油断
フィアちゃんの家を訪れてから暫く、私は数日おきに騎士団の詰所へと通っている。
目的はもちろん、被害に遇った子達への差し入れを届ける為だ。
今日のおやつはペポプリン。
かぼちゃに似たペポを加えて錬成したペポプリンは、少しこっくりとした舌触りといい、優しい甘さといい、見事にかぼちゃプリンを再現出来ている。
ペポはとても鮮やかな濃いオレンジ色をしているから、βカロテンが豊富に違いない。魔法薬としての性能以外でも、絶対身体に良いはずだ。
ちなみに、効果としては普通のプリンと余り変わらなかったけれど、特性が精神回復(微)と疲労回復(小)で、疲労回復が(微)から(小)に上がっている。
その仕上がりに満足した私の足取りは軽やかで、騎士団の詰所までもあっという間に到着し、顔見知りの騎士さんにペポプリンを預けると、代わりにこの辺りでは見たことの無い、卓球のラケットほどの大きさの、ノパノパという肉厚な葉っぱ(サボテン?)を貰って更に気分は向上していた。
「ふふ~ん。サボテンかぁ。流石に料理したことは無いけど、どんな味がするのかな~」
「―――嬉しそうダナ」
フンフフ~ン♪と鼻歌を歌いながら歩く私の隣には、こちらも機嫌の良さそうなコウガが並んで歩く。
「だって聞いた?フィアちゃん、差し入れを持って行くと、ベッドから出て自分から取りに来る様になったって!」
「アァ。良かったナ」
「うん!」
騎士さんの話によれば、被害に遇った子達の様子は、日に日に良くなっているらしい。私が直接視たわけじゃ無いから、魂源の様子までは分からないけれど、中には笑顔を見せるまでに回復した子も居るという。
まだ犯人が捕まった訳じゃないから手放しでは喜べないけれど、話をしてくれた騎士さんも凄く嬉しそうに話してくれて、何度もお礼を言われれば私が浮かれてしまうのも仕方無い事だと許して欲しい。
この調子で、みんなが元気を取り戻せたら良いな~なんて考えながら、いつもの帰り道を歩いていると、私の視界にチカッと刺さるような光が射す。
鏡に反射した太陽の様なその光を追って視線を向けると、家々が立ち並ぶ通りの向こう、家と家の間から湖に架かる桟橋が見通せた。
チカチカッと、水面の反射にしては不自然なその光に首を傾げ、そのまま視線を外そうとした私は、桟橋の上の小さな影に違和感を覚えて足を止める。
遠目に見える桟橋の上、フラフラと覚束ない足取りで歩くのは、一人の少女。
辺りに保護者らしき大人の姿は無く、長い桟橋の先にポツンと一人きりだ。
普段なら、立派な労働力として働いているこの世界の子供としては、それほど珍しくもない光景だけれど、まだ誘拐犯の捕まっていないこの状況で、しかも遠目でも分かるほどにフラフラと歩くその姿には、強い違和感と危機感を感じずには居られない。
「ねぇコウガ。あの子、ちょっと心配だから声掛けて来るね」
そう言っている間にも、少女は桟橋の先端へと近づいていて、そのまま落ちてしまうんじゃないかとハラハラする。
コウガは私が指差した方向を見て、状況を瞬時に理解したらしく、私の肩をグッと押し止めて軽く首を振る。
「俺がイク。シーナは絶対ココを動くナ」
そう言って走り出したコウガの足の早さに、確かに私が行くよりも確実だと感心し、言われた通りその場で様子を窺う。
けれど、少女の身体がグラリと傾き、湖に落下するのを見て私は咄嗟に走り出していた。
だって、湖に落ちた少女と、その少女を助けてくれるであろうコウガの為にも、すぐにでもタオルを渡してあげたい。
それに、あの少女の足取りからして明らかに体調が悪そうだ。それならすぐにでも薬が必要になるだろうから。
私は、何故コウガがここで待てと言ったのか、意味を深く考えていなかった。
走り出した私に、フェリオが必死に「待て!」と叫んでいるのを、気に止めなかった。
私達が歩いていた道は人通りが多く、人の目も届きやすい。
けれど、湖まで続く裏通りは人影も無く、物陰も多い。
だからこそ、コウガはここで待てと言ってくれたのに・・・。
フェリオが動くなと注意してくれていたのに・・・。
家と家の間を通り抜け、湖に向かう階段を下りた直後。それは一瞬の出来事だった。
不意に後ろ手を強く引かれ、反動で肩の上のフェリオが宙を舞う。
その姿が黒地に紫の刺繍の施された袋の中に消えていくのを、背後から拘束され口を塞がれた私は、薄れる意識の中でスローモーションかの様に見ていた。
また私の所為で・・・フェリオが・・・捕まっ・・・ちゃう。助け、な・・・きゃ・・・。
伸ばした手は空を切り、フェリオに届く前にダラリと力無く、私の意識と共に落ちていった。




