第75話 離れない
「空今回私はすっごく怒っています」
「はい」
「なんであなたはいつも一人で何とかしようとするの! もっと私を頼ってよ!」
「ごめん」
部屋に入るなり永遠に怒られる。
永遠の怒りはごもっともだ。
だから何の反論もできないしする気もない。
「二度とこんなことしないでよ!」
「うん」
「あなたそう言いながらいっつも無理するじゃない」
「……ごめんなさい」
もっと厳しい説教を受けるかと思ったけどそんなことは無く少し怒られた程度だった。
「これ以上私を不安にさせないで」
「わかった」
俺は永遠を抱きしめながら心の中で誓う。
絶対に永遠を一人にはしないと。
それが俺が一番最初に交わしたであろう約束であり契約だから。
「空の体って見た目と違って意外とがっちりしてるよね」
「まあ、一応最近筋トレはしてるけど」
「ふ~んじゃあ服の下は筋肉ムキムキなのかしら?」
「そこまでじゃあないと思うよ。永遠は見た目通り華奢だよね。こうして抱きしめてると折れないかって心配になる」
「私はそこまでやわじゃないわよ。なんならもっと強く抱きしめてもいいわよ?」
「それは遠慮しておくよ。この強さでも十分永遠を感じられるから」
今の強さで抱きしめていても心音まで伝わってくるのだ。
これ以上抱きしめる強さを強くしても永遠に痛い思いをさせるだけだろう。
「それもそうね。私も空の心音が伝わってきて心地いいわ」
「俺もだよ」
とくんとくんと心音が伝わってくる。
その心音が少し早く感じるのは俺の気のせいなのか。
「空の鼓動すごく速くない?」
「そりゃね。大好きな彼女とハグしてるんだから鼓動だって早くなるさ」
「そうね。私もドキドキが収まらないもの」
そんなことを言い合って笑いあう。
幸せな時間だ。
こんなに幸せを感じたのは人生において初めてかもしれない。
「絶対に私から離れないでね?」
「もちろん。昔に言った通り永遠が求めない限り俺は永遠から離れない。いや、もう求められても離れないかも」
「ストーカーになるってこと?」
「そうかも」
「ふふふっ、なにそれ。心配しなくても私が空を遠ざけることなんてすることは無いわ。絶対にね」
その言葉を聞いて安心する。
美空や永遠のおかげで自己嫌悪は少しだけ和らいだけどまだまだ自分自身に自信を持てない。
心のどこかには永遠と俺は釣り合わないと言う自分がいる。
でも、もうそんなことは気にしないと永遠と付き合った日に決めたのだ。
だから俺はこの心の奥底から響く声を無視することにする。
「なら、これからもずっと一緒だな」
「そうね」
そうして束の間の幸せを味わうのだった。
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