火蜥蜴、救出
三人が飛び出して行ったと同時に、バキバキッと凄い音がして、木々と共に10人近い騎士団員達が影魔獣の尻尾に薙ぎ倒された。
そんな彼等を心配している暇も無く、影魔獣は私の方へと向かって再び突進してくる。その勢いに、「コイツとか言ってスミマセン!」と心の中で平謝りしていると、ナイルが私と影魔獣の間に立ちはだかる。
―――ナイル、大丈夫なの!?
その光景に、何か策があるんだろうと分かってはいても、影魔獣の巨体に踏み潰されやしないかとハラハラして見ていると、ナイルはその場に跪いて地面に手を突く。
悠長なその様子に更にハラハラしながら見ていれば、ゴゴゴゴッという地鳴りと共に影魔獣の足元が一気に沈み込み、その巨体が半分見えなくなる程の大穴が出現した。
それでも這い出そう影魔獣がバタバタと藻搔けば、ドロッとその足に纏わり付く赤々と煮え滾る溶岩が周囲に熱気を撒き散らす。
え、溶岩ッ!?サラマンダーは大丈夫なの?いや、サラマンダーだから大丈夫なのか。うん、大丈夫そう。
それでも構わず暴れる影魔獣に、元がサラマンダーだと影魔獣も火に強くなるのね、なんて感心して見ていれば、ナイルは更に周辺の土を溶岩の上から被せるように操ると、急激に冷やされた溶岩が固まったのか、影魔獣の足が完全に止まった。
「―――フゥ・・・これでどう?」
一仕事終えたと言わんばかりのナイルが、ラインさんへと視線を投げる。
「見事ですね。これなら、行けそうです」
ラインさんは感嘆の声を上げるとグッと足に力を入れ、抜き放った剣に自らの魔力を込めていく。
それは先刻までのバリバリと周囲に放出されるようなそれでは無く、剣自体が光って視える程に、濃密に圧縮された魔力だった。
光る剣とか、なんか勇者っぽい。などと感動していると、ラインさんはコウガへ目配せすると一気に駆け出し、炎を吐き出そうとする影魔獣に構わず真っ直ぐに突き進んでいく。
危ないッ!!と思ったのも束の間、いつの間にそこに居たのか、コウガが影魔獣の喉元からアッパーの要領で顎へ体当たりし、その巨体を大きく仰け反らせ、炎の息吹はガチッと閉じた牙と牙の隙間から僅かに漏れ出した程度で済んでいる。
そこでホッと一安心、なんてしている暇は無くて、今度はラインさんが仰け反った影魔獣の喉元を光る剣で一閃する。
その剣は、影魔獣の硬い皮膚をスパンッと一太刀で断ち斬り、更にもう一閃、足のつけ根にも続けざまに剣を振るう。
そうして影魔獣の胸部が斬り離されると、体当たりした勢いのまま木の幹を足場に飛び上がったコウガは、全身に風を纏って再び胸部へと体当たりする。
影魔獣の胸部がまるでダルマ落としのようにスポーンと胴体から離され、再生の為に実体から黒い靄と化したそれは、コウガの纏う風に散らされて、中から姿を現したのは―――。
―――いた!サラマンダーだ!!
私がサラマンダーを見つけたのと、サラマンダーの入った檻をコウガが器用に咥えて地面に着地したのは、ほぼ同時。
三人の見事な連携に圧倒され、只々見ている事しか出来なかった私は、コウガが私の下へと戻って来た辺りで、「あれ?」と首を傾げる。
私・・・必要無かった。
サラマンダーが居たら教えてくれと言われていたものの、そんな隙さえ無い程あっという間の出来事で、なんて言うか・・・え?あの短い打ち合わせであの連携って凄くない?いやいや、三人とも魔法とか剣とか身体能力とか、凄過ぎない!?と思うだけで精一杯、という感じだ。
「――――――凄かった、ね?」
理解の範疇を越えた凄さに、思わず疑問符が付いてしまった。
そんな私に、コウガはそうか?と首を傾げるとサラマンダーの入った檻を私の足元へそっと置くと、再び影魔獣へ向かって行く。
妖精を失った所為なのか、それとも攻撃されて激昂したのか、滅茶苦茶に暴れ始めた影魔獣に対処する為だろう。
私はその攻防が気になりつつも、先ずは救出したサラマンダーの様子を診ようとコウガの置いていった檻の中を覗き込む。
そこには、鮮やかな赤い鱗は所々剥がれ、虹色のたてがみもボロボロに擦り切れて、何とも痛ましい姿の大きな蜥蜴の妖精が、ぐったりと横たわっていた。
しかも纏う魔力はとても微弱で、その魂源は半分程黒く変色している上に、体内に黒紫の魔力を放つ小さな何かが、無数に存在している。
早く助け出そうと檻に手を掛ければ、言い様の無い不快感が全身に鳥肌を立たせ、思わず手を離してしまう。
ガシャンッと音を立てた檻の中でも、意識が無いのか、それすら反応出来ないのか、サラマンダーはピクリとも動かない。
とは言えこれ以上の衝撃を与えない様に、注意深くその檻を観察すると、その檻には鍵が取り付けられ、何処かに繋いでいたのかジャラジャラと長い鎖が繋がり、檻はうっすらと黒紫の魔力を帯びていて、それが善くない魔道具である事がわかる。
「この檻、オレが入れられてた袋と同じモノだな。まぁ、こっちの方がずっと強力だが」
フェリオが入れられていたのは、魔力を遮断する魔道具だったはず。
妖精は、この次元でその存在を維持する為に魔力が必要となる。それなのにパートナーからの魔力供給を断たれていたなんて。
「この子、大丈夫よね?妖精界に戻る事になっても、死んじゃったりしないんだよね?」
あまりにも弱々しいその姿に、このまま消えてしまうんじゃ無いかと不安になって聞けば、フェリオが力無く首を横に振る。
「コイツにはもう、妖精界に戻れるだけの魔力が残ってない。このままだと・・・消える、だろうな」
「ッッでも!魔力を補給出来れば、助かるんだよね?」
「もちろんだ。でもそれには、コイツのパートナーが必要なんだ」
「―――スフォルツァさん、か」
スフォルツァさんは、この子が消えたらどう思うだろう。いや・・・こんな仕打ちをしている時点で、こうなる事は分かっていたはず。
あの人の所に連れていった所で、この子を助けてはくれないかもしれない・・・。
元の世界でも、自分以外の存在を顧みない人を沢山見てきた。
これまでは、そんな人達に眉を顰めながら、抗議することも抵抗することも無く、ただ傍観して諦めていた。
でも今は、自分に力があると知っているから。スフォルツァさんがこの子を害そうとするなら、私がこの子を助けてみせる。
その上で、スフォルツァさんにはきっちり抗議してやろう。
その為にも、まずはこの忌々しい檻を破壊しなくては。




