乱暴に引かれる荷車の音、誰かの怒鳴り声。
ドォンッて爆発音は、みんなが戦ってる音か?
爆発のせいで釜に入れた水がユラユラ揺れてるし、棚に並んだ小瓶がカチャカチャ鳴ってる。
影魔獣が町へやって来たらどうしよう。
ねぇちゃん、大丈夫かな?
この先、どうなるんだろう・・・。
ッッ弱気になるな!オレが二人を守るんだ。
俺は父さんと同じ、この町の錬金術師なんだから。
・・・でも、この町はもう・・・
そんなことばかり考えてたら、初めてポーションの錬成に失敗した。
ねぇちゃんなら、こんな失敗しない。
オレだって、ねぇちゃんが一緒なら・・・。
焦るし、悔しいし、鼻の奥がツンとする。
でも、そんなオレの肩でペレがピョンピョン飛んでパタパタするから、羽が頬にペシペシ当たる。
『チチッ♪ダイジョブ、ダイジョブ!』
―――くすぐったい。
でも、ちょっと大丈夫になったかも。
「ありがとな、ペレ・・・よし!次は大丈夫だからな。いくぞ!」
そうだ、オレは・・・ねぇちゃんに頼ってばっかりじゃ、助けられてばっかりじゃダメなんだ。ねぇちゃんに頼って貰えるくらい、強くならなきゃ。そうじゃなきゃ、あの三人に敵わない。
気合いを入れて、ポーションを10本作った所で、ラペルが工房に飛び込んで来た。
一瞬、避難するのかと思ったけど、ラペルの顔を見たら違うと分かった。
「おにぃちゃん!そとの人がね、黒いのいなくなったって!!」
それを聞いてオレは父さんの作った望遠鏡を手に、急いで湖まで走った。
そこには、確かにあの大きな影魔獣の姿は無くて、対岸に人影が集まっている。
望遠鏡で見ると湖の畔にいたのは騎士団の人達と―――コウ兄とナイルにぃちゃんも一緒みたいだ。
あの二人がいるってことは・・・いた!!
探していた人は、桟橋の上にいた。
良かった、無事だったんだ。無事、だよな?
ねぇちゃんの無事な姿にホッとするけど、なんか様子がおかしい気がする。
いつも突っかかってくる変な男がそばにいるし、あの女もいる。それに・・・なんか怪しい黒ずくめも。
―――ッッッ危ない!!
突然、あの男がねぇちゃんに向かって腕を振り上げた。しかも、その手はギラリと夕日を反射している。
思わず手を伸ばすけど届くわけが無くて、父さんの望遠鏡を落としそうになる。
けど、男の腕が振り下ろされる前に、ねぇちゃんは湖に飛び込んだ。いや、今のは・・・吹き飛んだ?
次々に湖に飛び込むにぃちゃん達。
ハラハラしながら見てたら、グッタリしたねぇちゃんが桟橋に寝かされて―――。
そこからの光景は、なんか胸がモヤモヤして・・・ねぇちゃんが起き上がっても素直に喜べなくて。
どうしてオレは、あの中にいないんだろ。
オレだって、ねぇちゃんのこと―――。
だからオレが、守りたいし助けたい。他の誰でもない。にぃちゃん達にだって負けたくない。
オレはねぇちゃんから見たらまだまだ子供だけど、ねぇちゃんは魔力がビックリするくらい多いから、きっとオレなんかよりもずっと長生きするだろ?
あと10年・・・うぅん、5年後には追い付くから。
目の前には沢山の水の玉。
ねぇちゃんが特別なのは、なんとなく知ってた。ねぇちゃんは、聖女様なのかな?
そんなすごい人のことを助けたいなんて言ったら、笑われるかな?
でも、キラキラ光る水の玉がすげーキレイで、そんなの考えるだけムダだって思えた。
オレは・・・ねぇちゃんが好きだ。
だから、大好きなねぇちゃんの為に、この町を救ってくれたねぇちゃんの為に、あと5年。
もっと勉強して、もっと強くなって、錬金術だってもっと研究して、にぃちゃん達に負けないくらい、父さんと同じくらい、いい男になってみせるから。
ラインにぃちゃんの馬に乗って帰って来たねぇちゃんは、ぐっすり寝てた。
その顔が思っていたよりも元気そうで、安心したら涙が出た。
泣くなんてカッコ悪いから、ねぇちゃんには見られたく無いけど・・・ねぇちゃんはまだ寝てるから。
今日だけだ。母さんもラペルも泣いてるから、釣られて涙が出ただけだ。
もうすぐ大人になるから、待っててくれよな、ねぇちゃん!




