第93話 化け物
「ふっ」
五人がかりで殴りかかってくるけど動きは完全に素人だった。
少し前に後藤さんにお願いして手合わせしてもらったときよりもこいつらは全然弱い。
弱いどころか赤ちゃんといっても過言ではないくらいに弱い。
「はぁはぁあいつの話と違うぞ!? こいつは雑魚じゃなかったんじゃないのか?」
「俺に聞かれても知らねぇよ!」
「無駄話してないで早くこいつをやっちまってあの女を攫うぞ! あっちはもうすんでるかもしれないのに」
「あっちってどっちだ? ええ?」
無駄話をしている間に俺は一人また一人と顔に蹴りを叩き込んだり腹を殴ったりしてどんどん気絶させていった。
正当防衛だろう。
少なくとも殺したりはしていない。
俺は永遠との生活を手放すつもりはない。
「くそっ、なんだこいつ化け物か?」
「だから知らねえって」
「もう三人もやられてんだぞ?」
「んなことはどうでもいいから《《あっち》》がどっちなのか教えてくれよ」
あっちって言うのが誰のことを言っているのか気になるから一人は気絶させてもう一人は意識を残しておいた。
まあ、足は動かないようにしたけど。
「お、お前は本当に何なんだよ。化け物すぎるだろ。悟の野郎が言ってた事と違い過ぎるだろ」
「やっぱりあいつの仕業か。で? さっき言ってた《《あっち》》ってのは何だ? 話してくれよ」
「はっ! 言うわけねぇだろ。せいぜいお前が苦しむ姿をみたいものだな」
「そうか。残念だ」
座っている男の手を取って指を絶対に曲がらない方向に一気に曲げる。
瞬間ぐにゃりという嫌な手の感触と骨が折れる音が聞こえる。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「どうだ? 話してくれる気になったか?」
「はぁはぁ、おま、お前なんでそんなためらいなく……」
「当たり前だろ? 俺にとってお前はどうでもいい存在だ。そんな奴がどうなろうと俺の知ったことではない。話してくれるのならやめるし話さないのならどんどんお前の指の骨をへし折っていく。さて、もう一度聞こう。《《あっち》》とはどっちのことだ?」
どうせ永遠のことなんだろうけど一応こいつの口から聞いておいた方がいい。
確信が持てたほうが今後の行動をとりやすくなる。
「そ、それでも言わねぇよ。お前みたいな化け物は手遅れになってからすべてを知って絶望すればいい」
「そうか、それは残念だ」
もう一本一気に指をへし折った。
男の汚い絶叫が響き渡る。
でも、幸いなことにここは人通りがほとんどない。
だから、こいつがどれだけ叫んでも人はこないだろう。
問題は七海さんが呼んだであろう警察が来るかもしれないという事。
「どうだ? 話す気になったか」
「わかった、話す話すからもうやめてくれぇ」
案外あっさり折れてくれた。
指二本かな?
「天音永遠ってやつを狙ってるんだ。あっちは十数人で狙ってるから無理だろうなぁ。残念だったなぁ?」
「そうか。教えてくれてありがとう」
言うと同時に座り込んでる男の顔に蹴りを入れて意識を奪っておいた。
さて、情報は吐かせたしここに長居は無用だな。
……悟の居場所も聞いとけばよかったな。
ミスったわ。
◇
「大丈夫だったの? お兄」
「ああ。傷一つ負ってない安心しろ。七海さんも美空を逃がしてくれてありがとな」
「いえいえそれより空先輩よく五対一を無傷でいられましたね?」
「素人ばっかりだったから。で、予想通り永遠の所にもかなりの人数が向かったらしい」
「それは大丈夫なんですか?」
「大丈夫。後藤さんに送迎してもらってるし何よりもボディーガードが数人ついてるからね。襲った奴らは今頃半殺しじゃない?」
俺のところに来た奴よりも不憫な目に遭っていそうだけど、どうせろくな連中じゃないからいいか。
にしても、気の毒だな。
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