第98話 走馬灯
「私は先に行ってるからお兄と永遠姉さんは二人でゆっくり来てね~」
そういって美空は先に行ってしまった。
今日は待ちに待った遊園地に行く日だ。
三人で仲良く行こうと思っていたのだがどうやら美空は気を使って先に行ってしまった。
「なんだか気を使わせちゃったみたいね」
「だな。全く空気の読める妹だよ」
最近の美空は露骨に俺たちに気を使ってくれている節がある。
ありがたいんだけど俺のせいで美空が窮屈な思いをしていないかだけが心配なところではあるんだけど。
「じゃあ、私達も行く? あんまり美空ちゃんを待たせたら悪いし」
「だね。気を使ってくれるのはありがたいけど使い過ぎるのも考え物だな」
「そうね。そこまで気を使わなくてもいいのにね」
「その通りだね。でも、気を使ってもらってる側が気を使わなくてもいいって言うのはなんかなぁ~」
「言いにくいよね」
2人でそんな会話をしながら家を出る。
今度美空に気を使い過ぎなくていいと言ってみようかな?
言いにくくはあるけどあいつが今の生活を窮屈に感じてたら意味が無いし。
「空って本当に美空ちゃんのこと好きだよね」
「唯一俺のことを信じてくれた肉親だからな。俺はいつもあいつに助けられててあいつに支えられてるんだ。だから俺はそんなあいつに恩返ししたいし困っていたら助けたいって思うんだ」
「シスコン?」
「どうだろ? 確かに好きではあるけど恋愛的に好きなわけでもないし。というか恋愛的に一番好きなのは永遠だし」
「それはわかってるわよ。普段のあなたを見てればわかるし空はあんまり嘘がつけない性格だからその言葉が本当だってことはわかってるつもりだから」
「そ、そう?」
「もちろんよ。私もあなたのことが大好きだからね? 今日は三人でいっぱい楽しみましょう?」
「うん!」
2人で手を繋ぎながら遊園地に向かって歩き始める。
勿論手を重ねるだけではなくて指を絡めるタイプの手つなぎ。
所謂恋人つなぎってやつだ。
「前から思ってたけどここから最寄りの駅まで結構な距離があるわよね」
「だね~俺は永遠と歩けてるから全然気にはならなかったけど。こうして恋人と歩けるんだからこの距離を歩くくらいは苦じゃなかったし」
「……そう言うこと言うのはずるいと思う」
おっと、他意はなかったんだけど永遠がしょんぼりしてる。
でも、確かにたまに一人で歩くときは長く感じてたかな。
「で、でも俺も一人で歩いてる時はすごく長いって思ってたから同じだよ」
「……なんか、気を使ってない?」
「俺がそんな風な気遣いは苦手って知ってるだろう?」
「確かに」
「それ納得しちゃうんだ」
それはそれでなんだか複雑である。
自分で言った事ではあるんだけどさ。
「それにここ横断歩道多いしね」
「そうなのよね~空と出会ってからは一緒に登下校してるからいいんだけど去年とかは一人でずっと横断歩道前で待ってたから退屈で仕方なかったのよ」
「ここ100m間隔で横断歩道あるしね。意味わかんないよ」
「本当にね。っとまた赤信号。今日はついてないな~」
車はあまり走っていない。
走っているのは大型トラック一台位。
今日は普通に平日だから閑散としてるのはわかるんだけどね。
「ん?」
そんなことを考えているとポケットに入れていたスマホが震え出した。
美空からだろうか?
「ごめん永遠。ちょっと電話出て良い?」
「そこは許可取らなくて良いでしょ。全然良いわよ」
許可を得たところで永遠と繋いでいた手を離してスマホを取り出す。
画面に表示されているのは七海さんの名前だった。
珍しいな。
なにか問題でも起きたのか?
「もしもし? 七海さんどうしたの?」
「先輩っ! 今どこにいますか!?」
「えっともうそろそろ駅前だな。今から永遠と美空の三人で遊園地に行く予定だけど」
「すぐに家に帰ってください! 危険です」
「はっ? いったいどういう事だ?」
七海さんと電話をしていて気が付かなかったけど赤信号なのにも関わらずさっきのトラックが猛スピードで突進してきていた。
このままじゃあ二人とも轢かれる!?
「……ごめん永遠」
スマホを放り投げて永遠の体を全力で押す。
もしかしたら怪我をするかもしれないけどこのままここにいてしまったら永遠も巻き込まれてしまう。
「えっ!? 空!」
なんとか永遠を車の車線上から外したころにはかなり近くにトラックが迫ってきていた。
俺は確実に助からない。
そう悟った。
その瞬間時間が少し遅くなったような気がした。
走馬灯という奴なのだろうか?
頭の中に様々なことが浮かんでは消えていく。
浮かんでくる記憶の中のほとんどには永遠がいた。
今まで生きてきた17年間という年月の中で浮かび上がってくるのは永遠のことばかりだった。
全く俺の頭の中には永遠のことが多すぎて少しだけ自分に呆れてしまった。
「がはっ……」
次の瞬間全身を耐え難い衝撃が襲ってきた。
痛いなんてもんじゃない。
身体が宙を舞っている。
永遠は、無事か。
それだけ確認出来て安心した。
でも、これ、意識保ってらんねぇ。
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