第81話 似た者兄妹
「あれ? なんで美空ちゃん泣いてるの?」
「えっと、ちょっといろいろありまして」
私がリビングに戻ると泣いている美空ちゃんとそれを慰める七海さんがいた。
一体何があったのかしら。
「それよりもお兄はどうなりましたか?」
「空なら少し疲れて眠ったわよ。精神的な発作みたいでね」
「そうなんですか。先輩大丈夫そうでした?」
「ええ。すこし眠れば収まるといっていたから大丈夫だと思うわ」
でも、空が正直に話してくれてうれしかったな。
少し前の空ならきっと一人で抱え込んで悩んでいたんでしょうね。
だから今回は私を頼ってくれてう本当にうれしかった。
「そうですか。ならよかった」
「お兄はなんで発作が起こったのか永遠姉さんに話しましたか?」
「ええ。さっき話してくれたわ。一通りね」
「そうですか。お兄が……」
美空ちゃんは少し安心したかのように息をついていた。
どうやら空のことを心配していたようだ。
「じゃあ、私も自分自身のことを話さないといけませんね。お兄がああなってしまった原因を」
「わかったわ。聞かせて頂戴」
おおよそ美空ちゃんが言おうとするであろうことを私は予測できた。
きっと美空ちゃんは空と同じタイプの人間だから。
空よりはマシだとしても美空ちゃんも自責思考の持ち主だろうから。
◇
それからは美空ちゃんが話すのを淡々と聞いた。
多分七海さんはさっき同じ話を聞いていたのだろう。
美空ちゃんが言っていることにあまり反応が無いことから私は勝手にそう予測を立てる。
話の内容はやっぱり予想通りだった。
空がさっき話してくれたことの美空ちゃん視点。
空が自分を責めているように美空ちゃんも自分を責めてる。
どっちも悪くないのにどっちもが自分が悪いって。
まったく、似た者兄妹なんだから。
「やっぱり似てるわねあなたたち」
「……え?」
「空もそういってたのよさっき。自分のせいだってね」
「やっぱそうっすよね。空先輩ならそういうっすよね~」
杉浦さんは少し呆れた様子で首をすくめていた。
この子はよく空のことを理解してるのね。
少しだけモヤモヤする気持ちに目を背けてから私は続ける。
「空はずっと自分のことを責めている様子だったわ。だから今度空と話しあってみたらどうかしら? 2人で自分のことを責めあうより二人で話してすっきりしたほうがいいでしょう?」
「そうっすよ。美空さん。そのほうがお互いのためっす。美空さんも自分のことを責めていたし空先輩もそうしてるから一回話あってみたほうがいいと思うっす」
「うん。そうしてみます。お兄はやっぱり自分のことを責めてたんだね」
「そうね。ずっと責めてたわ。だから二人で話し合って頂戴」
「わかりました。ありがとうございます」
「空は私の部屋にいるから行ってきて頂戴。多分話せるから」
寝たとはいってもあの様子じゃあ深い眠りにはつけないからすぐに起きてるはず。
話をするタイミングとしては良いんじゃないかしら?
「わかりました。行ってきます!」
美空ちゃんはそういって空の元へと向かった。
残された私と杉浦さん。
なんだかちょっと気まずい。
そう言えば杉浦さんと2人っきりで話したことは無かったような気がする。
「杉浦さんは空の事をよく知ってるのね」
「まあ、多少調べてはいますし。この前も言った気がするっすけど空先輩を恋愛対象としては見てないんで安心してください。あの人は人としては魅力的だけど付き合うと疲れそうなんで。彼女にこんな事を言うのもアレですけど」
「そうね。確かに付き合ってて疲れたり呆れたりする事もあるけど空はそれを踏まえても付き合いたいと思うくらいには魅力的よ」
確かに鈍感だったり肝心なところで頼ってくれない事もあるけどそう言うところは直そうとしてくれるしわたしが困ってたらすぐに助けてくれる。
でも、私を助けようとして自分を犠牲にするのはやめて欲しいけど。
「永遠先輩は空先輩にぞっこんなんすね」
「そうね。空以外の男性と付き合うなんて考えられないわ」
絶対にありえない。
空以外にもいい男性は沢山いるっていう人もいると思う。
私もそれは否定しない。
色んな分野で空よりも優れている人なんてこの広い世界五万といるだろう。
でも、私にとっての一番は空なのだからそれ以外の男性なんてどうでもいい。
空もそう思ってくれてたら嬉しいな。
「じゃあ、もし空先輩が浮気したらどうしますか?」
「空は浮気なんかしないわよ。そんなに器用じゃないし。でも、そうね。もし仮に浮気したら……ふふふ。どうなるのかしらね?」
空は浮気なんかする人間じゃない。
そんなことは私が一番わかってる。
でももし仮にそんな事をしたなら一生私無しでは生きられない体にしてあげようかしらね。
「永遠先輩、顔がこわいっす」
「あらそうかしら?」
なんだか怯えている様子の杉浦さんをスルーして私は空の事を考えるのだった。
◇
「お兄起きてる?」
「ん? ああ起きてるぞ。というかちょうど起きた」
「ごめんね起こしちゃって」
「いやいや、ぜんぜん謝る事じゃないだろ。それより俺の方こそごめん。せっかくの勉強会なのに」
本当にあの程度で発作が出るなんて思いもしなかった。
永遠や七海さん、美空には迷惑かけてしまったな。
「いや、全然。それよりお兄聞いたよ。永遠姉さんに話したんだってね。その発作のこと」
「ああ。話した。1人で抱え込むなって前に言われたからな」
「そっか。お兄も成長してるんだね」
「まあな」
あそこまで言われて1人で抱え込もうとするほど底抜けのバカじゃない。
永遠が頼ってもいいって教えてくれたから。
「ごめんねお兄。私のせいで」
「なんで美空が謝るんだよ。何も悪いことしてないだろ?」
「ううん。お兄がずっと自分を責めてるのを知ってて見て見ぬふりしてたから。私が虐められてたせいでお兄の性格がおかしくなっちゃったから」
美空は椅子に座りながら俺の手を握って涙を流していた。
なんでそうなるんだ。
悪いのは全部俺で美空に悪いところなんてないのに。
「いや、美空のせいじゃないだろ。むしろ悪いのは俺だ。美空がいじめられてるに気づくのが遅れて美空を傷つけた」
「それこそ違うよ! 悪いのはお兄じゃない。いじめられた私が悪いしそのことを下手に隠した私が悪いんだよ! そのせいでお兄を長い間苦しめることになっちゃった」
「そんなことない。俺が悪いんだよ。俺が気付かなかったから。俺がもっとしっかりしてれば……」
2人で自分たちを責めあう。
なんで美空が自分を責めるんだよ。
どう考えても悪いのは俺で俺が居ながら美空を守ってやれなかった。
「じゃあさ、もうどっちも悪いってことにしよ。私はお兄のことを恨んでも憎んでもいない。きっとお兄もそうでしょ?」
「ああ。俺が美空を恨んだり憎んだりするわけないだろ」
「じゃあいいじゃん。次からお互いに気をつけよ? 私はもうお兄に自分を責めてほしくない。罪悪感を感じながら生きてほしくないの」
「わかった。だったら美空ももう自分を責めるのはやめてくれ。俺も美空が自分を責めているところなんか見たくないから」
「うん! これで仲直り? だね!」
「喧嘩なんかしてないけどな」
そういって俺は美空の頭をがしがしと撫でる。
こういったことは中学に上がってからはほとんどしてない気がするので久しぶりの行為である。
「もぉ~もっと優しくなでてよ~」
そう言いながらも頬が緩んでいる美空を見て安心する。
なんだか今まで抱えてきた心のつっかえが取れて気分はすごくいい。
「本当ありがとな」
「こちらこそだよお兄」
こうして俺たちは過去に決着がつけれたのだった。
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